第20話 俺はローザ様の検査結果を聞く
ローザ様がライナー先生と一緒に宿へ向かった後は、ローズさんのおねだりによって姉さんの魔法演技お披露目会が始まった。
武闘大会で披露した時と同様に、麒麟と四神達が縦横無尽に空を飛びまわった。
今はローズさんとロジーちゃんが2人で麒麟に跨って空中散歩を楽しんでいる。一応落ちないようにマリーに補助を任せた。麒麟の左斜め後ろに位置して、一緒に空を飛んでいる。
麒麟の他に蒼龍と白虎には乗れるから、乗りたがっている村の子供達を列に並ばせる。
子供達に紛れていつのまにかパスカル先生が並んでいて驚かされた。
「武闘大会では我慢したが、儂も乗ってみたかったんじゃ。温室からその姿が見えたから急いで戻って来たんじゃよ」
姉さんは学校では四神達を披露して無いのかな。大人を乗せられるかどうか、姉さんに確認して来ますね。
姉さんどうよ。無理だったら断っても良いと思うんだけど。
あ、そう、問題無いのね。わかった、魔力の残量には気を付けてね。いや、大丈夫だと思ってるけど、一応ね。
パスカル先生、大丈夫だそうです。そのまま並んでいてください。
パスカル先生が乗っても大丈夫なんだと分かった途端、他の大人達が大挙して列に並び始めた。皆も乗りたいのを我慢してたのか。
マルテに教わって自在に空を飛べるようになった人もワクワクした顔で並んでいる。自分の力で飛ぶのとはまた違った空の旅を体験したいようだ。
はいはい、慌てず騒がず並んでくださいね。子供達優先で、大人は1人1回までですからね。姉さんの魔力は十分ありますから安心してください。
姉さんの魔法は一向に衰えることなく希望者全員を空へと運んだ。
お空の遊覧飛行会は夕食の準備が出来たのにいつまで遊んでるんだとマルテが怒りに来るまで、日が沈んでも続けられた。もう1回と企んでいた団員達は残念でしたね。
「そんな面白そうな事をやっていたのならどうして私を呼ばなかったのだ。パスカル先生だけズルいではないか」
すっかりと遅くなってしまった夕食時、姉さんの蒼龍に跨った事を自慢されたライナー先生が、パスカル先生に文句を言っている。ズルいって、何を子供みたいな事を。
「わはは。ライナー君こそローザリンデ君を独り占めしたんじゃからお相子じゃろ。儂じゃってローザリンデ君といっぱい話をしたかったんじゃ」
うん、どっちも子供。完全に子供の喧嘩だな。村の子供達の方がもっと理性的に行動できるぞ。
「あのう、御取り込中のところ申し訳ないんですが、母にかけられた呪いというのはどうなったんでしょうか」
おお、ローズさんはローザ様に似て勇気があるな。言い争っている2人の間に割って入ったぞ。今も食堂に居ないローザ様の事は俺も心配していたけど、2人の勢いに押されて聞けなかったんだよ。
「おお、すまん。パスカル先生の言い様に少し興奮してしまった。ローザリンデ君の事だが古文書を参考にしたところでは、呪いの可能性が高い、という事までしか判断出来なかった」
少し興奮って部分に少々引っかかったがスルーした。
「それから闇魔法の痕跡を調べる事が出来ると伝わる魔導具も試してみた。魔導具が反応したから闇魔法を使った痕跡は有ると言えるが、そもそもこの魔導具が何処まで信頼出来る物かは分からん。これまで何度かこの魔導具を使ったことがあるが、だいたい起動時に2割くらいの反応があった。これが正確な物かは分からん。実際に闇魔法を使える者が居れば、色々と実験できるんだがな」
ローズさんは古文書の方に興味を示していたが、俺はその魔導具に興味がある。
ぜひ見てみたいです。
「危険な魔導具だからそれは駄目だ。闇魔法の残差を検知して対象者の魔力を吸収する物だからな。恐らく闇魔導師を根絶する為に作られた魔導具だ。不用意に触ると魔力を全て吸い取られるぞ。ローザリンデ君も少し魔力を吸われ過ぎて気分が悪くなったようだから、大事を取って部屋で少し休んでいるんだ」
なるほど、魔力を吸収して。
ん?
それって、ジークさんが所有する魔導具の剣、魔吸と同じ仕様なんだろうか。
魔吸に使われているドワーフ言語は俺もソゾンさんから教わっているけど、触らせてもらえないのなら調べることも出来ない。出来るとしたら。
ちょっと、ジークさ~ん。
「ん、俺は魔吸の構造すらよく解ってないんだから魔導具を調べたりなんて出来ないぞ。構造を知りたかったらソゾン爺に頼め。修理も点検も全部あの人に頼んでいるんだからな」
ごもっとも。確かソゾンさんのお爺さんが魔吸を作ったんだったな。
「魔吸を作った?魔吸と言うとあの戦時に活躍したという魔剣のことか。もしかして私の魔導具を作ったのもその人か?」
俺とジークさんの会話にライナー先生が口を出す。
同じ人かは解りませんが、趣味で色々な魔導具を作った人だって聞いてます。
因みに、ライナー先生の魔導具はどうやって手に入れたんですか?
「私の祖父が他国の貴族から割と高額で譲り受けたと聞いている。使い方などもその時に教わったと。もし点検してもらえるのならありがたいな。より正確に闇魔法を鑑定できるようになればローザリンデ君を助けられるかもしれんしな」
では明日にでも王都のソゾンさんの所へ案内しましょう。俺も魔導具を見てみたいし。
「おい、ゲオルグ。好き勝手するのもいい加減にしなさい。お客さんは明後日の夕方まで居るんだぞ。お前がその間に居なくなってどうする。それにお前はこの一件が終われば半年間自宅待機だ。ソゾンさんの所へ行くことも許さん」
父さんが本気で怒っている。ちょっとだけ鍛冶屋に行ってパッと帰るくらいは。
「ダメだ。言う事を聞かないのなら謹慎場所をグリューンに変更してもいいんだぞ」
う~ん、グリューンも悪い所じゃないけど流石に半年も滞在するのは辛い。言われた通りじっとしているしかないのか。
「私がしっかり話を聞いて来るから大丈夫だよ」
そう言って姉さんが拳を突き上げるが、姉さんに魔導具の複雑な仕様まで理解出来るとは思えない。折角面白い物が見られそうだったのに、残念だな。




