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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第71話 俺は回復魔法の魔導具を使用する

 斬りつけられた腹部からの出血により命が失われそうになっている男性に、俺はエステルさんの回復魔法を封じ込めた魔導具を使用した。


 魔導具1つで傷口は塞がったが、失った血液は戻っていない。全員の血色が悪く、弱々しい呼吸が死期の近さを感じさせる。


 もう1回。


 俺はリュックから同じ魔導具をもう1つ取り出して使用した。


 よし、これで無くなった血液が戻ったな。粘膜の血色が改善してきている。アプリちゃんの為にもしっかり呼吸して命を長らえてくれよ。念の為、更にもう1つ使っておくからな。


「か、回復魔法の魔導具だと?」


 一連の作業を黙って見守っていたローラントさんが言葉を震わせる。


 ええ、回復魔法です。貴方が欲している回復魔法を俺も利用できるんですよ。


 アプリちゃんを傷つけずに解放してくれたら、ローラントさんにも使わせてあげますよ?


「ふん、そんな魔導具など必要無い。アプリが覚醒したらその命尽きるまで魔法は使い放題だ。ここでアプリを手放す理由にはならない。俺はこのままアプリを連れてここを出る。お前はそこで死にぞこないの看病でもしているんだな。猫も動くなよ」


 そうローラントさんが宣言して扉の方へ向いた時、部下2人を連れた護衛隊長が入室して来た。


 ちっ。こっちで騒ぎが起きている事に気づいて引き返して来たのか。人数差があるとはいえ、簡単にはルトガーさん達に制圧されなかったようだ。


「おう、隊長。良い所に来てくれた。あそこに座っている猫がやばい。俺達を護衛して一緒に逃げてくれ」


 どうする?

 アミーラにあの3人を制圧させるか?

 ローラントさんが自暴自棄になってアプリちゃんに斬り掛かる可能性も。


「いや、お前はここで死ぬんだ。俺の計画の為にな」


 護衛隊長はそう言葉を発すると、持っていた剣でローラントさんの右肩を貫いた。


 攻撃されるとは微塵も感じていなかったローラントさんは痛みで握っていた剣を取り落とし、たたらを踏んで尻もちをついた。


 ローラントさんの手を離れたアプリちゃんを護衛隊長の部下が確保し、残ったもう1人の部下が肩の傷に苦しんでいるローラントさんに止めを刺そうと動き出す。


「アミーラ、ローラントさんを殺させるな!」


 ローラントさんを助ける為に走り出しながら、アミーラに指示を出す。


 俺の言葉を受けたアミーラは瞬時にローランドさんの前に飛び出し、斬り掛かろうとしていた部下を威嚇する。それに構わずアミーラごと叩き切ろうとした部下の剣は、アミーラの帯電した尻尾によっていとも簡単に切断された。


『これも、貸しの1つだぞ』


 ありがとう、3日連続で肉を食わせてやるからな。


「た、隊長。どういうつもりだ。俺達は同じ目的に向かって動く仲間じゃないか」


 ローラントさんが呼吸を荒くして護衛隊長を睨みつける。助けてくれたアミーラの事は目に入っていないようだ。


「仲間、ではあったが、同じ目的を持つ同志では無かった。目的が分かれてしまったら、仲間では無くなるのは当然だろ。お前は邪魔になったから殺すことになった。気の合う良い奴だったが、残念だ」


「な、なんで。アプリが回復魔法を使えるようになるかを監視するのが隊長の目的だろ」


「そうだが、俺達はアプリが魔法を使えないままの方が良かったんだ。アプリが回復魔法を覚えられるという事は、プフラオメ王子にもその素養があるという事だ。その話が広がるとプフラオメ王子を国王にと担ぎ上げようとする者が出てくる可能性が有る。折角現王が、魔法の才能だけで次期国王を決めないと明言しているのに、それでは俺達の本当の雇い主が困るんだよ」


「本当の雇い主、だと?」


「俺だって幼いアプリを手にかけるのは心が痛いが、任務だから仕方ない。回復魔法を覚えられる前に、アプリは死んだことにする。お前が逃げられないと悟ってアプリを道連れにしたと言う筋書きでな」


 隊長は喋り終わると屋敷の壁に向かって火球を放つ。

 壁に当ってはじけ飛んだ火球は、周囲に火種を撒き散らしながら一気に火の手を広げて行った。


 この部屋で縛られている村の住人共々焼き殺すつもりか。


 とりあえずローラントさんの傷を治したら、次は消化の魔導具だ。

 ちょっとローラントさん、悪いようにはしないからじっとしてて。


「ではな。アプリは貰っていく」


 護衛隊長はもう一度壁に向かって火球を放った後、アプリを抱き上げている部下と共に部屋を出て行った。

 アミーラに剣を破壊された部下が殿として残り、火球や土塊を飛ばしてアミーラを牽制するが、全て難なく塞がれる。


『やっていいか?』


 そろそろ我慢の限界だと言うアミーラに構わないと合図をすると、アミーラは瞬時に雷を身にまとい、部下を攻撃した。


 俺はその間に消火活動だ。

 ローラントさんは怪我が治ったんだから、縛っている住人の縄を解いてください。

 それが嫌なら、アプリを追いかけてください。


「俺の、計画が。何年もかけて、育ててきたのに、こんなところで。これでもう、あいつを助けてやることは出来なくなってしまった」


 放心した様子でぶつぶつと言葉を発するローラントさんは役に立ちそうにない。

 これくらいのことで諦めるなんて情けない。まだまだやれることは有るのに。

 命が有れば出来る事は沢山あるんだ。だから生き残る為に、俺は行動する。


 俺は動かないローラントさんや部下と遊んでいるアミーラを放っておいて、リュックから消火用の魔導具を取り出した。

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