第29話 俺は先生方の手助けを有り難く思う
毎年魔力検査が終わった後に、総合成績上位3名が王様から直々に表彰される。
だが今年は、父さん達に働きによって新たに3つの特別賞が設立された。
1つ、卓越した魔力量を内包する者に贈られる賞。通称、魔力賞。
その年に行われた魔力検査の測定試験で最も高い数値を出した者に贈られる賞。
2つ、卓越した魔法操作術を持つ者に贈られる賞。通称、技能賞。
その年に行われた魔力検査の技能試験で最も魔法操作に秀でた者に贈られる賞。
3つ、卓越した独創性を披露する者に贈られる賞。通称、創見賞。
その年に行われた魔力検査の技能試験で独創的な魔法を見せた者に贈られる賞。
因みにこれら3つの特別賞は総合成績優秀者が勝ち取る場合もあり、3つの特別賞が1人の子供によって独占される場合もある。
恐らく姉さんの時代にこの特別賞があれば、全て姉さんが掻っ攫ったんだろうなと断言できる。
その特別賞の中でロミルダは魔力賞を頂いた。魔力量はその年の子達の中で1位だったからな。
しかし残念ながら技能試験で失格となってしまったため、総合成績で上位とはならなかった。
父さんは再試験を要請してある程度粘ったようだが、粘り過ぎて立場が悪くなりすぎる前に方針転換。特別賞の新設を願い出た。
事前に相談していたライマー先生やパスカル先生、先生達の教え子を味方に付けて王に直訴し、今回急遽特別賞を新設する事になった。
魔力検査1位の者が何も表彰されないのはおかしいという先生方の主張を国王が受け入れてくれたそうだ。
最初に会った時に変な老人達だなと思ってごめんなさい。
両先生には大変お世話になりました。今度会った時はちゃんとお礼を言わないと。
「私は今度の慰労会には参加しないことにしました」
表彰者が発表された数日後、王都の図書館で本を読むついでに、ロミルダが家にやって来た。ロミルダだけじゃなく、4月から学校に通う予定の子達も王都に来ている。その子達はパスカル先生と学校の見学に行っているらしい。4月からはパスカル先生と一緒に高速船で通学するそうだ。
登下校が教師と一緒ってなんとなく落ち着かない気になるのは俺だけだろうか。
ロミルダと最近の村の様子などを話する流れの中で慰労会の話に振れると、ロミルダはそれに参加しないと言う。
なんでよ。豪華な建物と美味しい料理があるお城でのパーティーには、人生一度は参加しておくべきものだよ。
「建築物には興味ないですし、美味しい料理は村で食べられます。それに、パスカル先生からも慰労会への参加は辞退した方が良いと助言を頂きました。何か悪さを仕掛けてくる者が居るかもしれないから、謙虚さを見せておいた方が良いと」
なんだよそれ。折角頑張ったんだから、堂々と表彰を受けてやればいいんだ。
嫌がらせをして来るような奴は返り討ちにしてやればいいんだよ。
「特別賞を新設するのに、男爵様も先生方も随分力を尽くしてくださったようなので、もうこれ以上迷惑を掛けたくないんですよ。それにゲオルグ様が用意してくださっている褒美だけで私は満足です。父はまだキュステから帰って来てないんですが、もうエステルさんと相談して庭に植える場所も決めてるんですよ」
アヒムさんの輸送部隊がキュステから運んでくる桃の苗木を想像したのか、ロミルダが楽しそうに燥いでいる。
総合1位にはなれなかったが測定試験で1位になったことを記念して、桃の苗木を贈ることを俺はロミルダに約束した。
マチューさんに頼んでいた植物の本もそろそろ執筆が終わるんだけど、それは村の蔵書にすることにした。ロミルダも本が読めるのならそれでいいと言ってくれた。その話を聞いて一番喜んでいたのはパスカル先生だったと思うけど。
まあロミルダ本人が慰労会への参加を辞退すると言うのならこれ以上何も言うまい。
今回は残念だったけどこの経験を活かして、来年魔力検査を受ける子達の手助けをしてあげて欲しい。
「はい、私の失敗を繰り返さないよう皆に伝えますね。でも私の魔法を見て自分も草木魔法で検査を受けると無茶を言っている子が居るんですよ。来年には植物の種を検査に使用出来るよう努力するとパスカル先生が宣言していましたが、大丈夫なんでしょうか。今後エルフの子供が魔力検査を受ける時が来たらどうするんだと王様を叱りつけて来たって自慢してましたけど」
お、おう。
あのいつも飄々とした様子のパスカル先生が怒鳴る所なんて想像し辛い。しかも王様に直接、だなんて。
そんな大胆な事が出来る人だとは思わなかった。
「今の王様も教え子で、小さい頃から良く知っているそうですよ。前の王様とも知り合いだったとか。人は見かけによりませんね」
確かに見かけでは人の内面や人間関係は掴めない。でも変な人なのは間違いないよね。
「あんまり変だ変だと言っていると、ゲオルグ先生も怒られますよ。謹慎が解ける頃にはパスカル先生も正式に村の住人ですからね」
そうだった、パスカル先生は奥さんと一緒に引っ越してくるんだったよね。
随分とお世話になったから引っ越し祝いを贈らないとね。何が良いと思う?
「毎日温室で薬草の世話をしていますから、新しくパスカル先生用の温室を建ててあげるのが一番喜ばれるんじゃないでしょうか」
そんなことしたらまた父さんに怒られるだろ。流石に謹慎開けにまたすぐ怒らせたら、二度と家から出られなくなりそうだよ。今も暇で暇でたまらないんだから。
それからしばらく、俺がどれくらい暇かと言う愚痴を垂れ流すのを、ロミルダは笑顔を崩さず聞いてくれた。
愚痴を言うと面倒くさそうにするマリーとは大違いだ。
おっとこれはマリーには内緒。絶対に怒られるからね。約束だよ。




