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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第3話 俺は冒険者ギルドへついて行く

 姉さんのヴルツェルへ行く発言から翌日、今日は父さんに引っ付いて朝から冒険者ギルドにやってきた。

 他の街への連絡手段を見学するのが目的。姉さんとマリー、マルテもついてきている。


「ではこれから冒険者ギルドに入るが、基本的に大人の職場だ。騒いだりして邪魔をしないように」


 父さんが忠告する。大丈夫大丈夫、大人しくしてるよ。姉さん達も頷いている。


 重々しい扉をゆっくりと開ける。扉が少し動いただけで、隙間から内側の喧騒が押し寄せてきた。

 外に居る時には聞こえなかったのに。ギルドの建物は遮音性に優れているようだ。


 冒険者ギルドには朝早くから多くの冒険者が集まっていた。人族、ドワーフ族、獣人族、各々特色のある武器防具を身につ、依頼の準備をしている。エルフ族と魚人族は見当たらない。


「おう、こんなガキがギルドに何のようだ。ここは託児所じゃねえぞ」


 黙ってキョロキョロしている俺達に、大柄の人族が絡んできた。仲間らしき人達もニヤニヤしている。みんな赤ら顔だから、朝から飲んでるのかな。


「朝早くからお邪魔して申し訳ない。子供達にギルドの通信魔導具を見たいとせがまれてね。用事が終わったら直ぐに退散するから、ちょっと通してくれないか?」


 ふむ、父さんと比べると大人と子供くらい体格差があるね。その父さんは少し戯けた様子で話しをしている。大丈夫かな、父さんは強く見えないから心配になる。


「はっ、いい歳して子守か。大した才能の無い奴がする仕事だ。無能な奴を見ると気分が悪くなる。さっさと出て行け」


 話終わる間際、仲間の1人が飲み切った酒瓶を父さんに投げつけた。威嚇のつもりだったんだろうか、ゆっくりとした放物線を描いて父さんの頭に当たるコース。父さんは避けずに風魔法を使って華麗にキャッチした。

 掴んだ酒瓶を近くのテーブルに置いて、絡んできた集団に向かい合う。


「子供に当たったらどうする。割れたカケラで子供が怪我をしたらどうする。しばらく来ないうちに王都の冒険者ギルドは馬鹿しか居なくなったようだな。どっちが無能か証明してやろうか?」


 おおう、父さんが怒っている。俺が川に落ちた時以来じゃないかな。向こうもやってやるよと興奮している。

 お酒が入って気が強くなっているだけだよ。危ないから無視しようよ。姉さんも煽らないで。


「私の旦那と子供達に、何か用かしら。用があるなら私が対応するわよ」


 俺たちが入ってきた扉の方から声が聞こえた。この声は母さんだ。


 振り返ると母さんが怒った顔で仁王立ちしていた。

 その渋面よりも目立っているのが身につけている装備。首から足の先まで金ピカの重装備。頭に被るはずの兜は小脇に抱えている。腰に付けている剣も宝石が散りばめられて装飾過多だ。儀礼用の装備だと言われても納得する。


 趣味わ。

 ぽろっと口に出す途中でマルテに止められた。あぶねぇ、怒りがこっちに向くところだった。

 母様カッコいいと姉さんが褒めている。うん、それが正解だよね。


「なんだてめえ。趣味悪い装備身につけやがって。そんなにキラキラしてたら魔物に真っ先に狙われるぞ。子供の次は素人かよ。ここのギルドの質も落ちたな」


 あの人すごいな。母さんからのヘイト、敵対心を効率よく回収している。きっと優秀な前衛職に違いない。無謀だとも言えるけど。


「子供達に自慢しようと思って、わざわざ重いのを我慢して来たのに。悪趣味で、わ、る、かっ、た、わ、ねぇ」


 母さんの周囲で風が渦巻き、綺麗な髪が風に巻き込まれて暴れている。メデューサの蛇を連想させるその姿は、父さんが怒る姿よりも珍しい光景だ。


「お、おい、やべえよ。あれは“暴風”だ。俺はあいつに反抗して切り刻まれたやつを知っている。お、俺たちもそうなるぞ」


 酒瓶を投げて来たのとは別の冒険者が母さんを知っていたようで恐れている。そうだぞ、怖いんだぞ、早く誤って逃げろ。


「ぼ、“暴風”は魔導師だろ。何で魔導師があんな役に立たないクソ重装備をしてるんだ。“暴風”に見せかけた偽物に決まってる」


 ああ、もう逃げろよ。何でさらにヘイトを集めるんだよ、職業病か?

 仲間に敵意が向かないように引きつけてるんだったら、あんた優秀だよ。

 野次馬だった他の冒険者達はいつのまにか避難をしている。誰かこの人を止めてよ。


「また言ったなぁ。お前のその閉じない口を切り裂いて、永遠に閉じられない様にしてやろうか?」


 母さんの頭もメデューサを超えて、怒髪天を衝いている。もうだめだ。せめて苦しまないようにお願いします。


「ちょっと待てリリー、ギルド内で人殺しすんな。男爵も傍観してないで、嫁さんを止めてくれ」


 母さんが魔法を使おうとしたその瞬間、ギルドの奥から走って来た禿頭が割って入った。


「ちっ、髪の毛を根元から切り刻んでやろうと思ったのに。ツルマスには効果無いじゃない」


「俺はギルマス、ギルドマスターだ。そもそも髪を剃った原因はリリー達だろ。リリーのクランが問題ばかり起こすからハゲて来たんだぞ」


 うちの母がすみません。

 何やってんだよ母さん、ちょっと恥ずかしいぞ。父さんも笑ってないでなんとか言ってよ。


「なるほど、ツルっとマスター」


 なんで閃いちゃったの?そんなことを大声で発言しないで姉さん。


 姉さんが投げた笑いの波紋は、あっという間にギルド内を包み込んだ。みんな笑いを堪えて震えている。ギルマスは真っ赤な茹で蛸だ。


 うちの姉がすみません。

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