第5話 俺は侯爵家の謝礼品を手放す
レナーテさんの治療と引き換えに、ローラントさんが侯爵家に預けていた物がお礼として男爵家に譲渡された。
それは、2つの魔導具。
侯爵家の方々も使い方は聞いていないという。
ローラントさんが持っていたと言うからかなり怪しい魔導具だと思う。絶対に起動させる前に中の魔石を調べた方が良い。俺じゃなくて、王都のソゾンさんにお願いしてしっかり調べてもらった方が。
父さんも俺の意見に賛同してくれたが、1人、いや1匹だけ異論を唱えた奴がいた。
『要らないのなら全部私が食べてやるぞ。ちょうど腹が減っていたところだ』
ダメに決まってるだろ。ここ最近ずっといい肉を食わせているんだから、これをアミーラに食べさせる必要は無い。
『ゲオルグはケチだな。2つも有るんだからどちらか1つは食べさせてくれてもいいと思うぞ』
ケチで結構。これは大事な物なんだからダメ。この前みたいな緊急時でもなきゃ食べさせないからな。
ならば緊急時を作るまで、とかぶつぶつ言っているアミーラから逃げ出して、俺は魔導具を父さんに預けた。
さっさとアミーラの手の届かないところに運んでもらおう。
ただ、アミーラが興味を示した事でこの2つの魔導具が闇魔法の魔導具なんだという事は想像出来た。
恐らく、アプリちゃんに何かするために用意した魔導具だろう。
本当なら俺が直接ソゾンさんの所へ持って行ってあれこれ相談しながら一緒に調べたいんだが、残念ながらまだ村から出る許可が出ていない。
父さんには俺の考えを伝えてある。上手くソゾンさんと話してもらって、どういう魔導具なのか調べてもらおう。あまりにも危険な魔導具ならば、魔吸と同様にソゾンさんに管理してもらう必要もあるからな。
レナーテさんに回復魔法を施した翌日。
侯爵家の方々とコンラートさんは馬車で帰って行った。
父さんとニコルさんは高速艇で既に王都へ向かっている。
俺はその人達を見送りながら、アミーラが村を抜け出さないように見張っている。
『そんなに見つめられたら照れるんだぞ。いくら私が可憐で素敵だからと言って、種族が違うから恋人にはなれないんだぞ』
何を言っているんだ。
アミーラが魔導具の後を追わないように監視しているだけだよ。
『なんだそんなことか、つまらん。あれは食べるなと言うからちゃんと我慢しておるだろうが。何度も何度もしつこいぞ』
はいはい、悪かったよ。じゃあアミーラを信じるからな。
『うむ、任せておけ。毎日欠かさず肉が食えるなら、ここを出て食料を探しに行く必要は無いからな』
まあアミーラに肉を食べさせる許可は父さんから貰ってるからそれはいいんだけど。
朝昼晩おやつと4食肉を食っていて良く飽きないな。
『私は肉食の魔物だからな、飽きる飽きないの問題では無いのだぞ。肉は私の栄養源だからな。後は偶に魔石を食べさせてもらえたら私は更に健康的に生活出来るんだが。この辺りには良質の魔石を体に宿している魔物が居ないから、自分で狩りに行くことも出来ないしな』
魔石は食べた方が良いのか?
『まあな。魔石を飲み込んで魔力を吸収すると体に力が漲るのだ。あの時に食べた魔石のお蔭で、私の毛並みはこんなにも美しく滑らかになったんだ。手触りが良くなったとロジーも褒めてくれたぞ』
そりゃよかったな。
アミーラは相変わらずロジーちゃんに撫でられるのが好きみたいで、よく膝の上で丸まっているのを目撃する。しかしロジーちゃん以外には触らせないから、誰もその手触りを確認出来ない。無理矢理触ろうとすると尻尾で叩かれて、電撃で軽く痺れるんだ。そろそろ俺は触っても良いんじゃないかと思うくらい肉を食わせてるけどな。
『ここから持ち去った魔石を食べさせてくれるのなら、触らせてやることを考えなくもないぞ』
はいはい。あれは絶対に食べさせないから、俺は一生アミーラの毛に触れませんね。
後日、王都から手ぶらで帰って来た父さんはソゾンさんと話した内容を教えてくれた。
「どちらも闇魔法の魔導具ではあったが、ソゾンさんの祖父が作った物とは少し違うそうだ。なんでもお爺さんがドワーフ言語を刻む時に必ず行う癖みたいなものが、その魔導具の魔石には無かったとか」
ドワーフ言語を書き始める時はこの文字からとか、書き終わりには必ずこの文字を入れるとか、何となく個性が出るらしい。特に何度も同じ人の魔導具を観続けていたらその違いに気が付くんだろう。
お爺さんが敢えてその癖を排除して作り上げた可能性もあるが、まったく違う他の人が作った可能性の方が高いだろうな。
「1つは魔石内に溜め込んだ魔力を少しずつ他者に分け与える為の魔導具。もう1つは他者の魔力の流れを制御する為の魔導具だそうだ。どちらも対象者は1人、射程距離はそれほど長くないだろうと言っていた」
魔力の流れを制御って、それを使われた者は魔法が使えなくなるってこと?
「一応試させてもらったが、本気で無理矢理発動させようとしたら出来る、という程度には魔法を制限されるな。未熟な子供なら完全に魔法が使えないようになると思うぞ。まあそういう危ない物だったから、ソゾンさんに預かってもらった。それで良かったんだろ?」
うん、うちの村に有っても使いようが無いしね。
いつかソゾンさんの所へ行けるようになったら書かれているドワーフ言語を観させてもらおう。
ローラントさんはこの2つの魔導具を使って、アプリちゃんの魔法習得を制限しつつ保有する魔力量を高めようとしていた、という事か。
それが回復魔法の習得に役立つと信じて。
もはやその行動が思い通りの結果を生んだかは解らないが、闇魔法の魔導具を使って何かをしようとしている人が居るんじゃないかと、俺は漠然と考えるようになった。




