第11話 俺は言霊の影響を憂慮する
蒼龍と残った南瓜の蔓を地面に呑み込ませて後始末をし、観客席の俺達に愛想を振り撒きながら去って行く女の子に手を振り返しながら、俺は姉さんに疑問を投げかける。
「5人それぞれの個性を生かす為にバラバラの属性を選択したって聞いたけど、そうじゃなかったんだね。5人が連携する素晴らしい言霊だったと思うけど、他の4人はみんな納得しているのかな。他にやりたいことが有ったんじゃないの?」
なんとなく草木魔法を担当した女の子や姉さんに強制されたんじゃないかと疑ってしまう。
一生に一度の魔力検査なんだから自分の思い通りに検査を受けて欲しかったなと俺は思うんだ。
「言霊を伝授したのは私だけど、無理矢理これを使えって強制した訳じゃないよ。ロミルダの敵討ちをしたいから協力してくれって、あの子達が言って来たんだから。ロミルダが愛されている証拠だね」
姉さんに弄られたロミルダが顔を赤くして止めて下さいよと抵抗する。
子供達が望んでそうしたのなら俺が口出しする事じゃないのかもしれないけど、なんとなく納得できない。
「子供達の願いを叶える為に色々と準備が大変だったんだよ。特に検査の順番。一番最初に検査を受けないとこの計画は上手く行かないと思ったから、ギルドマスターに無理言って順番を最初にしてもらったんだ。お蔭で今度ギルドマスターの頼みを聞かなきゃいけなくなっちゃった」
火行を担当した男の子の前に試験を受ける子が水魔法を使ったら、火魔法の勢いが衰えちゃうかもしれないとかそういう事?
「そうそう。まあ水魔法を使う子はそうそう居ないから、そこまで気に掛ける必要は無かったかもしれないけど、不安要素は排除しておかないとね」
姉さんの口から不安要素は排除なんて知的な言葉を聞くとは思わなかった。
だいたいいつも感覚で生きてるでしょ?
「ふっふっふ。弟よ、私だって偶には考えるんだよ。可愛い後輩達の為に頑張ったんだから、褒めてくれてもいいんじゃないかな?」
満面の笑みで詰め寄って来た姉さんからどう逃げようかと画策していると、会場内から悲鳴が聞こえた。
「あちゃ~。こちらの忠告を聞いてくれなかったか」
我が村の子の次に検査を行った女の子が悲鳴の発生源。
尻もちをついたまま後ずさりをしようともがいている。その女の子の視線の先ではその子が放ったであろう火魔法の効果で地面が焦げ、火種が残り、土塊の破片が散らばっている。
「あの状況で火魔法を使うと、会場に残っている木行の力を燃料にして自分の想定以上の火力が出ちゃうんだよ。だから違う属性の魔法を使うか、火力を抑えて火魔法を使うかと忠告しておいたんだけどね。まあ初めて会う人の忠告なんて聞かないよね。この日の為にあの子も頑張って来たんだろうから」
なんて危ない言霊を教えたんだよ。
これから魔力検査で火魔法を使う子供達には気を付けるよう注意しないと。
「今の火魔法で木行の力は使い切ってるから大丈夫。あの女の子が会場を火の場にする言霊を使用したら、木行の力を受け継いで強力な火行の場所になるんだけど、その心配は無いからね。私が教えた言霊の力はここで終了だよ」
なるほど。溜め込んだ力はここで使い切ったという事か。
それならいいって話じゃないし、これからは使用に気を付けてもらわないと。
火魔法を使った女の子には悪い事をしちゃったな。
姉さんに反省を促すよう注意しているとどこからともなくギルドマスターが現れて、やや怒気をはらんだ声を持って姉さんに話しかけた。
「おい、アリー。ちょっと話がある。あの5人の子供達を連れて俺の部屋に来い」
用件を伝えたギルドマスターは姉さんの返事も聞かずに立ち去って行った。
ちょっと怒ってる感じだけど、やり過ぎちゃったんじゃない?
「あの火魔法を使った女の子、実はギルドマスターの孫なんだよね。怒ってるとしたらそのせいだと思うけど、ちゃんと事前にギルドマスターにも説明したんだけどなぁ。仕方ないからちょっと行って来るけど、ゲオルグも一緒に行く?」
きっと怒られるのに一緒について行くのはごめんだよ。
俺はこれから父さんとお城に行ってアプリちゃんの魔力検査を見学しに行くんだから、ギルドマスターに捕まっている暇は無いんだよ。
「ああっ、そうだった、忘れてた。私も見に行きたいなぁ。ギルドマスターの所へ行くのは後回しでいいかな」
それは駄目じゃないかな。
逃げたら逃げたで怒りが増すと思うから、さっさと行ってすぐに話を終わらせた方がいいんじゃない?
「う~ん。わかった。すぐに行って来るから、お城の前で父様と待ってて」
走り出した姉さんの背中に向けて声を送る。
待つのは良いけど、時間になったら王城に入るからね。
姉さんから返事はなかったけど、大丈夫かな。
俺は後に続く子供達の魔力検査で姉さんが考えた言霊の影響が無くなっていることを確認してから、競技場を立ち去った。




