表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
302/907

第10話 俺は画集を作者に見せる

「そうか、僕の本が古本屋に。それはまいったね」


 古本屋で購入した画集を持ってクレメンスさんが泊まっている宿を訪れた俺は、言いにくいんですけど、と前置きをして画集をクレメンスさんに見せた。


 クレメンスさんは俺が持って来た画集に目を通し、最後の奥付をしっかりと確認して先程の発言を述べた。


 折角姉に贈った本が古本屋に流れてしまったのは教えない方が良かったのかもしれないけど、黙ってはおけなかった。プライベートな事に首を突っ込むような真似をしてすみません。


「結構な金額で購入してくれたようだけど、この本の買取金額はいくらか知ってるかい?」


 俺は古本屋の店員さんから聞いた情報をそのままクレメンスさんに伝えた。


「そうか、割といい値段で買い取ってもらったようだね。何時頃売りに来たのかも当然聞いているんだろ?」


 はい、今月の頭だって言ってました。それから検品して2日後にお金を支払ったと。


「つい最近の出来事だね。この本は素人目に見てもかなり状態が良い。きっと大切に保管されていた物を引っ張り出して売り払ったんだろう。それも態々王都まで来て。売りに来た人はこの本だけを売ったのかな?」


 いえ、複数の本と一緒に。因みに売りに来たのは年老いた男性だったと言っていました。


「わかった、ありがとう」


 そういうとクレメンスさんは暫く口を閉ざして、何かを考え始めた。本を贈った姉の事でも考えているんだろうか。思案の邪魔にならないようそろそろお暇しようかと動き出すと、クレメンスさんはちょっと待ってと口を開いた。


「どうやら僕には用事が出来たみたいだ。ゲオルグ君が依頼してくれた絵本の完成は少し待ってほしい。そしてこの画集は、村の子供達の為に買ったんだとは思うが、僕に売って欲しい。もちろん君が古本屋で購入したよりも多くお金を払う。いや、絵本の依頼料を全て画集の購入金額に充てて欲しい」


 ちょ、ちょっと急にどうしたんですか。画集を譲るのはいいんですが、どうしてそういう話になったのかちゃんと説明してください。


「本を売りに来た人は、おそらく姉の嫁入りについて行った者の1人だ。旅費もかかるだろうに、態々王都まで来て俺の本を売った。多分姉さんも承知の上で本を託したんだろう。お金が欲しかっただけじゃなく、僕を呼んでいるんじゃないかと思う。だから僕はこれから姉の下に行ってくる」


 はあ、そういう考えですか。でもその方法は、連絡手段としては不確定要素が大きすぎませんか?

 クレメンスさんがこの画集を手に取る可能性は殆ど無いですよ。古本屋に頻繁に通う習慣なんて無いですよね。


「考えすぎならそれでいいんだ。単純にお金が欲しかっただけでもいい。ゲオルグ君が僕に仕事を依頼してくれたおかげで、僕の手元には結構なお金がある。今まで何度も世話になってきた姉さんを助ける機会なんだ。ゲオルグ君だって自分の家族を助けたいと思うだろ、それと同じさ。だから、このまま行かせてほしい。もし絵本の仕事を放棄した事への賠償金を払えと言うのなら払うよ」


 帰って来て完成させてくれるのなら絵本は待ちますけど。

 一応帰って来るのが何時頃になるのかは確認させてください。


「姉の嫁ぎ先は南方辺境伯の所だから南のエルツが領都だ。王都からは馬車で片道4日、余裕を持って帰って来るのは10日後といった所か。念のため王都の南方伯邸に行ってみるが、辺境伯は国境警備が主な役目だから基本的に領地暮らし。姉も南方伯と一緒に領地の方に居るはず。結局は南方伯の領地まで行く必要があるだろうな」


 南方伯。

 南方伯と言えば、去年俺も受けた魔力検査で3位入賞したのが南方伯の娘だった。名前は確かローゼマリー。つまり、ローゼマリーさんとクレメンスさんは姪と叔父ということか。


 ん?

 南方伯の奥さんが金欠で本を売り払うってどういう状況だ?


「そう、変だよね。大きな鉱山を幾つも所有している南方伯が金欠に陥るなんてありえない。もし財政難に陥っているのならもっと王都でも噂になっているはずだし、本を売るより鉱山を売った方がお金になる。だから僕は現地に行って確かめたいんだ。姉の顔を見て安心したいんだ」


 南方伯が財政難になったと言うよりは、お姉さんが南方伯から生活費を受け取れない事情があるとか?

 もしくはお姉さん自身にお金が必要な事情が出来てしまったが南方伯に相談出来ないとか。

 考えれば考える程嫌な発想を思いついてしまう。


「じゃ、そういうことだから。これから南方伯邸に行ってみて、明日には王都を立つからね」


 そう決断したクレメンスさんをちょっと待ったと制止する。

 その前に父さんに聞いてみよう。父さんなら南方伯の異変を知ってるかもしれない。


 俺はクレメンスさんの手を取り、妹達をあやしているだろう父さんの下へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ