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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第35話 俺はオレンジ色のドレス姿に見惚れる

 4月1日、パスカル先生の引率で6人の子供達が我が家にやって来た。


 今日から王都の学校に通う新入生達だ。


 俺はその中の1人に目を奪われている。


 獣人族のクロエさんだ。


 去年村に滞在していた時以来だから、約1年ぶりの再会かな。


 少し背が伸び、大人っぽくなってきた。去年会った時は髪は短く切り揃えられていたと思うけど、今は長くなった髪を後ろでお団子に纏めている。似合ってるねと言うと、少し顔を赤らめてありがとうと言ってくれた。


 うむ、可愛い。


 やっぱりクロエさんは可愛いな。髪からひょっこり顔を出している耳もまた可愛い。

 入学式の後に開かれるパーティー用に用意した暖色系のドレスも、農業をすることで浅黒く日焼けした肌に、良く似合っている。


「クロエさんばかり見てないで他の人達にも声を掛けてくださいね。折角挨拶に来てくれた先輩達に失礼ですよ」


 べ、別にクロエさんにばかり注目している訳じゃないよ。


 他の5人もパーティー用の正装が良く似合ってるね。気を付けて行って来てね。困った時はパスカル先生か姉さん達を頼ってね。


 雑っ、とか言わない。マリーがそう言うと皆そう思うでしょ。


 孤児院出身の5人の事もちゃんと見てるよ。

 でも、教師役のマルテやクリストフさんからは勉強する意欲のある子達ばかりだって聞いているし、孤児院出身グループの中ではリーダー的な存在の男の子が居るから、特に心配して無いんだよね。

 ニコルさんの診療所の場所も教えたし、鷹揚亭もジャム屋さんも魚人族の料亭にも顔見せに行ってもらった。何か困った時に駆け込む避難所は確保している。


 皆、場所は覚えてるよね。何か有っても、絶対にクロエさんは護るように。


 うん、じゃあ、行ってらっしゃい。




 入学式から始まった4月のある日、いつも通りマリーに草木魔法を習いに来たアプリちゃんは、いつも以上ににこやかな笑顔を見せていた。


 何か良い事が有ったのかと聞いてみたら、内緒だよと前置きして話してくれた。


「お父様のご先祖様にエルフ族の人が居る事が解ったって教えてくれたの。お父様の体にもエルフ族の血が流れているから、アプリがエルフっぽい事を嫌がらなくてもいいんだよって言ってくれたの」


 最後にもう一度、内緒だよと付け加えてアプリちゃんは満面の笑みを見せてくれた。


 父さんの言葉を聞いた国王と宰相が王族の系譜を改めて調べたんだろうか。

 それでアプリちゃんに声を掛けたと。

 本当にエルフの血が入ってるかどうかは解らないけど、自分の体の事で悩むアプリちゃんの気持ちがそれで晴れたのならとてもいいことだよな。


 まだまだニット帽は手放せないようだけど、いつかそれを脱ぎ捨てられる程、可愛らしい耳に誇りを持てるといいね。




 4月は村の方でも大きな変化が有った。


 王都に住む2家族が引っ越しをしたいと申し出て来たからだ。


 態々王都での暮らしを放棄してまで村に来る事を決めた理由は何だろうと思ったら、ロミルダの魔力検査が原因だった。


 1つの家族はロミルダと同級生の女の子を持つ4人家族。女の子はロミルダの2人後ろ、同じ時間帯で検査を受けていたらしい。そして1つ年下の弟君とご両親は、女の子を応援する為に観客席に居た。

 家族全員ロミルダの草木魔法に、そして会場に飛び出して行った姉さん達の姿に憧れたらしい。


 ご両親は仕事を止めてでも引っ越して、子供達に村の教育を受けさせたいと願い出た。

 最初に4人で男爵邸にやって来た時は驚いたよ。

 すぐに父さんに連絡を取って話を進めてもらった。


 もう1つも4人家族だが、こちらは男子学生が1人と魔力検査前の男の子が1人。学生は姉さんの2つ上の学年らしい。姉さんはその子の事を知らなかったが、向こうは姉さんの事を認識していた。流石、どこに行っても目立つ人だ。


 この家族のお父さんがクリストフさんの後輩らしく、王都であって話をした時に興味を持ったらしい。

 クリストフさんは村の子供達の面倒を見るのも大変だろうに、態々王都まで行って村の住人を集めてくれるなんてありがたい。


 だが、今のところ生活する為の住居が無い。

 パスカル先生の家もまだだ。


 4月中にはヴルツェルの建設部隊がやって来て温室と住居の建設を開始することになっている。

 恐らく5月中には住居が完成し引っ越しが始まるだろう。

 温室もお香専用、ハーブティー専用と順次増やしていく計画の様だ。それらを気に入ったマルティナ様の意見が、薬草に拘っていた父さんの心を動かした。

 お香やハーブティーはエステルさんの力を借りずとも加工出来る商品だから、エステルさんの負担が増えなくて良かった。


 それからもう1つの朗報。

 村に診療所が出来る。

 パスカル先生の奥さんが村への引っ越しを機に軍を退役して暇になる事を聞きつけた父さんが、図々しくも村での医者役をお願いした。奥さんは若い頃からずっと軍の衛生部隊で働き、最近は新兵の教育や衛生部隊の取り纏め役を担っていたらしい。


 ただ残念ながら、自身の出産歴はあるが産婆としての経験は無いらしく、出産時には相変わらずニコルさんの部下を呼ぶ事になる。今年も何人か出産予定だ。


 それでも村に怪我や病気を見てもらえる所があるのは心の支えになる。エステルさんの回復魔法に頼る訳にはいかないからな。




 家の中に引きこもり、色々な人の話を聞きながら、妹をあやす日々。

 朝のラジオ体操と剣術稽古は続けているが身体は鈍る。

 何か魔導具でも作ろうかなと思っても、家の中に居るだけでは特に必要な物も思いつかない。

 取り敢えず新しく村に来る家庭の為に、既に他の家族には配っている冷蔵庫やポットを作ったが、同じ物を作るだけなのであっという間に終わってしまった。


 今年9月の誕生祭を村で祝うのは2人のはずだから、今からプレゼントを用意しておこうかなと考えながら俺は8歳の誕生日を迎えた。

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