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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第1章 俺は異世界で発育する
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第23話 俺は親方にお礼を言う

 俺の外出許可が下りたのは年末に差し掛かった頃だった。


 約2ヶ月外に出なかった訳だが、そこまで長引いたのは母さんが仕事でしばらく家を空けていたから。

 マルテを信じていないということではないが、母さんが長期で居ない間にまたトラブルが起きないようみんなで決めた結果だ。マルテも父さんも協力してくれた。しばらくは母さんに心配をかけないようにしようと約束した。


 姉さんはちょくちょく外出していたけど。姉さんについて行って問題が起きないように神経を張り巡らせていたアンナさんは大変そうだった。


 といっても外出先は船着場で、以前と同じように荷運びをし、泳ぎと水魔法の練習をしていた。

 魚人族も事故が起きないよう注意してくれているらしい。

 そこまで気を使うなら姉さんを受け入れない方がいいと思うけど、何か俺の知らない理由があるのかもしれない。


 姉さんはたまに午前中で切り上げ、同年代の魚人族の子を数人連れて家に帰って来る。俺とぶつかった子も一緒だ。


 その日は決まって魚介類を貰って来るから、昼食はコックが魚介料理を作る。

 魚人族の子も一緒に食べて、自分の母親の方が上手いと自慢し合う。コックが悔しそうな顔で厨房に戻るまでが一連の流れだ。俺は美味しいと思うよ。でもやっぱり醤油か味噌で味付けしたい。


 その後はみんなで遊ぶ。かくれんぼしたり、鬼ごっこしたり。色々提案したけど、頭を使うゲームより体を動かす遊びの方が好まれた。

 1番面白がっていたのは、だるまさんがころんだ、かな。俺の意地悪な言い方に、必ず最初に引っかかるのは姉さんだった。


 時々、姉さんは俺に気を使っているのかな、って思う。魚人族を連れて来て一緒に遊ぶのも、俺が魚人族を嫌いにならないように配慮してくれているのかなって。逆に俺が魚人族の子達に嫌われないようにしてるのかなって。

 なんとなく気恥ずかしいから、どうなのとは聞かないけど。姉さんが1番笑って楽しんでいるのは事実だ。


 そうそう、川に落ちた俺を助けてくれたのは親方だと姉さんから聞いた。気を失い流されてる俺を素早く見つけ、水魔法で周囲の水ごと持ち上げて陸まで運んでくれたそうだ。あの時の魔法は凄かったと姉さんは言っていた。

 なんでみんな教えてくれなかったんだろう。教えておいてくれればこの前来た時にお礼を言えたのに。




 外出許可が下りて、俺は1番最初に親方の所へ行った。母さん、マルテ、マリー、姉さん、アンナさんと一緒に。姉さんがちょっと嫌がっているけどどうしたんだろう。この後お昼ご飯を食べに行くんだから、ちょっと付き合ってよ。

 親方に会うのはもちろんお礼を言うため。コックにお菓子を作ってもらって持って来たけど、甘い物は好きだろうか。もう一つお礼の品を持って来ているからこっちは喜ばれるかな。

 親方、あの時は助けて頂いてありがとうございました。お礼を言うのが遅くなってしまい、すみませんでした。


「おう、元気で良かったな。でも最初に魔法を使ったのはアリーだろ。強大な魔力で川の水を持ち上げたんだ。俺はそこから君を引っ張り出して手当をしただけさ。アリーにもちゃんとお礼を言っとけよ」


 言わないって約束したのに、と憤慨する姉さんを親方が豪快に笑い飛ばしている。なんだ、どういうこと?


「感情に任せてめちゃくちゃに魔法を使ったのが恥ずかしいんですって。私達も口止めされていました。アリー様が持ち上げた水が船着場に溢れ出して、危うく大事な荷物が浸水する所でした。本人もやり過ぎたと反省しているんですよ」


 アンナさんがこっそり教えてくれた。そんなに強力な魔法だったのか。凄い魔法なんだから隠さなくたっていいのに。

 それで、今はやり過ぎないように制御できるのかな。


「まだ少し魔力を込め過ぎる所がありますが、随分と制御出来るようになりました。まだ何もない空間に水を生み出すのが苦手ですが、水を操作するだけなら合格点でしょう」


 急にここまで上達したのが不思議です、とアンナさんは付け加えた。

 姉さんは魔法の色のことをアンナさんに言ってないんだろうか。

 火魔法を使った時も大幅に性能が向上したからな。下手に広めない方が安全かもしれない。しばらく黙っておくように後で言っておこう。


「ねえさん、おやかた、ありがとう」


 まだ言い合っている2人に割り込んでお礼を伝える。完璧に出来たら見せようと思ってたのに、と聞こえた気がする。ふふ、楽しみにしてるよ。




 親方にお礼の品を渡して船着場を出た。なんとなくお礼と言うよりお詫びの品になった気がするけど、気のせいだろう。


 お昼はいつもの料理屋で魚介料理。俺が貝好きなのを知っているから色々な貝料理を作ってくれた。魚料理も美味しかったけどね、ああ早く酒蒸しを食べたい。




 その日から姉さんが作った遊泳場に夕方から魚人族が沢山集まるようになった。俺が渡したお礼の品のせいだ。

 渡したものは水を温める魔導具。水中に沈めるタイプの湯沸かし器で、火魔法が使えなくても魔力を込めるだけで使える優れもの。命の恩人のためにと父さんにお願いして用意してもらった。

 これで姉さんが居なくても大丈夫だね。


 これから寒い時期、お風呂に入ってゆっくりしてください。湯冷めしないように気をつけて。


 完璧に水魔法を使えるようになるまで姉さんはしばらく通うと思うから、今後も姉さんをよろしくお願いします。

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