第47話 俺は姉さんと難しい約束を交わす
アミーラを追い掛け回していた子供達は地面にへたり込んでいる。結局誰もアミーラを捕まえられなかった。
マラソンや剣術訓練で子供達も体力はついているはずだが、アミーラの身軽さには敵わない。
まあ姉さんが捕まえられないんだから、姉さんより年下の子供達が何人束になっても無理だろうね。
そのアミーラはロジーちゃんの腕に抱かれて休んでいる。
『朝食後のいい運動になった。昨日のような戦いも楽しいが、魔法を使わずに戯れるのも良いもんだぞ』
子供達に追い掛け回された事は特に怒っていないようで良かった。
寧ろ上機嫌でロジーちゃんに撫でられている。
昨日姉さんの火魔法によって体毛が焦げた部分にもロジーちゃんの手が掛かっているから、皮膚の方は火傷を負っていないみたいだな。
『こんな小さな子供に追い掛け回されたくらいで私が怒る訳ないだろ』
俺の言葉にアミーラが不満を露わにする。尻尾を振り回すとロジーちゃんに当ってしまうからか、今は大人しく、だらんと垂らしているが。
昨日は姉さんに追われるのは嫌がってたじゃないか。子供達に雷撃魔法で反撃するかもって心配したんだよ。
『お前の姉は別だ。あいつは何時も全力で襲い掛かって来るからな。私も多少は魔法を使わないと。ただ雷撃魔法を当てたのは昨日が初めてだったから、少しやり過ぎたかなとは反省しているぞ』
いや、姉さんは初めて浴びた雷撃に興奮していたぞ。朝から雷撃魔法の練習もやっていた。
今は王都に行って男爵家が関わっている屋台の手伝いをしている。
今日は帰って来ないかもしれないけど、今後は雷撃魔法を見せろって迫って来ると思うよ。
『近寄らずに見せるだけならいつでも見せてやるが、無理矢理近寄らないように言い聞かせて欲しいぞ』
触りたい、撫でまわしたい、とも言っていたから俺には姉さんを止められないよ。
一回くらい撫でさせてあげたら?
『嫌だ。私の柔らかくて触り心地の良い体を、そう簡単に触らせる事は出来ないぞ。触りたいのなら、逃げる私を捕まえる事だな』
ロジーちゃんに撫でられながら言っても説得力無いけどな。
それから姉さんは毎日アミーラと魔法合戦をしている。
アミーラは雷撃魔法だけを使用していたが、姉さんは土魔法や火魔法だけじゃなく使用可能な魔法を色々と試した。
水魔法と金属魔法は雷撃魔法と相性が悪いらしい。水魔法で雷撃魔法を防ぐと簡単に貫通されてしまうそうだ。金属魔法で作った壁も同様だ。
相性がいいのは土魔法と草木魔法。どちらも電撃を貫通させずに地面に受け流す作用を期待出来るとか。姉さんの言った通り、2つの魔法を複合させて作った壁、蔓草を這わせた土壁は何度もアミーラの雷撃を防いでいた。
攻撃は火魔法と風魔法、氷結魔法。丈夫に作った壁に隠れながら小出しに魔法を放って牽制する。
牽制で放った魔法はアミーラに軽々と避けられていたが、ジャンプの頂点や着地の瞬間を狙って追撃の魔法を送り込む。牽制の魔法よりも数段速度を上げた魔法だったが、アミーラは雷撃魔法を当てて防御する。
初日に火魔法でアミーラの体毛を焦がして以来、姉さんの魔法はアミーラに届かない。
数日1人で対戦した後は、クロエさんやマリーとペアを組んでアミーラに挑んでいた。姉さんが土草の壁で防御に専念し、ペアの片方が攻撃する。ペアが接近して攻撃するのに合わせて、後ろからアミーラを捕まえようと姉さんが蔓草を操作する。
しかし背中に目が付いているかのように動くアミーラによってそういった作戦は次々と回避されてた。
『子供の悪知恵程度避けられないと、魔物を狩って獲物にする事は出来ないんだぞ』
少し退屈そうな口調で語りながら、雷撃魔法で反撃する。
アミーラが退屈そうにする気持ちも分かる。初日の攻撃的な姉さんは鳴りを潜め、今はメタルジークを数体操って攻撃するマリーの援護に徹している。
「あの時は興奮して雷撃魔法をあまり見られなかったからね。今はアミーラの魔法を観察している所なんだ」
戦いが終わった後姉さんに聞くとその考えを教えてくれた。
なるほど、それで戦い方を変えたのか。
でもアミーラは見せるだけならいつでも見せると言っていたよ。
「それじゃあアミーラには触れないじゃない。ロジーちゃんに聞くとアミーラの体毛はふわふわのふかふかなんだって。私も触ってみたいんだよ」
あ、そっちもまだ諦めてないのね。
そういえば美味しいお食事を食べさせる作戦はどうなったの?
「ふふふ。船着場の親方にでっかい海のお魚を取って来て貰うよう頼んでるんだ。でもそれはそれ。アミーラの防御を潜り抜けて触りに行く方が絶対面白いよ」
そう言うもんかね。俺なら戦わずに餌で釣る方を選択するけど。
「そう言うもんだよ。だからゲオルグも考えてよ。何かアミーラを捕まえる策は無い?」
え~。急にそんなこと言われても。
ロジーちゃんを盾にするって言うのは。はい、すみませんでした。
もう少しちゃんと考えるから時間をください。
俺が姉さんと約束した日、王都の南方伯邸に南方伯第二夫人とその息子が到着したとの話を耳にした。




