第58話 俺は友人の功績を目の当たりにする
久しぶりに訪れた王都北の街道沿いにある休憩所は目まぐるしい発展を遂げていた。
もはや休憩所とは呼べない。村、いや町と言っていい程、多くの家屋が新しく作られている。男爵家の村の規模なんてあっという間に追い抜かれてしまった。
隣で一緒に散策しているプフラオメ王子に、羨ましいくらいの発展だね、と称賛の言葉を贈る。
「王都内の共同集落で暮らしていた人達が一軒家を求めて引っ越して来てくれているんですよ。ここから毎日王都へ通勤する人達もいますし、ここにも商店や宿の店員、町の警備と清掃、馬の世話など仕事は沢山あります。まだまだ人手は欲しいと各所から頼まれているので、引っ越し費用は格安で提示しているんですよ」
でも始まりはゲオルグさんの助言のお蔭です、と王子は謙遜を付け加える。
俺のお蔭と言われてもイマイチぴんと来ない。俺の想像した休憩所とは似ても似つかない町になったからな。
王都に入る為の待ち時間を過ごすちょっとした休憩施設があればいいなぁって思っただけなんだよ。
それがこんなに多くの店が立ち並ぶなんて。こんな立派な商店街にまで発展したのはプフラオメの才能と努力だろ。
このままどんどんと拡大して行って、いずれは街道の北にある旧領都のザフトまで絶え間なく家が立ち並ぶんじゃないか?
「ははは、そこまで行くと凄いですね。でも、そろそろどこかで区切りをつけて町を囲う壁を作らなければと、町の警備隊長達と相談しているんです。この辺りは強力な魔物は出ませんが、残念ながら偶に夜盗は出ますから」
そうなったらこの町に入る検問が必要になって王都と二重の検問を受ける事になりそうだ。
「そうですね、そこは王都の警備隊長や役人と相談しなければいけません。いずれはこの町も王都の一部となって検問が要らなくなりそうですけどね。ここを模倣して、王都から出る他の街道沿いにも集落が出来始めているみたいですよ」
これって所謂ドーナツ化現象ってやつ?
王都の門の外に沢山住民が住んで、仕事をしに王都へ通う。そんなシステムがこの世界でも生まれるのか。
あ、ドーナツって言うのは中央に穴が開いた形をしている小麦粉を揚げたお菓子なんだけどね。
「ドーナツ、穴の開いたお菓子ですか。面白い表現ですね。今度王都での会議で議題に上げてみましょう」
確かあんまり良い表現では使われていなかったと思うんだけど。都心に人が居なくなって空き家が増えるとか、逆に周囲の町に人が集まり過ぎて問題になるとか、多分そんな感じ。
「王都は人が多すぎて困ると警備隊長も役人達も常々話していますから、ちょうどいいのかもしれません。今はまだ王都が空になるほどは周囲に住居も建っていませんしね」
そう。まあ国政の事はよく解らないから、王子に任せるわ。あんまり首を突っ込み過ぎるとまた謹慎になっちゃうからな。
それより、ドーナツ化を思い出したらドーナツが食べたくなったな。マルテかアンナさんに言って作ってもらおう。フライヤーもあるし、きっと作れるはず。
「いいですね。僕もそれを食べてみたいです。今度食べさせてください」
うん、俺もちゃんとしたレシピを知っている訳じゃないから、美味しく出来たらね。
それから暫く町に滞在した後、馬車で王都へ向かった。
事前に町で予約していた時間通りに王都の北門へ到着すると、待つことなく検問を受ける事が出来た。町と門との連携は上手く行っているようだな。
王都に着いたら家に帰る前に図書館へ寄り道をする。
カエデ達の誕生日プレゼントとして描いてもらった紙の束を持っていって、メーチさんに絵本として装幀してもらう為だ。今日頼めばカエデ達の誕生日に間に合うはず。間に合うようにブルツェルの赤ワインを買って持って来たからね。
「おう、すぐにやってやるぞ。じゃからさっさと酒を出すんじゃ」
メーチさんはお酒を渡したらすぐに飲んじゃうと思ったから受付のお姉さんに渡しておきました。絵本が完成したら受け取ってください。
「そんな殺生な。そこに酒が有るのに飲めないなんて酷いじゃないか。そうじゃ、酒が飲めないのなら装幀の依頼は引き受けんぞ。じゃから先に酒を」
そうですか、それならお酒を持って帰ります。
「な、なんでそう簡単に引き下がるんじゃ。妹の為に絵本を作りたいんじゃろ?」
ええ、絵本を作りたいんです。ですが、メーチさんに勝手にお酒を渡さないよう受付のお姉さんにきつく言われましたので。約束を破って図書館の出入りが禁止になっても困りますから、ここはお姉さんに従います。
「むぅ。わかった。ここは儂が一歩譲ろう。その代わり2本じゃ。ワイン2本貰えるのならキッチリ仕事をするぞ」
そう言うと思ってお姉さんには赤ワインを2本預けてます。絵本が完成したら貰ってくださいね。
別に嵌めてないですよ。意見があるなら受付のお姉さんにお願いします。
10月10日。カエデとサクラの1歳の誕生日。
プレゼントの絵本2冊も間に合って、誕生日は盛大に祝われた。
カエデ達が無事に1歳を迎えた喜びを全身で体現する父さんだったが、その日の夕方お城からの使者に呼ばれて登城することになった。
肩を落として城に向かう父さんに俺は声を掛けた。
カエデ達は寝ちゃうと思うけど、美味しく出来たドーナツはちゃんと取っておくからね。




