第26話 俺は四年後に向けて決意する
魔力検査の結果発表から3日後、俺は姉さんと両親の4人でお城を訪れた。
魔力検査の慰労会に参加するためだ。
4人で着飾り馬車に乗って、昼前にお城の南門から入城する。
同じような馬車がちらほらと。彼らも参加者だろう。
「毎年多くの者が参加するが主な目的は顔見せだ。第一王子が1番になった去年は、午前中から日が沈むまで参加者の列が途切れる事がなかった。今年の第二王子は3番手だったから、みんな気を使って参加しないんじゃないかな」
そう言って父さんは嫌な笑顔を見せる。新興の男爵家で悪かったなと付け加えたのは聞き逃さないよ。
何か思うところがあるのかもしれないけど、王族や他の貴族を敵に回すような事は控えてほしい。
「貴族以外も参加するの?」
姉さんが父さんに質問する。
「まあ貴族が多いけど上位入賞者なら参加するかもね。確か今年の2番手は貴族じゃなかった筈だよ」
へえ、そうなのか。まあ豪商の子とかなら貴族と知り合いになっておくのは大事だよね。
「どんな人なのか楽しみだね」
父さんと違って無邪気な笑顔の姉さん。父さんもこの笑顔を見習ってほしい。
俺は食事の方に興味があるよ。美味しい物をいっぱい食べよう。
慰労会が開催される大きな部屋の両側に、美味しそうな食べ物がずらりと並んでいる。
お肉がメインだ。ドンっと大皿に肉の塊が並んでいる。あれは鳥の丸焼き、あっちはローストビーフかな。食べる分を目の前で切ってもらうシステムだね。
こっちは玉子料理。いろいろな食材を包んだオムレツだ。卵は高いから自宅ではあまり食卓に上らないんだよね。ふわふわのスクランブルエッグをパンに挟んでタマゴサンドにして食べたい。
少ないながら魚介料理もある。サラダと果物も瑞々しい。パンも焼きたてだね。
こっちはデザートのエリア。クレープにワッフル、これはパンケーキかな。
トッピングにカスタードクリームとホイップクリームがある。庶民には高価な卵と牛乳が手に入ると、お菓子の幅は広がるね。
チーズケーキもあるけど、プリンはなさそうだ。材料をもらえれば俺が作るのに。
会場に入ったら食事を始めていいらしい。もう何人か食べ始めている。
ある程度参加者が集まったら王様の挨拶が始まり、上位者の表彰が行われるそうだ。
俺達も料理を取りに行こう。バイキングスタイルだ。
まずは今日の主役からどうぞ。姉さんは肉料理か。俺は魚料理をもらおうかな。
料理をとったらテーブルを確保する。子供と大人が入り混じるので立食形式ではない。座席があると参加数は制限されるよね。
あ、魚美味しい。白身魚の香草焼きかな。口に含むといい香りが広がる。パン粉を使って表面をパリッとさせてるのもいいね。
姉さんは大きく切ってもらったお肉にかぶりついている。マナー的な物は気にしなくていいのかな。あ、大丈夫なんだね、よかった。
食事をしているとだんだんと人が集まってくる。
其処彼処で会話が始まり、小さな集団がいくつか出来上がる。
俺達のテーブルへも集まってきたが、最初に挨拶をしに来たのは第一王子だった。
みんな少し緊張気味だったが、第一王子は優しく礼儀正しかった。姉さんの検査を見てくれたらしい。姉さんにあれは何の動物だったのかと聞いている。禁書の件は黙っててね。
王子が別のテーブルに移ったのを見て、父さんの仕事仲間が集まって来た。みんな遠慮してたんだね。
早く来ないから緊張したじゃないか、と父さんが仲間に文句を言って笑いあっている。職場の人と仲がいいって良いな。
母さんの知り合いも何人か挨拶に来た。
母さんのお父さん、つまり俺の爺さんも来たけど、その気配に気づいた姉さんは料理を取りに行くフリをして逃げ出した。
辺境伯って言う偉い立場の人だけど、姉さんには嫌われている。多少強引なところがある人だからね。たまに我が家を訪問するんだけど、姉さんは絶対に部屋から出て来ない。代わりに俺が相手をしている。話してみるといい人なんだけど。
「この子1人みたいだから、一緒にご飯食べてもいい?」
爺さんが別のテーブルに行ったのを見計らって姉さんが帰って来た。女の子を1人連れて。
「こんにちは。エマと言います」
女の子の挨拶に、俺達も自己紹介をして返した。
ちょっと赤みがかったショートヘアがよく似合っている。
「お仕事が忙しくて、家族は帰っちゃったんだって。なんかへんな子に嫌がらせされてたから連れて来た。撃退したからもう大丈夫」
あらら。こんなお祝いの席で嫌がらせをするなんて、性格の悪い子供もいたもんだね。
父さんが椅子を借りてきて来てくれた。ナイス、父さん。
話を聞くと両親は小さな飲食店を営んでいるらしい。平日の昼間に店を閉められないけど、娘の晴れ舞台だからとなんとか時間を作って送り出したようだ。
うちは両親共仕事を休んでるけど、大丈夫?
会場が満席になり、俺たちのお腹も満たされた頃、王様の挨拶が始まった。
検査に参加した子供達の健闘と成長ぶりを褒める内容だ。
そして成績上位者の表彰が始まる。
「今年の魔力検査最優秀者は、男爵家の娘、アレクサンドラ・フリーグ」
宰相によって姉さんの名前が呼ばれる。盛大な拍手に対してカテーシーで答えた姉さんは、優雅に歩いて王様の下へ向かう。いつの間にそんな所作を覚えたんだ。
「君は測定試験で歴代最高の数値を叩き出し、技能試験でもまるで生きているかのような動物を魔法で作り出した。何よりも、その年で四属性を操れる才能に敬意を払う。おめでとう」
王様からお褒めの言葉を賜り、隣に控えていた宰相から賞状とトロフィーを姉さんは受け取った。
一つ訂正しておこう。姉さんは才能だけじゃない、努力の人だぞ。
「2番目は、エマ。ディルクの娘、エマ」
はい、っと元気良く返事をしてエマさんが立ち上がる。
おお、凄い。エマさんが民間から上位に食い込んだ人だったのか。
俺達以外に誰も拍手を送らない。庶民がこんな所にノコノコと、でも思っているんだろうか。嫌な空気が流れる。複雑な視線を感じとったのかエマさんは少し俯いてしまった。
そんなの知ったことかと、俺は拍手の音量を上げた。2位だぞ、凄いじゃないか。
俺の近くにいる人達も拍手を送ってくれている。王様の側でも姉さんと第一王子が拍手をしてくれている。母さんが風魔法を使って、拍手を会場全体に響かせる。
その拍手に背中を押されたように胸を張り、エマさんは王の下へたどり着いた。
「君は測定試験では惜しくも僅差で3位だった。しかし技能試験では首位のアレクサンドラと肩を並べるほどの細やかな魔法技術を見せた。冒険者ギルドのギルドマスターも驚いていたよ。これからもその技術に磨きをかけてほしい。おめでとう」
宰相から賞状を受け取り姉さんの横に並ぶ。おめでとう、ともう一度拍手を送った。
「3番目は我が息子、バンブスだが、1番じゃない賞状なんか要らないと言うから表彰は無しだ」
王様が少し機嫌悪そうに伝える。第二王子はワガママな奴だな。ここはプライドを捨てて上位2名を褒めてやれば、王子の評価も上がるだろうに。
「ではこれで今年の表彰は終わりだ。優秀な少女2人に盛大な拍手を送ってくれ」
今度はエマさんだけじゃなく姉さんも居るから大きな拍手になった。エマさんも姉さんの隣でいい表情をしている。
それからは姉さんと父さんは、次々にやって来る人への対応に追われることとなった。
エマさんには第一王子しか来なかった。
俺と母さんはエマさんを連れてテーブルを離れ、色々なものを食べて回った。最後に食べたチーズケーキが特に美味しかった。こんなに美味しいデザートは普段食べられないとエマさんも言っていた。
3人で心ゆくまで料理を堪能した。姉さんと父さんは疲れ切っていたけど。
そろそろお開きといった頃、配膳している人に持ち帰りして良いか聞いてみた。父さんの知り合いだったらしく、いつも世話になっているからと了承してくれた。意外と慕われている父親の一面に驚かされた。
包んでもらった料理の一部はエマさんに渡した。ご両親へどうぞ。
これで慰労会も終わり。しばらくお城に来る用事は無い。
次に来るのは俺の魔力検査の日。四年後までに俺も魔法を使えるようになるぞ。そしてまた美味しい料理を食べるんだ。
誤字報告ありがとうございます。
次の閑話で1章が終わりますが、まだまだ1日2回更新で頑張ります。
【追記】
国王がエマに贈った言葉の中で誤字報告を頂いたので、少し解説します
測定試験 1位アリー 2位バンブス 3位エマ 2位と3位は僅差
技能試験 1位アリー 2位エマ 3位バンブス 1位と2位は僅差
総合結果 1位アリー 2位エマ 3位バンブス
という事でお願いします




