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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第21話 俺はローザ様と体を動かす

 ローザ様がライナー先生の魔導具によって魔力を吸われ過ぎた翌朝、もの凄く素敵な笑顔でラジオ体操に参加するローザ様の姿が有った。


「昨日の朝もスッキリとした良い朝でしたが、今朝は今の青空と同じです。まさに雲一つない快晴の空のような気持ち。先生達に会えたおかげでしょうか、本当に学生の頃に戻ったような気持ちです」


 今なら長距離を走っても大丈夫な気がしますとローザ様は言うが、流石にそれはと従者のお爺さんに止められている。

 何が原因かイマイチ解らないが、村に来る事で体調が回復したのなら良かった。




 朝食の後の定期高速船で、先生2人は村を出立した。出立時の2人の様子は明暗くっきり分かれていた。


 今日の夕方学校終わりに姉さんからソゾンさんを紹介してもらう予定のライナー先生はニコニコ笑顔。

 初めて会った時に感じた厳しい印象は無くなってしまった。


 もっともっと温室で薬草を見たいと駄々をこねるパスカル先生はがっくりと肩を落として暗い表情。

 朝の短い時間では全ての薬草を見て回れなかったらしい。昨日あんなに燥いで蒼龍に乗っていた人物とは思えない程の落ち込み様だ。

 ま、まあこれからは宿泊代をきちんと払って頂けるのなら、いつでも村へ遊びに来て頂いて構いませんよ。あ、船賃もお願いします。ね、父さん。




 また必ず来ます、とパスカル先生は父さんの手を握って熱く宣言していた。その熱さに父さんも若干引いているが、営業スマイルを忘れないで。


 去り行く船を眺める俺の気持ちにはまだ未練が残っている。

 やっぱりこっそり付いて行けばよかった。

 父さんの言う通り、ローザ様達が帰るまでは村を離れるべきじゃないとは思う。でも、その魔導具がどういう構造でどんな魔石になんてドワーフ言語が刻まれているのか、見たかったなぁ。


 じっと船の行く先を見つめているとマリーに小突かれた。なんだよ急に。


「ローザ様がマラソンまでは行かなくても少し体を動かしたいと仰っています。温水プールは午後利用するから、午前中は違う事をやってみたいそうです。男爵様はゲオルグ様に丸投げされましたので、対策を御早目にお願いします」


 なんだそれ。父さんも少しは協力してくれてもいいのに。


 ローザ様は体調が良くなって気持ちも高ぶってるのかな。

 まあそれは喜ばしい事なんだけど、何をしてもらおうか。


 軽く体を動かせる運動。


 出来ればローズさんやロジーちゃんも一緒に出来る物が良いよね。


 アスレチックは、今から色々な施設を作るには時間が無い。ああいうのはいっぱい設備があった方が楽しいもんね。

 ドッジボールは、ボールも無いし大人とやるにはロジーちゃんが不利過ぎるな。スポーツよりも遊びに分類される物にするか。




「だ、る、ま、さんがころんだ」


 広場を囲う塀に向かって目を隠し、合言葉を言い終わると共に後ろを振り返る。

 そこにはローザ様が1人、笑顔で微動だにせず立っていた。少し様子を窺った後でもう一度壁に向かって視線を隠す。


「だるまさんがころ、ん~だ」


 ちっ。少し長めに声を延ばしたのに、ローザ様はあまり前に来てない。俺の誘いには乗らず最初から動く距離を決めていたんだな。


「お母様、もう少しです。頑張って」


 俺の左手と繋がっているローズさんが母親を応援する。ローズさんの向こうに並んでいるマリーやロジーちゃんは黙って逃げる方向を確認している。ここでローザ様が捕まれば次の鬼はローズさんだから応援も必死だ。

 でも俺も連続で鬼は嫌だからね。全力で行く。


「だるまさんがころんだっ」


 今度は俺の口が回る最速で振り返る。だめか、まったく動いていない。ローザ様との心理戦で明らかに負けている。次はどうする。


「だ~、るまさんが、こ~~ろん「切った」だっ」


 近づいてきたローザ様に、ローズさんと繋いでいた俺の手を離される。

 しまったっ。誘いの釣り餌がでか過ぎた。まだ割と距離は有ったのに、こちらが時間を長く取ると判断して走り抜けて来たか。


 俺は1から10まで声を出してカウントした後に止まれっと合図をして逃げた皆の動きを止める。


 ここから大股10歩で誰かを捕まえないとまた俺が鬼になってしまう。よし、ローズさんに決めた。精一杯足を延ばして捕まえに行くぞ。




「だるまさんがころんだ、は楽しい遊びでした。ロジーと一緒に体を動かせたのも嬉しかったです。ありがとうございます」


 走り回った後、昼食を食べながら眠ってしまったロジーちゃんを背負ったローザ様に御礼を言われた。

 急遽思いついて実行した遊びだったけど、皆楽しそうに遊んでたもんね。

 鬼の説明は絵本を使ったけど、達磨の説明は放棄した。なぜなら俺もよく解ってないからな。


 ロジーちゃんは意外とじっとするのが上手くて、なかなか捕らえられなかった。逆にローズさんは簡単なフェイントにすぐ引っかかってたな。そしてローザ様は、お情けでロジーちゃんに捕まっただけで、ほぼ無敵だった。


「逃げる時に走って運動になるし、鬼に見られている時に動かずじっと耐える忍耐も身に着く。そして何より鬼との心理戦が凄く緊張感があって勉強になる。とても為になる遊びでした」


 いや、そこまで考えてこれを選んだわけじゃないんですけど。


「再びロジーを背負えるなんて夢の様です。本当にここに来てよかった。誘って頂いて本当に感謝しています」


 やだなぁ。誘ったのはクレメンスさんとコンラートさんですよ。僕達男爵家はその2人の要請に応えただけですから。


「ふふふ、そうですね。でも、もう一度感謝は伝えさせてくださいね。ありがとう」


 何度もお礼を言われて照れてしまった俺は、ローザ様達を部屋まで見送るまで俯いて、顔を上げることは出来なかった。

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