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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第69話 俺は覚醒の意味を知る

 アミーラの背中を追いかけて路地裏を抜けた先には、他の住宅よりも少し大きくて立派な建物が有った。恐らくこの村で一番大きな建物だ。ここの村長の家だろうか。


『ここだ。中には人が沢山居るが、多くの者が縛られて動けないようだぞ。入口はこっちだ』


 一度入って中の様子を見て来たのか。縛られていると言うのはきっとここの村人達だろう。アプリちゃんもここで拘束されているんだな。


 俺はアミーラについて屋敷の裏側に回り、少し扉が開いたままになっていた勝手口から中へ侵入した。


 勝手口から台所と食堂を抜けて長い廊下に出る。いくつかの扉を通り過ぎ、玄関を抜けて行き止まりの扉の前に到着した。

 扉の向こうからは怒声が漏れ聞こえてくる。


「何故だ。どうしてお前は俺を助けてくれない。俺の希望を叶えてくれない。魔法が使えるようになったのなら出来るはずだ。それがお前がこの世に産まれた理由なんだから」


 男が誰かに怒鳴りつけている声は、懇願とも命令とも取れる内容を叫んでいる。男性の声を受け止めている相手の反論は聞こえない。ただただ、男が誰かに向かって声を張り上げている。


『これから扉を破壊して侵入するぞ。戦いの準備くらいはしておけ』


 いつのまにか尻尾を帯電させて魔法の準備を終わらせていたアミーラの指摘を受け、俺は背負っていたリュックサックから剣と魔導具を1つ取り出した。


 準備完了だと目で送った合図を受けて、アミーラが尻尾を扉に叩き込んだ。鍵がかかっていた扉は蝶番を外されて内側に吹き飛んで行く。扉が吹っ飛んで行った瞬間に俺は後悔した。捕まっている人達が扉で怪我をする可能性を全く考慮していなかったことに。


「な、なんだ。どうなっている」


 先程まっで大声を上げていた男性が、急に吹き飛んだ扉を見て動揺している。

 侵入した部屋は机と椅子が立ち並ぶ大きな会議室だった。相手の視線が扉の方へ向いている隙に俺は机の陰に隠れて様子を窺う事にした。


「ね、猫だと?お前がやったとでも言うのか」


 しまった。アミーラには隠れろとも言ってなかった。机の上に凛々しくお座りをしているアミーラは明らかに異常で目立ってしまった。


『にゃっはっは。あの程度の物で私の行動を妨げようなど甘い甘い。私の邪魔をしたければ、後千枚くらい重ねないと無理だぞ』


 そんな子供みたいな自慢しても相手には聞こえないからな。聞こえていたとしたら恥ずかしいから止めて欲しいが。


 アミーラ。


 猫の名前を呼ぶ声が聞こえた。幼い女の子の掠れる程の小さな声だ。この声は、アプリちゃんか。


「思い出した。お前は男爵家の村で俺の魔導具を喰らおうとした猫だな。どうしてお前がここに居る。また俺の魔導具を喰らいに来たのか。そうはさせない」


 そうか、この怒鳴り声を上げている人は。


「ローラントさん。北の国境の街で亡くなった筈の貴方こそ、どうしてここに居るんですか?」


 俺はローラントさんの声に負けないよう腹から声を出して立ち上がり、剣を構えてローランドさんと対峙した。


 多くの机を間に挟んで対面したローランドさんも剣を握っていた。が、ローラントさんの剣身は赤く染まっている。

 ローラントさんの傍には猿轡を去れて悶え苦しむ男性と、その男性に縋って泣いているアプリちゃんの姿が有った。

 アプリちゃんは両手を真っ赤にして、悶えている男性の腹部を抑えている。ローラントさんの剣の赤みも男性の物だな。


 そしてローラントさん達を取り囲むように、壁際には手足を拘束されて猿轡をしている人々が様々な表情を見せている。希望の、不安の、落胆の、哀願のそれは、俺に、ローラントさんに、アプリちゃんにと様々に交差して向けられていた。


「お前が連れて来たのか、男爵家の無能な跡取り息子。警備を任せた連中は何をやってるんだ」


 さあ、何をやってるんでしょうね。今頃、この村から逃げ出しているかもしれませんよ?


「ふんっ、あいつらが何もせずに逃げ出すわけがない。我々は一蓮托生、同じ目的の為に活動している同士だ。簡単に計画を投げ出すような奴らでは無い」


 その目的ってなんですか、計画ってなんですか?


「無能なうえに馬鹿かお前は。そうそう簡単に話すわけないだろうが」


 そうですよね、父親すら利用して態々死を偽装したんですから、そんなに簡単には秘密をばらしませんよね。


「なっ。お前、どうしてそのことを」


 どうしてとか、なぜだとか、人に一々聞かないとダメなんですか?

 自分では考えられないバカで無能なのは、貴方の方ですね。


「よし、殺してやろう。目の前で仲の良いお前が死にかければ、アプリも覚醒するかもしれないからちょうどいいな」


 覚醒?


 アプリちゃんが覚醒。俺が死にかけると、覚醒。なるほど、この状況は実験中という事だな。


 いくらアプリちゃんがエルフ族の血を引いているからって、草木魔法を何とか使えるようになったアプリちゃんが、すぐに回復魔法を使えるようになるわけないだろ。


「アプリの体質を理解しているのか。噂通りの無能とは違うようだが、お前は大事な事を知らないようだ。殺す前に1つだけ教えてやろう。王族に魔法を使用出来ない幼児が産まれた時、その子供は成長過程で必ず覚醒し、突然魔法を使えるようになるんだ。それは必ず回復魔法なんだ。断じて草木魔法では無い」


 自分で発した草木魔法と言う単語にイラついたローラントさんは、話し終わる前に風魔法を使って攻撃を仕掛けて来た。

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