第67話 俺は匂いの元を辿ってとある村に着く
『ふむ、ここだな。匂いの元凶はこの奥だ』
ザフトの街を出てから高速で走り続けたアミーラが漸く動きを止めたのは、とある農村の前だった。
アプリちゃんの不在が発覚したのはラジオ体操が始まる早朝。日は既に天高く昇っている。
村の住人達は各自の家で昼食を取っているのか出歩いている人は見当たらない。警備の人も居ないのは少し不用心に思うが。
「ここは旧公爵領で、男爵家が分割管理している範囲内の村ですね。少し北西に進めば第二王子の領地に入ります」
ルトガーさんがこの村に着いて知っている情報を話してくれた。
「管理者は旦那様ですが、税金は第二王子の方へ支払い、旦那様との話し合いも拒否してきた村です。あまり派手に動いてゲオルグ様の身元が分かると面倒な事になるかも知れません。因みにこの村からは男爵家の村へ移住してきた者は居ません」
なるほど、気を付けるよ。アミーラが中に入りたくてうずうずしているから、取り敢えず中に入ってみようか。
アミーラに続いて団員の1人が村に入る。その後、俺達も侵入。特に何もない。
木で作られた簡素な柵で囲われた質素な農村。村人は居ないのか、と思っていたら村の奥から男性が1人やって来た。
「こんな何の変哲も無い村に何かご用でしょうか。村長は日課の畑の見回りに出掛けていますので、出来ればお引き取り下さい」
物凄く面倒くさそうに村人に話かけられる。
この状況をどう話して良い物かと考えていると、ルトガーさんが一歩前に出て会話の主導権を握ってくれた。
「私達は王国内を旅している者ですが、暫くこの村で休ませて頂けませんか?子供の1人が旅の疲れで体調を崩してしまいまして」
団員の1人に支えられて最後尾について来ていたロミルダが、ルトガーさんの言葉に反応してふらつき出した。
ロミルダは女優だね。ルトガーさんの意図を汲んで病人の演技をしている。飛行魔法を使い続けて本当に疲れているのだろうが、それが有ったとしても俺は病院を取って慰安r
「残念ながら病人を受け入れる診療所は無いし、この村には村人の家以外に休める宿も無い。別の大きな街に行ってもらった方が良いですよ」
「暫くの間横になるだけでも構いませんので、休ませて頂けませんか?」
「残念ながら村長が不在なので私どもには判断しかねます。余所者は村に入れるなと常々厳しく言われていますので」
村人は取り付く島もなく、俺達の滞在を拒絶する。
それでも休ませてくれとルトガーさんが粘っていると、もう何人かが奥の建物から顔を出して、こちらの様子を窺っていた。その中にちらっとしている人物の顔が見えたが。
『ゲオルグ、ほれ、あの奥の建物だ。あそこから強烈な匂いが漂って来る。お前達が立ち止まって動かないのなら、私は先に行くぞ』
あ、ちょっと待ってアミーラ。まだ村人との話が終わって無いんだから。
村人の脇を駆け抜けて行ったアミーラを制止しようと追い掛けた時、血相を変えた村人が俺に向かって怒鳴りつけて来た。
「勝手に入るなっつってんだろ、このガキ。さっさと出て行かないと、この村の用心棒が出て来るぞ」
村人の怒声に反応するように、奥からゾロゾロと武装した人がこちらに向かって歩いて来た。
「おいおい、男爵家のお坊ちゃんがこんなところで何をやっているのかな?こんな辺鄙な所で遊んでいたら、また謹慎になってしまうぞ」
ニヤニヤしながらこちらを見下ろして来たのは顔を知っている人物、マルティナ様に雇われている護衛を纏める護衛隊長さんだった。
向こうもこっちの事を認識しているようだから旅の一座だと身元を隠す必要は無くなった。
俺達は行方不明になったアプリちゃんを探してここまで来たんです。貴方こそ王子の命令に従わず、こんなところで何をしているんですか?
アプリちゃんを探して連れて帰らないと、護衛隊を首になりますよ。
「心配には及ばない。我々は既にアプリコーゼ様を確保している。ザフトの街を出たと言う情報得た我々が、街を出て村に到着したところのアプリコーゼ様を確保した。そういうことだ。やることが終わったらアプリコーゼ様はきちんと生きて帰すから、暫くは黙ってろよ?」
隊長が話をする間に、俺達を多くの人間が取り囲む。皆ニヤニヤとした厭らしい視線を俺達に向けて来る。
「ゲオルグ様が黙っていないと言うのなら、この村の奴らも黙っていないと思うがね。このままお帰り頂くのが一番お互いの為になると思うが?」
そう言う訳には行かない。アミーラは既に団長達が出て来た建物内に侵入しているし、アプリちゃんの健康状態を確認しないと帰るに帰れない。
そちらがどういう思惑でアプリちゃんを連れ去ったのか知らないが、アプリちゃんを助ける為にここに来たんだ。何もせずに逃げ帰ることは出来ない。
「そうか。また無駄に立派な正義感を振りかざすんだな。流石は男爵家の無能。この数差で優劣の判断も出来ないとはな。では、此処までだ」
護衛隊長の号令のもと、何人もの人間がナイフを片手に上空から迫って来た。




