第7話 俺は女の子の努力を喜ぶ
年が明けて1月、妹達の為の絵本作り第2弾が始動した。
父さんの要望通り赤い頭巾の話。母さんの提案通りに少し内容を変えて文章を作った。今はクレメンスさんに絵を描いてもらっているところ。
今回は3冊作る。妹達に1冊と村の本棚に置く2冊。特にプレゼントする子も居ないしね。
村で産まれた4人の子供達には順次名前入りの子供服一式を贈っている。1月中にはエステルさんに助けられた女の子の衣装も完成する。エステルさんの魔力がまだ残っているのか、体調も崩さずに頑張って生きている。
産まれた赤子達以外の住人も皆問題無く生活していて、村の仕事も問題無く回っている。
村の農作物も順調に育ち、夏と秋は野菜を、冬の間は小麦を栽培中だ。
温室では今4期目の薬草を育成中。ニコルさんの診療所で結構薬を消費しているようで、父さんはもう少し温室を増やそうかと画策している。
クリストフさんと数人の村人が温室を手伝うようになったから、薬草を育てる人手は増えている。問題はエステルさんしかまだ調薬をやっていないという事だ。薬草が増えても薬に出来なければあまり意味が無いんだから、エステルさんの負担にならない範囲で調整して欲しい。
その温室を手伝っている村人の中で、ロミルダという子が居る。傭兵団の参謀を務めるアヒムさんの6歳になる娘さん。後2か月後に迫った魔力検査に参加する女の子。
その子は今、草木魔法を言霊無しで使う練習をしている。
重力魔法を使い熟して輸送部隊を率いているアヒムさんの娘だけあって、魔法の才能は十分に有った。そして5月に出会った頃から草木魔法を使い熟すことを目指していた。
風魔法は練習せず、すぐに金属魔法を覚えるよう指示した。8月に完成したプールを使って水魔法の練習をしてもらった。彼女の頑張りもあって12月には水魔法を言霊無しで自在に扱えるようになっていた。才能も有るけど、ロミルダの頑張りの成果だ。
その間ずっと温室の作業を手伝っていて、作業に慣れた8月くらいからはエステルさんの許可を得て温室の一角を任せてみた。色々失敗していたみたいだけど、植物を大切にする気持ちがあるから草木魔法もすぐに覚えられるだろうと、エステルさんから太鼓判を貰っていた。
そして12月の末、言霊を使用してだけれど、ロミルダは草木魔法を使う事が出来た。俺がちょうど王都に居て妹達に絵本を読み聞かせていた頃だ。後に姉さんから報告を受けて自分のことのように喜んだ。
その子は今、草木魔法を言霊無しで使う練習をしている。
しかし魔力検査まで後2か月を切っている。今使える魔法を用いて魔力検査で行う演技を考えた方が良いんじゃないかと思うが。
「まだ時間は有ります。もう少しやらせてください」
俺の提案は一蹴されてしまった。強情なのは師匠であるエステルさん譲りだろうか。まあ短期間でここまで頑張ったんだ。諦めたくない気持ちも分かる。
それならもっと頑張れるように褒美でも用意しようか。魔力検査で上位入賞したら何か1つ欲しい物をプレゼントするよ。
「え、ほんとですか。でも1つかぁ。今欲しい物は2つあるんですよね。1位になったら2つになりませんか?」
強欲なのは師匠である姉さん譲りだろうか。とんでもない物を2つ頼まれても困るから、取り敢えず何が欲しいのかだけ聞いておこう。
「桃の苗木と薬草学の本が欲しいんです。もしどちらか片方というのなら苗木が欲しいです」
薬草学の本なら共用の本があるでしょ。
「あの本は既に読み終わりました。でもあの本には薬草の育て方はそれほど詳しく載ってないんですよ。種蒔きの時期や植え替えの方法、水を上げるのに良い時間とか。そういった育て方が載っている本を読んでみたいんです」
なるほど、薬草学というよりは農業学になるのかな。もしくは植物学?
わかった。でも本は探さないといけないから確約は出来ない。その代りに桃の苗木は準備しておくよ。だから、頑張って。
「ありがとうございます、ゲオルグ先生。男爵家の名を広めるために頑張ります」
ロミルダは普段は俺を様付けで呼ぶんだけど、他に村の住人が居ない時は俺の事を先生と呼ぶ。俺が先生と呼ばれると嬉しがるのを知っているからですよとマリーが言っていた。強かなのは師匠であるマリー譲りだろうか。
でも魔力検査は自分の為に頑張ってね。ここで上位に入賞したら将来安泰だからね。うちの為にって言ってくれるのは嬉しいけど、先ずは自分の為だからね。
元気よく返事をしたロミルダはそれから更に1か月、草木魔法の練習に勤しんだ。
その子は今、草木魔法を使い熟している。
俺は桃の苗木をマチューさんに注文し、新たな本を探そうと動き始めた。




