第32話 俺は教師役を選別する
俺は食堂内に集まっている人達に、アプリちゃんの教師役を担当してくれる人は居ないかと、声を掛けた。
このなかでアプリちゃんに草木魔法を教えられる人、手を挙げて。
はいっ、と元気よく声を出して手を挙げた姉さん。それとアンナさんとマリーね。
エステルさんは今日は王都に来てない。学校が始まる前に村の温室の整理をしたいそうだ。
ロミルダはどう?
そうか、まだ人に教えられる程の自信が無いか。
しかし教えるにしても、どこで教える?
まだ3月下旬だけど、4月になって学校が再開すると姉さんは通学しなきゃいけないからダメでしょ。
アンナさんが姉さん達を送り終わった後のお昼の時間帯を使うか、俺と一緒で暇人のマリーが教えるか、だね。
姉さんがもの凄くがっかりしてるけど、仕方ないでしょ。
学校内にアプリちゃんが出向くと他の学生達が騒いじゃうからね。
「それならアプリちゃんに村に来てもらったらいいよね」
いやいやダメでしょ姉さん。こちらからお城に出向くんだよ。ね、アンナさん。
「私は日中もリリー様の手助けや屋敷の管理で忙しいんですよ。男爵様に頼まれた仕事もしなければなりませんし、いくらゲオルグ様でも暇人扱いされるのは心外ですね」
あ~、はい、すみませんでした。そうですよね、俺が知らないだけで皆何かしら仕事をしてますもんね。
じゃあ、マリーかな?
「私にはゲオルグ様を監視すると言う大事な役目が有りますので。無理ですね」
父さんにそう言われたのかもしれないけど、そんなにはっきりと監視って言わなくても。
それならどうするよ。アンナさんもダメ、マリーもダメ。
もう一度自分にお鉢が回って来るかと思ってわくわくしてるみたいだけど、姉さんもダメだからね。
そうなると。
ロミルダ、暫く王都で暮らす?
「え、いや、でも。両親も心配すると思いますし、やっぱり私に教師役はまだ荷が重いです」
う~ん、困った。どうしよう。
エステルさんも温室があるから村での暮らしを止めないだろうし、マチューさんは絶対に東方伯が手放さないだろうな。海を渡ったシビルさんはまだ帰って来てない。
どうしようかとうんうん唸っていると、母さんと話し続けていたマルティナ様に声を掛けられた。
「そんなに難しく考えなくてもいいですよ。私がアプリを連れて毎日この屋敷に来ますから。マリーさん、アプリをこの屋敷に連れて来たら、魔法を教えてくれますよね」
マルティナ様の言葉に、マリーは畏まりましたと返答する。
ええっ、それで大丈夫なんですか?
「毎日は無理でしょうが、出来る限りの頻度で連れて来ます。私は仕事も無く暇人ですから。連れて来られない時用にお城で出来る訓練が有れば、それを教えて頂けると助かります」
「でしたら、植物の世話を毎日やってください。出来るだけ色々な種類の植物と接してください。植物の種を植え、芽吹き、茎が伸び、葉を付け、花と実が生り、そして枯れるまで。植物の知識をいっぱい身に付けてください。それが草木魔法を使う時の助けになります。後は、ラジオ体操ですかね」
マリーがマルティナ様に助言する。これはロミルダが草木魔法の練習を始めるずっと前からやっていたことだ。
植物をどう操るかを想像する時、その植物がどう成長するかを知っていなければ想像することは難しい。草木魔法は知識の魔法だ。姉さんくらいの魔力があると、知らなくて動かせるみたいだけど。
「分かりました。お城には私専用の花壇が有ります。早速今日帰ったらアプリ用の場所も作りましょう。一緒に植物をたくさん育てましょうね、アプリ」
マルティナ様の話を聞いていたアプリちゃんが漸く笑顔を取り戻した。
母親と一緒に、と言う言葉が効いたのかもしれない。
話の方向性が決まった後、子供達は庭に出て魔法の実演会を行った。
姉さんが少々気合を入れ過ぎて大きく伸ばした植物がお隣さんの敷地内に侵入してしまった事以外は、特に大きなトラブルは無かった。お隣さんが良い人で本当に助かっている。
王子も随分と魔法の練習を頑張っているみたいだ。去年の魔力検査の時点で火と土と風を覚えていた王子は、この一年水魔法の練習を頑張って、桶に貼られた水を波打たせる程度に魔法が使えるようになっていた。
金属魔法を習得せずに水魔法を覚えようとすると、習得する進歩はかなり遅いようだ。
水魔法の前に金属魔法を覚えた方が良いよと伝えて、マリーに金属魔法の手本を見せてもらった。
でも金属魔法の練習をするなら鍛冶を習うのが一番なんだけど、流石にそれは王子には危ないかな。
しかし王子は鍛冶と聞いて、今度職人の所へ行ってみると気合を入れている。
気合が入るのは良いんだけど、火傷して妹を泣かせないように気を付けるんだな。
俺達が庭で騒いでいる間、マルティナ様は母さんと一緒にお灸を施術してもらっていた。
帰りにはお香も持ち帰っていたし、マルティナ様が一番今日の訪問を楽しんでいる様だった。




