第1話 俺は新たな魔法を提案する
5月の誕生日を迎え、俺は3歳になった。
3月の魔力検査以来、魔法の練習に力を入れている。
でも、まったく使えないんだよな。
魔力の流れは何となくわかるようになった。
特に怪我をした時なんかは顕著に感じられる。怪我をした場所が腫れて熱感を帯びる。怪我を治そうと血液がその場所に向かって流れていく。今世ではさらに魔力もそこへ集まっていき、傷を瞬時に修復する。
魔力は感じられるが、自分では操作できない。完全に自動で動いている。
ある程度操作出来るようにならないと、魔法は使えないんじゃないかと思う。でもどうやって操作するのかわからない。
相変わらず図書館にある魔法関係の本を読み漁っているけど、今の俺に役立つ情報にはまだ出会っていない。
家族には焦る必要は無いと言われているが、やっぱり焦ってしまう。
俺と違って、マリーは順調に才能を伸ばしている。
火と土を修得し、最近は風魔法を練習するようになった。うらやましい。
今覚えている魔法の中では土魔法が得意みたいだ。頑丈な土壁が出来ていい的になると姉さんが喜んでいた。風を修得したら金属魔法を習いたいらしい。夢が広がるね、くっそ、うらやましい。
「私も新しい魔法を覚えたいな。なんか良いのない?」
暖かくなってきた頃、マリーは風魔法を覚え、金属魔法に手を付ける。姉さんが習ったドワーフ族の鍛冶屋の元へジークさんと共に通うようになった。
成長するマリーを見て、姉さんも触発されたようだ。
そうだなぁ。四属性以外でよく本に登場する魔法を挙げてみる。
「草木、氷結、雷撃、回復。姉さんが覚えていない魔法はこの辺りかな」
3歳になって大分舌が回るようになった。最近ではマルテに補足してもらわなくても、しっかりと意志を伝えられていると思う。
「草木がいい」
未だに蒼龍が仲間外れだからね。気持ちはわかるけど。
「エルフに教わればなんとかなるのかな。姉さんの知り合いにエルフ族の人はいる?」
「いないね」
俺ももちろんいない。王都内では見かけたことがないんだよね。父さんや母さんに聞いてみてもいいけど。
「驚かせたいから内緒ね」
だよね、そう言うと思った。じゃあ氷結の方がいいかもしれない。
「夏になる前に氷結を覚えた方がいいと思う。本で読んだけど、国内の山岳部ではまだ雪が残る場所もあるんだって。水魔法の時みたいに、雪や氷を体感した方がいいんじゃない?」
王都は冬になっても雪が降らない。過ごしやすくていい場所だ。
「雪かぁ。私まだ見たことない」
俺も今世ではないね。
「これから図書館に行って、雪が降る場所が載ってる本と地図を借りてくるからちょっと待ってて」
「あ、私も行く」
姉さんが来るとなると、保護者が増えるんだけど。
「アンナはついて来なくていいよ」
「アリー様が何か企んでいる顔をするからですよ。何かあったら困りますからね」
案の定外出前にアンナさんに見つかって、マルテも含めて四人で図書館に来た。
「何も企んでないよ」
「ゲオルグ様、本当ですか?」
姉さんが答えないからこっちに矛先が向いた。
まあ答えは一つなんだけど。
「アンナさんには協力してもらった方がいいよ。一人で王都の外に出るのは危ないから」
アンナさんに捕捉されたなら、もう仲間に引き入れたほうがいい。
「あ、ゲオルグの裏切り者」
「一人で王都から出るなんてダメですよ」
裏切り者は酷いんじゃない?これも姉さんを助けるためだよ。
「氷結魔法を覚えるためにまだ雪が残っているところへ行きたいんだ。どこへ行くか調べて、地図を借りるために図書館に来たんだよ」
姉さんが絶望している。そんなに不貞腐れないでよ、内緒にするのは両親だけでいいじゃない。
「はあ、なるほど。まだどこへ行くか決めてないんですね」
「うん、雪が降ってる街なんて知らないからね。北に行くのか南に行くのかもわからないよ」
「ヴルツェルはどうですか?あの辺りは夏前まで雪が残ってますよ」
「へぇ、どの辺にあるの?」
「王都からずっと西にいったところですね。王都に流れているシュテンゲル川の上流にある街です。馬車で行くと7日くらいかかるはずです」
遠いなあ。でもこの辺りはもう暖かいから、遠くまで行かないと雪は無いよね。移動費と宿泊費が高くつきそうだ。
「ヴルツェルに行く利点はもう一つあります。そこはお2人の父方のお爺様とお婆様が暮らしている街です。泊まらせてもらえれば宿泊代が浮きます。どうせ氷結魔法を覚えるまで帰らないつもりですよね?」
姉さんが、ばれたかって顔をしている。もうちょっとポーカーフェイスの練習しようか。
「でもそうなると父さんに言わないとダメじゃない?」
内緒にしたい姉さんの気持ちは多少でも汲んであげたい。
「どちらにしろ外泊するなら両親に黙っていることは出来ませんよ。それなら魔力検査の結果をお爺様に報告しに行くとか、本来の目的とは違う理由をつけてきちんと許可をもらった方が利口です」
確かに、それはそうかも。
どうする?アンナさんの意見に乗る?
「わかった。でも魔法を覚えに行くって正直に言う」
姉さんが渋々ながら納得してくれた。
ただわずかな抵抗をみせて、アンナさんの意見には完全に従わなかった。ちょっと怒ってる?
「私も口煩いアンナじゃなくて、マルテみたいな優しい乳母が欲しかった」
終始成り行きを静観していたマルテに向かって姉さんが言う。それは隣の芝が青く見えてるだけだぞ。
「あら、アンナは充分優しいですよ。私なら王都から出しません」
俺が川に落ちてからマルテは更に口煩くなった。仕方ないことだとは思うけどね。
「2人とも顔に出てますよ」
アンナさんが俺と姉さんを指差す。おっと危ない。




