第22話 俺は一人で反省する
目が覚めると知らないベットの上に寝かされていた。
首を動かして今いる場所を確認する。何処だろう。
「あ、起きた?」
動き出した俺に気付いた人が声を掛けてきた。
「身体、動く?」
手足を動かして不具合がない事を確認する。うん、何処も痛まない。
ゆっくりと起き上がり、ベットに腰掛ける。
「だいじょうぶです」
「そう、自分の名前、分かる?」
「ゲオルグです」
「うん、じゃあ私の事は分かる?」
「マリーがびょうきしたときにくる、ニコルさん」
俺自身はお世話になってないけど、よく家に来ていたから覚えている。ニコルさんが来ると高確率でマリーは自分の家に隔離されるんだ。最近は病気になる事も減ったけどね。
「そう、私はニコル。そしてここは私の診療所。なんで君がここに居るか、分かる?」
「なにかにあたって、かわにおちたから」
「うん、君は近くで遊んでいた魚人族の子とぶつかって川に落水し、気を失った」
そっか、泳げるかなと思ってたけど無理だったか。急に押されて気が動転していたのもあるかな。
「みんなは?」
「騒がしいから帰した。今から迎えに来るよう手配するから、ゆっくりしてて」
一緒に居たみんなには悪い事をしたな。飛び込もうかなとは思ってたけど、溺れるつもりはなかった。マギー様に窒息には注意と言われたばかりだったのに。みんなに会ったら心配掛けたことを謝らないと。
ベットに座って悶々としていると、ニコルさんがコップを持って戻って来た。
「これ、ちょっとずつで良いから飲んでおいて」
そう言ってコップを手渡された。
少しだけ曇っている透明に近い液体。何かの薬かな。ほんのりと柑橘系の香りがする。
一口だけ口に含む。少し甘みも感じる。なんとなく懐かしい味だと感じた。
「おいしいです」
一口飲んで、残りはベットの横にあった棚の上に置く。
「よかった。じゃあ私は隣の部屋に居るから、何かあったらこの呼び鈴を鳴らして」
何処からか鈴を取り出し、軽く振って音を奏でる。それをコップの横に置き、ニコルさんは再び出て行った。
ベットに横たわって目を瞑る。
先程飲んだ液体の懐かしい味を探ってみる。ちょっと甘いやや透明の液体。
砂糖水?ガムシロップは甘すぎる。
スポーツドリンク?ああ、そんな感じだな。柑橘系の香りも清涼感があって良い。
もう答えが出てしまった。次は何を考えよう。
考える事を止めると、申し訳なさで押し潰されそうになる。その気持ちに向き合うのは今はちょっと辛い。別の事を考えて紛らわし、そのまま眠ってしまいたい。みんなに会ったらしっかり謝罪をするから、今は忘れさせてほしい。
ひと眠りした後、母さんとマルテが迎えに来て家に帰った。
迎えに来てもらった時、直ぐに2人に謝罪した。
母さんは笑顔だったけど、ちょっとだけ叱られた。心配を掛けた罰として、しばらくは外出禁止と言われた。
マルテからは逆に謝罪された。監督不行き届きということらしい。俺の外出禁止より、マルテが責任を取らされる方が辛い。マルテは悪くない、と付け加え2人にもう一度謝った。
家に帰ったら姉さんが泣きそうな顔で飛びついて来た。姉さんにも心配掛けてごめん。水魔法は上手く出来たか聞きたかったけど、そんなこと聞ける雰囲気じゃなかった。また今度、落ち着いてから聞こう。
マリーは分かっていないのか笑顔で出迎えてくれた。なんかホッとする。ありがとう、マリー。
その日の夜、仕事から帰って来て話を聞いた父さんが一番動揺して騒いでいた。
ぶつかって来た魚人族の家庭へ怒鳴り込みに行くと息巻く父さんは、母さんのボディーブローで制圧された。笑顔で的確にパンチを放つ母さんを怒らせてはいけない。
1週間、外出せずに過ごした。外出禁止に対して特に不満は無い。しばらくは大人しくしています。
姉さんも外出せずに俺と遊んでくれている。こんなに長い間姉さんと一緒に居るには久し振りだね。毎日魔法を見せてもらっていたのが懐かしい。
マリーはマルテと一緒に図書館へ行って新しい本を借りて来てくれる。初日からなんとなく思っていたけど、マリーが選ぶ絵本って結構独特だよね。自分では選ばないような本が見られて面白いよ。
1週間目にニコルさんが魚人族を連れてやって来た。魚人族は船着場の親方と、俺にぶつかった子供とその父親。
親方がニコルさんに口利きしてもらって謝罪に来たようだ。ニコルさんはついでに俺の健診をした。
魚人族からの謝罪を受け、俺からも謝罪する。泳げないのに1人で危ない所に立っていた自分が悪い。もう気にしないでください。また姉さんがそちらに行くことがあったら、よろしくお願いします。
はい、これでこの件はおしまい。俺も元気だし、不幸な事故だったということで、もう何も言わないでね。
母さん、そろそろ外出してもいい?図書館と、魚人族の料理屋でご飯を食べたいんだけど。
あ、ごめんなさい。もう少し謹慎しています。だからボディーはやめて。
そこはダメだ、脇腹をくすぐらないで。




