第22話 俺は魔導具を調べた結果を訊ねる
ローザ様達と遊び疲れた3月5日の夕方、姉さん達がパスカル先生と一緒に帰って来た。
ライナー先生は一緒じゃないみたいだ。ソゾンさんに魔導具の件を確認したらまた村に来るものだと思っていたけど、何か不都合でもあったのかな。
「ライナー先生は体調が悪いみたいだったから置いて来たの」
ライナー先生はどうしたのかと姉さんに聞くと、何でも無いような様子で答えた。寧ろ自分が言ったセリフに笑ってしまっているような始末だ。
体調が悪いのなら笑ってる場合じゃないと思うが。
「いや、ライナー君は仮病じゃから大丈夫じゃよ。秘蔵していた魔導具の真実を突き付けられて相当堪えたようじゃ。心は傷ついたかもしれんが、肉体の調子は問題無いからそのうち元気になるじゃろ」
姉さんの言葉を補足したパスカル先生はスキップしながら温室の方へ行ってしまった。
おっんしっつ~、おっんしっつ~と独特な音程で歌いながら去っていく姿は、身内の人が見たら卒倒するんじゃないかというくらい滑稽だった。
温室に向かったパスカル先生とエステルさんの事は置いといて、ソゾンさんのところへ行った結果をしっかり教えてくれと姉さんに問いただした。
「結論から言うと、ライナー先生が持っていた魔導具は闇魔法を検知する物では無かったの。ただ魔力を吸収するだけの魔導具なんだって」
大事にしてた魔導具が偽物だと知ったらそりゃ落ち込むだろうけど、もっと詳しく
「えっとね、あの魔導具は誰でも構わず一定量の魔力を吸収して集める魔導具だったはずって言ってた。でも中の魔石が一部破損してて、そのせいで魔石に書かれたドワーフ言語が少し削れて無くなってるんだって。それで、魔導具の動作が不安定になって、きちんと動く時と動かない時が出来てしまった。それが、あたかも魔導具が対象者を選別しているように感じた原因だろうって」
なるほど。確かにあの人に使うと動くけど、この人に使うと動かない、何て事を繰り返していたら人を選んでいるようにも見えるか。
でもどうしてそれが闇魔法を検出するなんて話になったんだろう?
「知らん。箔を付けて高く売る為に適当な理由を付けたんじゃろ」
何それ、ソゾンさんの真似?
少し似てるのが笑える。でも真面目に答えてよね
「クソジジイの考えていたことなど分かるはずないじゃろ、って言ってたよ。ここで言うクソジジイは師匠のお爺様の事ね。多分魔吸の練習用に作った失敗作を売ったのが回り回ってライナー先生の所に来たんだろうって。それを聞いたライナー先生の落ち込み様は酷かったよ」
ソゾンさんの爺さんに騙されたってことか。
失われた闇魔法に関する魔導具だと信じていたのに、偽物だと突き付けられたライナー先生の心中をお察しします。
御愁傷様です。
ライナー先生の住居は何処か解らないけど、取り敢えず学校が有る方角に向かって手を合わせた。
まあそれはそれとして、結局のところローザ様に闇魔法が使われたのかどうかも分からなくなり、振り出しに戻ったって事ね。
姉さんが見たって言うローザ様に纏わりつく変な魔力以外、何も手がかりが無くなっちゃったな。
「ん、そういえば今朝会った時はその魔力は気にならなかった。ちょっとローザ様の様子を見て来る」
姉さんはローザ様を探して飛んで行ってしまった。宿に居ると思うよ、と声を出したけど聞こえたかな
俺はこれからローザ様にどんなことをしてあげられるだろうかと考えながら、姉さんの飛行先を眺めていた。
「はぁ?変な魔力は消えてた?」
夕食時、姉さんの報告を聞いた俺は拍子抜けして可笑しな声が出てしまった。
ローザ様の周囲に変な魔力が渦巻いているって姉さんが言うから、それが呪いの可能性を強める原因になったんじゃないか。
姉さんの感覚を信じないわけじゃないけど、何もせずに勝手に消えたっていうのなら、それは呪いじゃなかったのかな。
「さあ、よく解んない。でも、何もしてない訳じゃないよね。ゲオルグが導入したお香やお灸、精進料理を試してもらってる。ローザ様はかなり元気になってるし、当初の予定通り精神的な病への対処は出来たんじゃないかな。それにもしかしたら、ライナーさんの魔導具が変な魔力も一緒に吸い込んでくれたのかもしれないよ」
そんなことあるのかな。
でもよくよく考えると、ジークさんの魔吸は自身の魔力を吸収するだけじゃなく、相手が放った魔法を分解して吸収する事が出来る魔導具だ。
それの試作品だと考えるなら同様に魔法を吸収出来ると考えても良いんじゃないか?
つまりローザ様にかけられた呪術、闇魔法は吸収されてしまった、と。
そんな美味い話、あります?
無い無い、無いよそんな話。確かにローザ様の体調面は頗る良くなっているけど、有ったとしたら幸運すぎるだろ。
うん、ここはローザ様へのおもてなしが上手く行ったんだと判断しよう。病は気からって言うもんな。
今回ローザ様を村に呼んだのは正解だったんだと、俺は無理矢理自分の心を納得させた。




