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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第5章
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第4話 俺は自分の首を絞める

 12月。双子の妹が産まれて約2か月が経過した。

 このころから赤ちゃんの微笑みは新生児微笑から社会的微笑になるらしい。つまり、他人の動きに反応して笑ってくれるということだ。


「2人ともいつも楽しそうに笑ってくれるの。ゲオルグの時と違って魔法以外にも興味を示してくれるんだよ」


 姉さんは学校の前後に妹達に会って村へ戻って来る。俺と一緒に夕食を食べる時に上がる話題は妹達の話だ。今日はどんな様子だったとか、何をしたら笑ってくれたとかそんな話。


「カエデの方はねぇ、ほっぺたを指でぷにぷにっと触ると喜んでくれるの。サクラは触られたくないみたいだけど」


 くそう、羨ましい。俺も妹のほっぺをぷにぷにしたい。


「サクラは名前を呼ばれるのが好きみたい。名前を呼ぶとすぐに反応してくれるんだよ」


 俺も名前を呼びたい。生後2か月の子が言葉を理解しているとは思えないけど、俺も呼びかけたい。


 ぐぅ。自分で勝手に魔導具を作り始めて自分の首を絞める事になるとは考えていなかった。もう少しで全世帯に暖房器具とポットが行き渡る。途中で止めて会いに行ったらもう魔導具作りを放棄してしまいそうだから全て作り終わるまでは会いに行かないと決めた。村での仕事を放置気味にしている父さんみたいになってはいけない。だから、全部終わるまで元気にしていてくれよ。


 姉さんに買って来て貰った魔石を手に取り、今日もコツコツとドワーフ言語を刻んでいく。




 妹達に会えないまま忙しい日々を過ごし、12月中旬の夕暮れ。ついに今年最後の出産が始まった。


 他の3人の出産時と同様に、今回も俺は旦那さんと共に妊婦さんの寝室前で待機している。マリーとルトガーさんも一緒だ。医学の知識も無く魔法も使えない俺には何も出来る事は無いが、旦那さんと一緒に待つことは出来る。

 そわそわとして落ち着きなくうろうろしている旦那さんに、子供の名前は決まったのかとかどんな子供に育ってほしいかとか雑談をして気を紛らわす。本当は今すぐにでも奥さんが頑張っている部屋に飛び込んで行きたいんだろうが、ニコルさんの指示の下それは許されていない。部屋の中の人が多くなると衛生面の管理が難しくなるからな。


 俺は旦那さんの未来予想図を聞きながら、無事に産まれるよう神に祈っていた。




 長い。それにしても長い。

 10月11月に産まれた子達は割とすんなり産まれたのに、今回の出産は始まってからかなり時間が経過している。

 夕暮れから始まって、もう深夜と言っていい時間帯だ。このまま日を跨いでしまうのではないかとすら思ってしまう。


 なかなか産まれない事を心配して、姉さんやエステルさん、傭兵団の団長なんかも集まって来ている。旦那さんは心配し過ぎて表情が崩れ、会話もままならない。扉の向こうから奥さんの頑張っている声が響いて来るんだ。何も出来ない事に精神が削られていくのは仕方のないことだった。


 看護師としてニコルさんの部下と共に助産をしている女性が寝室から出て来た。まだ妊婦さんの苦しむ声は聞こえているから産まれてはいないんだろう。看護師は何時になく真剣な顔をして、妊婦の旦那さんに声を掛ける。


「今、赤ちゃんの片足が出て来ました。逆子です。上手く出産できない場合、頭部が産道に挟まって亡くなってしまうと先生が仰っています。母子共に危ない場合は母親を優先させますので、覚悟を決めておいてください」


 愕然とするような事実のみを叩きつけて、看護師は寝室へと戻って行った。急に話を聞かされた旦那さんは何を言われたのかイマイチ理解出来ていないようだ。

 俺も詳しい知識は無いが、逆子が危ないというのは耳にしたことがある。地球の医療なら帝王切開を選択する所だろうが、そんな技術は此処には無い。せめてニコルさんが居れば。そうだ、団長に頼んですぐにニコルさんを呼んで来て貰おう。


 そう判断して団長に声を掛けようとした時、姉さんとエステルさんが寝室の扉を開けて飛び込んだ。


 えっ、ちょっと、何を。


 突然の出来事に呆然としている俺達。皆が動けずにいると寝室の扉が開いて看護師が顔だけだして現状を伝えてきた。


「エステルさんの魔法で赤ちゃんの命は長らえています。あとは出て来るのを待つだけですので、もう暫く、そのままでお待ちください」


 は?

 エステルさんの魔法って草木魔法?

 薬草か薬を使ったとかじゃなくて、魔法で?


 俺が混乱したまま突っ立っていると、旦那さんが涙をボロボロ流して泣き始めた。たぶん状況を完全には理解していないが、命が長らえているという話を聞いて感極まってしまったんだろう。団長が駆け寄り旦那さんの背中を摩っている。


 よかったですね、これできっと大丈夫ですよ。


 俺はまだ何が起こっているのか解っていない。解ってはいないけど俺は団長と一緒に旦那さんの気持ちを和らげることしか出来なかった。




 姉さん達が室内に乱入して20分ほど経過した時、元気よく泣く赤ちゃんの声が廊下まで届いた。


 ずっと泣いていた旦那さんは赤ちゃんの声を聞いて更に大粒の涙を床に落としている。


 ゆっくりと寝室の扉が開き、姉さんとエステルさんが姿を現した。姉さんの肩を借りているエステルさんの顔色は病人のように青ざめている。

 ずっと黙って待機していたマリーがスッとエステルさんの反対側に立って支える役を買って出た。


 団長には泣き続けて動けない旦那さんと一緒に寝室に入ってもらい、俺はぐったりとしているエステルさんに声を掛けた。


「だい、じょうぶです。すこし、まりょ、くを、つかい、すぎて。わたしは、だいじょう、ぶ、です」


 中で何をやったのか詳しく話を聞きたかったが、それどころじゃなかった。

 俺はこの場をルトガーさんに任せ、エステルさんをベッドまで運ぼうとする姉さん達を先導する為に、玄関の扉を開け放った。

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