第16話 俺はやり過ぎた事を反省する
全く、君は僕を便利屋か何かと勘違いしているのかな?
僕はなんでもかんでも願いを叶えてあげられる神様じゃないんだからね。
とりあえず、エステルをキュステに寄越してくれたらどうするか考えるよ。
僕だって偶には可愛い姪っ子に会いたいからね。
マチューさんに村の特産物について相談したら、同日にこんなメッセージが返って来た。
いつもはお金を支払って依頼を引き受けてくれたんだけどな。苗木と本の執筆に、お香やお灸、薬膳料理の依頼を重ねてしまったから、流石に面倒になったのかもしれない。
取り敢えずクレメンスさんには用意に時間が掛かることを伝えて、下校を待ってエステルにキュステへ行ってもらえないか相談しよう。
「キュステですか。そろそろ薬草の収穫も一段落出来るので、次の学校が休みの日に行って来ましょうか。アリーちゃんも一緒に行きますよね?」
「えっ。キュステかぁ。行きたくないなぁ」
姉さんは相変わらず祖父である東方伯が苦手だ。もう何年も会ってないんじゃないかな。
エステルさんだけ飛んで行かせるのは不安だから姉さんとアンナさんにも一緒に行って欲しいんだよね。
だから、1つ策を考えています。
東方伯にはカエデとサクラに会いに王都まで出向いてもらおう。
「え~、そんなに簡単に動くかな。カエデ達が産まれた直後も会いに来てたし、何だったら新年もカエデ達の顔を見に来てたよ。それにもうすぐ魔力検査もあるんだから、しばらくは領地から出ないでしょ」
そうか、確かに魔力検査が近いからな。キュステでの仕事も忙しくなるだろうから、王都までの往復時間を考えたら来ないか。まあでも、念のためギルド経由で連絡してみようかな。
「うむ。何度見てもカエデとサクラは可愛いな。何時までも手元に置いて眺めていたい。リリーよ、もう王都は止めてキュステでカエデ達と共に暮らさんか?」
「キュステにはお兄様の子供が何人も居るでしょ。確か春過ぎにはもう1人子供が産まれる予定ですよね。お父様はそちらを可愛がるべきでしょ」
「う~ん、息子の嫁の子と自分の娘の子は同じなようでちょっと違うのだ。嫁の力が強いとなかなかな。アリーにも会いたかったが今日も学校なら仕方ない。しっかり勉強して立派な子に育ってもらわないとな」
今、我が家には少数の従者と共に東方伯がやって来ている。時間が無いはずなのによく来たな。
代わりに姉さんはエステルさんと共にキュステだ。東方伯には学校に行っていると伝えたが今日は休校日なんだよな。
カエデとサクラには嫌な役を押し付けちゃってごめんよ。なるべく乱暴に扱われないように気を付けるからな。
東方伯が良い声で上手に絵本を読むのが意外だった。
東方伯は我が家に一泊して、翌日帰路に就いた。
姉さん達は昨日日帰りでキュステから帰り、そのまま村で就寝。翌朝王都の男爵邸には顔を出さずに学校へ行った。アンナさんも姉さんについて動き、今漸く学校への送迎から帰って来た。
「マチューから色々教わってきました。気が休まってよく眠れるお香と、体の血の巡りが良くなるお灸、それから内臓や皮膚の活性化を促す薬膳料理と色々教わってきました。村の薬草では足りない材料はマチューから売ってもらいましたよ。依頼料と材料費は後程請求するそうです」
ありがとうございます。これで漸くクレメンスさんに報告できる。では早速行って来ます。
そんなこんなで話が進み、ローザ様達が村へ来る日程が決まった。
俺はその日までの間に、ロミルダを王都に連れて来て冒険者ギルドの視察や図書館での本漁りに付き合ったり、リオネラさんと一緒に高速船をもう一隻作ったり、村での出迎えの準備をしたりと忙しなく動いていた。
で、派手に動きすぎて父さんに怒られた。
まずマチューさんから請求書が送られて来て怒られた。
さらに造船所からも予想以上の請求書が来て、村で食料品の購入やベッドシーツの新調等を行った費用も加わり、いつのまにか結構な金額が我が家の金庫から失われていた。
はい、すみません。
以後半年間、勝手に男爵家のお金を遣り取りしないようにして、王都の男爵邸で母さんの監視の下大人しく生活する事を約束します。でももう村にお客さんが来る日程は決まってるんだけどどうします?
父さんは苦虫を噛み潰した様な顔をして、今回の来客が帰るまでは村に居ていいと言ってくれた。
そして3月3日の午前中、ローザ様達の到着を迎えたわけだが、父さんの怒りはまだ収まっていない。
ローザ様が村に来て食べる最初の昼食は、アンナさんが作る薬膳料理だった。精神が落ち込んで不安定になっているローザさんには陽の食材を食べて体を活性化させるのが良いらしい。
俺も食べさせてもらったが、ニンニクを利かせた根菜類の炒め物や生姜たっぷりの魚介のスープなど、食べるだけで体がポカポカする物が多かった。
ローズさんやロジーちゃんにはちょっと口に合わなかったようなので、ヴルツェル産の美味しいお肉で唐揚げやメンチカツ等を提供した。まあまあね、と言いながら上品に口へ運ぶローズさんと口いっぱいに詰め込むロジーちゃんが対照的で面白かった。
昼食後休憩を挿んでプールで体を動かした。温水プールだ。これもローザ様達がうちに来ることが決まってから準備した。冷水を温水に返る程度の魔導具なら1日あればパパッと作れる。
魔物の毛で作られた水に濡れても透けず、泳ぎの邪魔にもならないシャツと短パンを貸し出している。ハンデル商会に頼んで作ってもらった特注品で、これも割と高かった。
村の子供達は安い布製の水着で泳ぎまわるが、流石に布面積も小さいそれを強制するのは気が引けたからね。
魔法の授業で水魔法を練習している子達には申し訳ないけど、今日は魔法を控えて一緒に遊んであげて欲しい。
ローザ様は疲れたらお灸でゆっくり体を休める事が出来ますのでいつでも言ってくださいね。
夕方、姉さんとエステルさんが学校から帰って来た。
温水プールで遊ぶローズさん達を見て、私もっ、と参戦しようとした姉さんが、プールの端に用意したベンチに座って休憩しているローザ様を見て、ピタッと立ち止まった。
「あの女の人の周りに変な魔力が渦巻いてるけど、あれなに?」
は?
俺には何も見えないんだけど、何のことを言ってるんだ?
唐突に発せられた姉さんの発言に戸惑った俺は、水に濡れて艶やかさが増したローザ様を失礼にも凝視してしまった。




