第25話 俺は姉さんを送り出す
魔力検査前日、姉さんは特に気負う様子もなくいつも通りの時間に就寝し、当日もいつも通りに起床した。
逆に俺の方が緊張して眠れず、徹夜してしまった。
食卓に座ってみんなが起きてくるのを待つ。今日はみんなで朝食を食べる予定だ。
このまま朝食を食べて、姉さんを見送ってから寝よう。
誕生祭と違って魔力検査は1日で行われる。
1日で行うからお城と街の冒険者ギルトの2箇所を使う。
お城は王侯貴族関係者、冒険者ギルトは庶民を担当する。でも庶民の方が数が多いから、貴族に仕える者や豪商などの子弟はお城で検査をするらしい。
俺はマリーと一緒にお城で検査を受けられるようだ。1人だと緊張するからよかった。
姉さんももちろんお城で。午前中に登城し、お昼前には帰ってくる予定だ。
検査で誰が1番だったのかは翌日発表されるらしい。俺には直接関係無いのに、明日まで緊張が収まりそうにないね。
ようやくみんな起きてきた。父さんが一番最後に席に着く。
すごく眠そうな顔をしているね。気持ちはよく分かるよ。
姉さんの健闘を祈って乾杯をする。お酒じゃなく果実のジュースで。
姉さんの好きな料理が食卓に並んでいる。コックが朝から頑張ってくれた。
こういう時に日本ではトンカツなんかを食べるんだけど、そういう縁起を担ぐ食べ物はないそうだ。姉さんが喜んでいるから、問題無いんだけどね。
食べ終わったら動きやすい服装に着替える。正装じゃなくてもいいらしい。俺は寝間着のままだけど。
今日は父さんが姉さんに付き添ってお城に行く。今日は仕事を休んだんだそうだ。眠そうだけど大丈夫かね。
若干ふらふらしている父さんを姉さんが引っ張って外に出た。
誕生祭より参加する人数が多くて馬車だと混雑するから、歩いて行くんだよね?
なんか姉さんの邪魔をしているような気がするけど、しっかりして。
母さんに頬っぺたをつねられて泣きそうになってる父さん、全く同情出来ない。本当に気をつけてよ。
「ねえさん、いってらっしゃい」
ようやく2人は出発した。よし、寝よう。
2人が見えなくなったら、母さんやアンナさんも欠伸を見せるようになった。もしかしてみんなも眠れなかった?
みんなで二度寝していると、お城から父さんの使いがやって来た。
なんでも姉さんの魔力測定中に、測定用の魔導具が不具合を起こしたらしい。
直ぐに新しい魔導具を用意して検査は再開されたが、姉さんの順番は最後に回された。だから帰るのが夕方になるとの連絡だった。
え、なんで最後に?
魔導具の不具合ということになっているが、魔導具の許容範囲以上の魔力が流れ込んで故障した可能性がある。また壊されたらどんどん試験が遅れるから最後になった、と。
それって凄くない?姉さんの魔力がとんでもない量だったってことでしょ。
伝令の人、ありがとう。もし姉さんの技能試験を観られるのなら期待しといてね。
さてどうしようか。姉さんの帰りを待ってご飯を食べに行く予定だったのに、夕方まで暇になっちゃったね。
昨日も行ったけど、マギー様の教会にもう一度行こうかな。その後は図書館で時間を潰そう。マリーは何かしたいことある?
じゃあ教会にレッツゴー。
日が沈む前に姉さんと父さんは帰って来た。
2人ともいい笑顔だ。上手く行ったことを物語っている。
「アリーは凄かったぞ。王子にも負けてなかった。今年の1番はアリーのものだ」
「お城の食堂で食べた料理が美味しかった。また食べに行きたいな」
父さんと姉さんで喜びの内容が違うんだが。
お城で働く兵士や役人用に食事を提供する食堂があって、お金を払えば誰でも食べる事が出来るらしい。
いいなぁ、俺も食べに行きたい。
お城に入るのは許可がいるから、誰でもは言い過ぎだって母さんが指摘する。
ああそうか、じゃあ今度お城に入れるのは俺の魔力検査の時だから、4年後か。ずっと先だなぁ。
「そんなことはないぞ。検査の数日後に慰労会がお城で開かれるんだが、上位の者は家族の参加も許可されるんだ。慰労会には美味い食事が出るぞ。アリーは王子を抜いて1番間違い無しだからな。ゲオルグも一緒に参加しよう」
おお、そういうパーティー的な物があるのか。是非参加したいけど、マリーは?
「マリーの事は気にせず、参加して来てください」
俺の目線に気付いたのか、マルテがそう言ってくれた。マリーは何の事か分かってないようだけど。
容器を持って行ったらお持ち帰りさせてくれないかな。
父さんにお持ち帰りを提案したら笑われた。やっぱりダメか。
翌日、王国中に魔力検査の結果が公開された。
王族が参加する年は王族が1番になる、という大方の予想を覆し、知名度の低い男爵家の娘がトップだったことに皆驚愕した。
我が家はその日お祭り騒ぎで、いろんな人がお祝いに訪れた。
姉さんはお祝いに来てくれた人に、技能試験を再現してみせた。
姉さんによって作られた四神達も、一位を喜ぶように生き生きとしていた。




