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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第38話 俺は住人の不満に耳を傾ける

 村で行われる今年の誕生祭には、特別なお客様が参加している。


「ローザ様お久しぶりです。体調は問題ありませんか?」


 男爵邸で俺達の到着を待っていた人物に、俺は頭を下げて挨拶をした。

 南方伯夫人のローザ様と娘のローズさん、ロジーちゃんが昨日から村に滞在している。


「おかげさまで体調は大変良好です。夏の暑くなる前には娘達と一緒に領地に行って、主人にも会って来たんですよ。その時も旅の疲れを全く感じないほど体には力が漲っていました」


 それは良かった。

 この世界の馬車は良く揺れるから長期間乗っていると疲れる。だから俺はあまり好きじゃないんだよね。

 確か南方伯領までは3日か4日は馬車に揺られる必要があるから健常な人でも辛いはずだ。それでも疲れを感じないなんて、病気になる前よりも元気になってそうだな。


 俺がローザ様の言葉を素直に受け取って喜んでいると、ローズさんが近寄って来てこっそりと声を発した。


「お母様は喜んでいるけど、向こうの人達はあまり良い顔をしてなかったのよ。お父様も含めて、ね。だから私達はお母様の病気が良くなっても王都で暮らしているの。だから、まあ、これからもよろしく」


 最後はちょっとだけ照れくさそうにしてローズさんは言葉を終えた。


 なんだ、ローズさんにも可愛い所が有るじゃないか。

 そうやっていじらしくしているか、ロジーちゃんみたいに素直な性格だったらローズさんもモテるだろうに。普段のローズさんはちょっと棘が有るんだよな。


「あんまりニヤニヤしていると、背後からローズさんにずどんと刺されますよ」


 ニヤニヤして無いんだよマリー。これはいつも通りの顔だ。それに刺すに対してずどんは擬音として間違ってるだろ、どんな武器なんだよ。刺されても問題無いけど、その擬音は何か怖いから止めてくれ。


 ちょっとローズさん。なんでそんな顔で睨みつけて来るんですか。マリーは俺を弄って楽しんでいるだけですからね。発言を鵜呑みにしてはダメですよ。

 バカにしているなんてとんでもない、ちょっと可愛いなって思っただけですから。




 何とかローズさんの誤解が解けたところで、誕生祭を開始した。

 去年と同様に俺の挨拶から始まり、子供達にプレゼントを与える。

 人族の男児にはソゾンさんの剣を、獣人族の女児には積み木の知育玩具を。

 子供2人はよく解っていない感じだったが、受け答えが上手に出来たと両親に褒められた時は素直に喜んでいた。


 俺も自分の誕生祭の時、王様との受け答えを練習した。懐かしくてつい頬が緩んでしまった。


 カエデ達は来年誕生祭か。いや~、今から来年の晴れ舞台が楽しみだね。

 父さんは来年もグリューンで誕生祭をやらないとダメだからカエデ達の晴れ姿を見られない。

 少しだけ、ほんの少しだけいい気味だと思っているのは内緒だ。




 誕生祭のメインイベントが終わると、後は各自食事を楽しみ、お酒を呑んで、友好を深める時間。

 俺は新しく村に来た人達への挨拶周りに忙しかった。一応村へ移住する前に男爵邸まで挨拶に来てくれたから顔は覚えているけど、村の暮らしに慣れたかどうか確認するのも領主の仕事だと母さんに言われたからね。


 俺の謹慎中に村で暮らすようになったのはパスカル先生も含めて3家族。

 入植したのは家屋が出来た5月頃だから、もう4か月近く経過している。不満が有るならとっくに声に出しているだろうと思ったけど、そうじゃなかった。皆遠慮していたのかな。


 不満の1つは大人が気晴らしに遊べる場所が無いと言う意見だった。

 流石に王都と比べられると困るが、確かに村に娯楽施設は少ない。特に大人用の娯楽施設はプールぐらいしかない。温水プールだから冬も泳げるけど、基本的に水魔法を練習する場になっているみたいだ。

 今考えられるのは居酒屋くらいか。流石に大人のお店を俺が提案するのは気が引ける。そういうのは父さんと話してほしい。ということで大人の不満は大人に丸投げした。


 イゾルデ先生からは診療所のスタッフについて相談を受けた。

 何人かの女性が看護師として働くことを希望しているらしいが、どうしたものかと。

 今の村の診察数では先生一人で問題無く回せるから雇うとしても1人だけになるらしい。

 しかし希望者は皆医療に関しては素人。比べてみても大差ない。誰を雇ったら良いものかという相談だった。


 いや適当に選んだらいいじゃん。


 と口に出しそうになって堪えた。

 一見優しそうな雰囲気を纏っているイゾルデ先生だが怒らせると手が付けられなくなるとパスカル先生から話は聞いている。

 折角相談してくれたんだから何か1つくらいはアドバイスをしなければ。


 取り敢えず、ニコルさんの診療所で修業してもらう事を提案した。

 あそこは最近とても忙しくなっていつも人手が足りないと文句を言っているくらいだから、素人でも多少は受け入れてくれるだろう。そこで数か月研修してもらって更にやる気のある人はイゾルデ先生の下で看護師として働いてもらおう。


 笑顔が崩れていない。どうやらイゾルデ先生は納得してくれたようだ。

 後はニコルさんにも話を通さないと。何人まで受け入れてくれるかな。眉間に皺が寄ったニコルさんの顔が既に脳裏に浮かんでいる。




 時間が経ってくると酒に酔った住人達に無理難題を吹っ掛けられるようになった為、俺は男爵邸に避難した。流石にお金がかかり過ぎる提案を謹慎明けすぐ受ける程俺は馬鹿じゃないのだ。




 翌日、団員達の為に二日酔いに効く薬を作るようエステルさんに頼んでいると、王都から急使がやって来た。


「南方の国境に向けて魔物の大軍が進行して来る可能性が有る。万一に備えて後継ぎとその母は王都の南方伯邸に避難させる為、ローザリンデは娘と共にそこを立ち退くように」


 それは何とも理不尽で、祭り明けの人達をイラつかせるには充分な内容だった。

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