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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第27話 俺は倒れた後の状況を聞く

 ロミルダが競技場で倒れた後、私達は観客席を飛び出し、飛行魔法で競技場内に着地した。


 ロミルダの魔法に反応して巨木に育った街路樹が、競技場内に自らの葉っぱを飛ばし始めたからだ。


 大量に飛来する葉っぱの群れは2手に分かれて行動していた。

 1つの集団はロミルダの願いを受けて、ふわふわと浮遊しているだけの土塊に襲い掛かる。鋼鉄の刃物の様に鋭利な武器と化している葉っぱが、次から次へと土塊に体当たりしながらそれを切り刻み、検査官が動かす間も無く土塊を地面へと返してしまった。

 もう1つの集団はロミルダの周りをグルグルと飛び続ける。倒れ伏すロミルダを心配してか、彼女を護っている様な動き方だった。


 それだけならまだ良かったんだが、土塊を破壊し終えた葉っぱ達がロミルダを護る集団と合流する為に移動を開始した時、ようやく動き始めた周囲の検査官達とかち合う。検査官達が身を護る為に葉っぱを撃ち落とした事で、街路樹は検査官達を敵と認識し、攻撃を開始した。


 魔法の暴走だ。


 注ぎ込んだロミルダの魔力が枯渇するまで街路樹は行動を止めない。

 大きく育った街路樹にはまだまだ多くの緑が茂っている。

 失った葉っぱを逐次投入し、物量によって敵と認識した検査官達を翻弄する。


 戦う検査官、逃げ惑う検査官、検査の順番待ちをしていた子供達を避難させようとする検査官。

 怒声が飛び交い悲鳴が上がり、競技場内は混沌とし始めた。


 この状況を打開し草木魔法の悪評を広めない為に、瞬時に動き出したアリー様に続いて私達は介入した。

 やり過ぎてしまったロミルダの名誉の為にも。


 アリー様は炎を全身に纏わせながら、増援として飛来する葉っぱの進路を塞ぎに行く。

 大きな炎の壁となったアリー様を迂回して後方の検査官達を狙おうという動きを見せる葉っぱの集団には、大きな火球を放って集団を燃焼させる。

 細かく散ってバラバラに行動しようとする葉っぱには小さな火球で丁寧に撃ち落としていく。

 圧倒的な物量に個人で対峙するアリー様の姿に、逃げずに残っていた観客からはいつしか声援が送られていた。


 増援の葉っぱ達をアリー様に任せた私とアンナさんは、初期に動き始めた葉っぱ達に対処した。


 私は検査の順番待ちをしていた子供達の避難誘導をし、アンナさんは勇敢に葉っぱと戦う検査官らの援護に回る。


 アンナさんは風魔法で検査官に纏わりつく葉っぱを吹き飛ばし、小さな風の刃を放って飛び散った葉っぱを切り刻んでいく。


 避難誘導を終えた私は、未だ倒れ伏して動けないロミルダを助けようとしているアヒムさんの援護に回る。私達に遅れて、娘を心配したアヒムさんも競技場内に飛来していた。


 ロミルダを護ろうと渦巻く葉っぱ達を少しずつ火魔法で撃ち落としていたアヒムさんだが、娘へ被害が及ぶことを恐れて大胆に動く事が出来ずにいた。


 私はアンナさんがやったように風圧で葉っぱを吹き飛ばそうとしたが、一部の葉っぱを弾き飛ばしても次から次へと葉っぱがやって来て空いた穴を塞いでいく。更に魔力を込めてと考えていると、娘に害をなさないようにとアヒムさんから釘を刺された。

 そこで私は金属魔法でメタルジークを2体生み出し、葉っぱの渦に突入させる。


 甲高い金属同士の衝突音を奏でながら葉っぱの渦を通過した2体のメタルジークは、ロミルダの上に覆いかぶさり、そこで姿を変える。

 自らどろりと融解しながら2体は結合し、ロミルダを覆うドームとなった。葉っぱが通過出来無いような小さな空気穴も用意した。


 葉っぱ達はロミルダを隠した金属ドームに攻撃を開始するが、文字通り歯が立たない。


 葉っぱ達に反撃する為、私は金属ドームから小さな針を打ち出して空中の葉っぱを迎撃した。

 火魔法では金属ドームにも害をなす可能性があるから、アヒムさんには風魔法で葉っぱを攻撃してもらった。


 無事ロミルダを護っていた葉っぱ達を全て粉砕した後、アヒムさんはロミルダを背負って避難を開始した。


 その頃にはアンナさんも仕事を終えており、まだ戦っているのは街路樹との力比べを楽しそうに続けているアリー様だけになっていた。






「エステルさんは何をやってたんだ?」


 姉さんのその後は聞かなくてもよく解るが、全く名前が出てこないエステルさんの事が気になって、俺は話に割り込んだ。


 ロミルダから話を聞いた後、俺はロミルダが気を失っている間の出来事をマリーに話してもらった。一緒にロミルダも話を聞いている。


 俺の質問にマリーは少し表情を暗くして話の内容を切り替えた。


「エステルさんも動こうとはしていたんですが、一緒に観戦していたパスカル先生に止められた為、前には出ませんでした。エルフ族が出て来ると話がややこしくなる可能性があるとのお考えでした。なのでエステルさんは観客席に残って、街路樹の攻撃が観客席側に来ないよう見張ってもらっていました」


 観客席の防御よりも、動く街路樹をエステルさんの草木魔法で操作してもらった方がよかったんじゃない?


「あそこまで巨大に成長した植物に、外部から干渉することは厳しいと仰ってました。失敗したら自分の魔力も吸収されて更に巨大になり、魔植物に変貌する可能性がある。だからアリー様がやったように持久戦を挑み、街路樹に込められた魔力を吐き出させるのが一番だそうです」


 ロミルダはどれだけの量を街路樹に込めたんだ?

 エステルさんが力負けするかもしれないだなんて、凄いじゃないか。


 俺の言葉を聞いたロミルダは少し照れたように、やり過ぎましたと言葉を返す。


「長年育った植物は魔力を溜め込むことがあるそうです。王都の街路樹はどれも立派ですからね。街路樹が蓄えた魔力にロミルダの力が加わり、エステルさんの力を上回るほど大きく成長したんでしょう。と帰り道にエステルさんが分析してました」


 なるほどね。それでもロミルダは凄いよね。本職の草木魔導師の力を上回るほどの植物を育て上げたんだから。


 これは絶対に魔力検査上位3人には入ったね。急いでキュステもマチューさんに連絡して、頼んでいた物を用意して貰わないと。


「帰宅前に分かれたパスカル先生が、この騒動によってロミルダの力が正常に判断されないかもしれないと仰ってました。お城に勤める教え子を通して出来るだけ擁護はするとも仰ってましたが、残念な結果になる事も覚悟しておいてほしいと」


 マリーづてに聞いたパスカル先生の言葉は、少し浮かれていた俺の心を乱れさせるには充分な破壊力があった。


 おろおろと狼狽える俺の隣で力無く笑いながら、やっぱりやり過ぎは良くないですね、とロミルダはぼやいていた。

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