第41話 俺は会議にこっそり参加する
日が傾き始めた頃になって、南方へ偵察に行った団員の1人が帰って来た。
俺は帰って来た団員の体調を確認した後、昼寝をしている父さんを起こしに行った。
「それでは南方の状況を教えてくれ」
凛々しい顔つきで団員に話しかける父さんだが、頭の上には寝癖が乗っかっている。急いで準備したんだろうが直らなかった。
男爵邸に作られている広い会議室には、帰って来た団員の報告を聞こうと人が集まっている。
謹慎明けの俺は同席を許されなかったけど、人混みに紛れてこっそり侵入した。
会議室内にずらっと並んだテーブルと椅子の最後列。その椅子に座る団員の陰に隠れて床に座っている。
「私は南方国境の状況を確認して戻ってきましたが、国境に作られた街は騒がしく、正常な手続きを経て国境を超える以前に、街の外には長い行列が出来ていて、街へ入る事すら難しい状況でした」
おっと話が始まった。俺は息を潜めて団員の声にじっと耳を傾ける。
「我々は2日前に村を飛び立った後、王都を経由し、街道に沿って南へと向かいました。途中南方伯領の領都であるエルツ付近で2人と別れ、残りの4人は更に国境に向けて飛び続けました」
「先程も言いましたが国境の街では検問が強化されており、検査待ちの行列が出来ていました。待っている間に情報収集したところ、行列に並んでいる者の多くは南の国を本拠地としている商人とその護衛達でした」
「彼らの話ではここ10日程で急に検問が厳しくなったとか。特に南方伯領側から南の国へと抜けるのを特に厳しく取り締まっているそうです。行列が進むのを待って街に入れたころにはもうすっかりと日が暮れていました」
「日が暮れた後では国境の門が通行禁止になっていましたので我々は宿を取り、その日の夜は飲み屋等での情報収集に勤めました。集めた情報を統合すると、今日からちょうど10日前にエルツにて南方伯が何者かに襲撃されたそうです」
襲撃と聞いて俺の心臓の鼓動が早まるのを感じた。落ち着け。ここで声を放つと追い出されてしまう。
「翌日、つまり昨日ですが、越境する2人と別れた私は、1人エルツまで引き返しました。もう1人は国境の街で待機しています。エルツでは国境の街以上に厳しい検問が行われていました。私は事前に示し合わせていた宿でエルツに先行した2人と合流し、お互いの情報を交換しました」
「襲撃の話は本当でした。エルツ内に数戸ある別邸で第二夫人と共に眠っていた夜に襲われ、南方伯が怪我を負い、警備の者や第二夫人の従者が何人か亡くなったとか。第二夫人やお子様は無事だったそうですが、犯人は取り逃した様です。それと第三夫人とお子様が生活していた別の邸宅には火を放たれ、完全に焼け落ちたとか。焼け落ちた別邸の様子は確認しています」
「第三夫人とお子様はたまたま実家に戻っていて難を逃れたそうですが、焼け跡からはその家を管理していた者達の死体が見つかったようです。南方伯は犯人を捕まえる為にすぐさま国境を含め領内の検問を強化し、辺境軍を動かして捜索していますが、犯人は未だ捕まっていません」
「では王都の南方伯邸に移り住むのは第二夫人とその子供と言う訳だな」
喋り続けていた団員が一度言葉を切った所で、父さんが質問を挿んだ。
王都に来るのが第二夫人だと判断したのは、第三夫人達はそのまま実家に留まると考えたからだろう。
「はい。南方伯自身はエルツを離れないようですが、王都への護衛の為に腕利きを集めているとか」
「犯人についての情報はどうだ。第二夫人と第三夫人、どちらも去年南方伯の男児を産んだ方々のはずだ。どちらかが相手を蹴落とす為にこの事件を引き起こしたなどの噂は広がってなかったか?」
「最も耳にした噂は、傲慢な気質のある第三夫人が思慮深い第二夫人を息子諸共殺害しようとしたというものです。しかし、第三夫人が居ない時を態と狙って第二夫人が事を起こしたんだという話もありました。勿論、その2人に関係無い勢力が南方伯の命を狙ったんだとの噂も有りましたが」
被害者と見せかけて実は首謀者だったという可能性か。第三夫人に罪を擦り付けて蹴落とすにしても、俺だったらそんな選択はしないな。自分に仕えていた従者の命も一緒に取るなんてあくどいやり方だ。
「第一夫人の、つまりローザリンデ様の噂はどうだ。ローザリンデ様が2人を排除しようとした。そういう意見は無かったか?」
また耳を疑うような質問を父さんがぶつける。
「ローザリンデ様は他の夫人達よりもエルツでの生活が長く、昔から領民に慕われている存在だったようで、そういった話は一切ありませんでした。こちらからその話をしてみたら、逆に怒られるほどで」
「そうか、それならローザリンデ様達を村に迎えるというのは悪い判断じゃないか。後は、使者が言っていたと国境に魔物の集団が向かって来ているとの話だが、そちらはどうだった?」
「私が国境の街を出た時までにはそのような話は一度も聞きませんでした。検問を担当する役人や兵士以外は、落ち着いた雰囲気でした」
「なるほど。それならば魔物の話は襲撃を隠す為に用意した偽情報の可能性があるな。一応念の為に、暫くの間は南の国を探らせるか」
そう父さんが言葉を終えたタイミングで、ローザリンデ様達が村に到着したとの報告が入った。




