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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第23話 俺はソゾンさんと約束する

 3月6日の午後、ローザ様御一行は帰路に就いた。


 最終日である6日も村での暮らしを楽しんでくれたようだ。皆良い表情で船に乗り込んでいた。

 やっと王都に帰れるという喜びで出た笑顔ではないと思いたい。


 お土産も持たせた。

 お香や精進料理に使う薬草だ。ローザ様は南方伯邸でもお灸をやりたいと言っていたが、火傷をさせる可能性が有る行為を従者の方々がやりたがらなかった。なので定期的にアンナさんが南方伯邸に伺い、お灸を施術する契約が結ばれた。お灸の材料はこちらで用意するが、それなりの金額を支払って貰えるので父さんは満足しているようだ。


 ローズさんにはそろばんをプレゼントした。数日しか触れていないのにローズさんの計算能力はみるみる上達し、今ではマリーと肩を並べて計算速度を競い合っている。俺は、まあ昔からそろばんでチャンバラするような子供だったから、お察しください。


 ロジーちゃんは村の本棚に置いてある絵本をとても気に入ってくれた。ただ残念ながらそれは村の備品なんだ、ごめんね。

 でも大丈夫、今新しい絵本を作ってるからね。

 俺は新しい絵本が完成したら絶対にプレゼントするとロジーちゃんと約束した。

 可愛い姪っ子の為にクレメンスさんにはもう1冊分気合を入れて絵を描いてもらおう。


 短い時間で準備するのは大変だったけど、皆が笑顔で帰るのを見送るのは気持ちが良い。


 もっと出来る事は有ったかもしれない。

 呪いについては結局何も解らなかった。

 でも、ローザ様の体調は確実に改善した。


 新型高速船が旧型を置いてけぼりにして走る水路を眺めて、俺は今回の出来事を満足していた。


 さて、次のイベントは3月9日、ロミルダの魔力検査だ。

 ロミルダも草木魔法を使った演技に自信を持っている。きっと技能試験では他の者を寄せ付けない評価を得るだろう。うん、上位入賞は固いな。

 冒険者ギルドが所有する競技場で行う技能試験はお金を払えば見学も可能だ。俺も応援に行くから、頑張るんだぞ。


「楽しそうにしているところに敢えて水を差すが、ゲオルグは9月6日まで自宅謹慎だからな。当然魔力検査の見学なんて許可しないぞ」


 あ、忘れてた。

 でもでも、半年間の謹慎を決めたのは2月なんだから、謹慎期間は8月までじゃないの?


「今の今まで謹慎せず自由に動き回っていた奴が良く言うよ。明朝の船で王都へ移動してから6か月だ。今回の件で更に謹慎期間が延びなかっただけでもありがたく思うんだな。これからは違反するたびに謹慎期間を大幅に延ばすぞ」


 父さんが態と低い声を出して厳格な態度を示そうとする。

 無理して脅さなくても暫くは大人しくしてるよ。でも、魔力検査は見学したいなぁ、なんて。


 嘘です、家でじっとしてます。


 流石に早速ルールを破ることは出来ないよね。危ない危ない。まだ何もしてないのに謹慎期間が延びるところだった。これ以上延びると次回の誕生祭も参加出来なくなっちゃうからな。流石にそれは辛い。


 ロミルダごめんな。俺は家で大人しくしているけど、しっかり応援するからな。




「おう、今日から謹慎じゃってな。あの男爵が息子に謹慎を言い渡すなんて、ずいぶんと派手にやったもんじゃな」


 3月7日、俺が王都に帰って来たことを聞きつけたソゾンさんが家にやって来た。

 なんですか、態々茶化しに来たんですか?


「そう怖い顔をするな。どうせ暇してるんじゃろうと思って、この前の魔導具の件を話に来たんじゃ」


 この前の魔導具?

 なんだろう。直近の魔導具と言えばライナー先生の魔導具の事かな。


「うむ、その通りじゃ。一応アリーに詳細は伝えたが、あの子の事じゃからちゃんと伝えておらんのではないかと思っての。聞きたいことが無ければそれで良いのじゃが」


 聞きたいことはある。

 あれは本当に闇魔法を検出する魔導具じゃないんですか?


「うむ、あれは闇魔法を検出する魔導具ではない。魔吸と同じ魔力を吸収する、もしくは魔法を分解して取り込むだけの道具じゃ」


 そうですか。ソゾンさんの口からそれを聞けたら、もう他に聞きたいことは無いです。


「なんじゃ、もうええのか。もっと色々聞かれるのかと思うとったが、拍子抜けじゃのう」


 えっ、でもどうしてあの魔導具が作られたのかとか、なぜ闇魔法を検出する魔導具として伝わっていたのかとか、知らないですよね。


「うむ、知らん。でも答えられる質問もあるぞ」


 なんですか、言いたいことがあるなら言ってくださいよ。


 ソゾンさんは口を開かずこちらの様子をじっと見て来る。俺が自分で答えに辿り着く事を期待するように。


 なんだ?

 何を聞いて欲しいんだ?

 ソゾンさんが分かる事。

 魔導具の構造、使われている魔石の種類、使われているドワーフ言語の構成、後はソゾンさんの祖父のこと。


 あの魔導具に使われていた魔石はどんな物だったんですか?


「知らん」


 違った。それは調べても分からないのか。

 そんな不満そうな顔されても困る。爺さんがほっぺたを膨らませても全然可愛くないからな。


 じゃあ、ドワーフ言語だな。

 う~ん、適当に言ってみるか。


 実はあれに刻まれていたドワーフ言語は闇魔法を基にしたものだった、とか?


「正解じゃ。それ故、魔吸を構成するドワーフ言語も基本は闇魔法じゃ。だからと言って言語から闇魔法を再現するのは不可能じゃがな」


 そんなに嬉しそうに喜ばれても反応に困る。

 つまり魔法としては失われたけど、ドワーフ言語としては残っているのか。


「うむ、儂の祖父は闇魔法を習得するために魔導具を色々と作っておったのではないかのう。確証はないが、祖父が残した魔導具の中には相手に呪いをかける物も有ったのかもしれん。もしゲオグルがそう言った類の魔導具を見つけたらすぐに儂に見せてくれ。儂の祖父の作品が悪用されているのなら、儂の手で破壊して弔ってやらねば」


 ソゾンさんの祖父は凄い人で、姉さんにはクソジジイと口悪く罵ったものの、尊敬もしているんだろうな。だからこそ悪用されて欲しくないと。


 ソゾンさんの気持ちは分かった。

 もしかしたらローザ様の体調悪化も闇魔法の魔導具が絡んでいるのかもしれないなと考えつつ、俺はソゾンさんと約束を交わした。

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