第3話 俺は双子の笑顔を見る
10月10日未明。母さんは2人の子を産んだ。頬と瞼が赤みを持って膨らみ、まだ目も開いていない小さな子。母さんと同じベッドで2人並んでスヤスヤと眠りについている。
「ふ、ふたごかぁ」
父さんがボソッと漏らした言葉に母さんが反応する。
「はい、2人です。双子の女の子。これからもしっかり働いてくださいね」
普段は父さんに丁寧語なんて使わないのに、敢えて丁寧に話すことで父さんに発破をかけている。母さんが丁寧な言葉遣いをする時は怒っている時が多いからなぁ。きっと父さんの言葉にカチンと来たんだな。父さんの言い方だと、急に2人はきついよ、って意味に取れるからな。
「お、おう。任せとけ。2人の名前もしっかり考えるからな」
「はい、よろしくお願いします」
慌てて体裁を取り繕おうとする父さんに、母さんが素晴らしい作り笑顔で応対する。出産直後で疲れている人に父さんは何をさせてるんだよ全く。
「しかし、双子か。乳母を頼むつもりは無かったが、用意した方が良いかな」
「アリーもゲオルグも立派に成長して手が掛からなくなりました。乳母を雇わなくても何とかなると思いますよ」
マルテが俺の乳母になったのは、姉さんの存在が大きかったと聞いている。俺が産まれた事で寂しがるようになった姉さんに母さんがしっかりと対応するために、俺に乳母が付けられたんだ。でも今はそういう状況じゃないからな。母さんは出来れば自分の子供は自分で育てて行きたいんだろう。
「ほらほら、出産直後なんだからお喋りはそれくらいにして休ませなさい」
更に今後の事を相談しようとした父さんがニコルさんに注意されてしまった。しかし、とそれでも会話を続けようとした父さんの腕を引っ張って、俺は母さんの寝室を出て行った。
もう、ニコルさんに刃向う必要は無いでしょ。いい加減にしてよ。
「すまん。産まれたての赤子を見て興奮していたようだ。もう一度風呂に入って気持ちを落ち着かせて来る」
そう言って父さんは風呂場へと向かった。
長湯しすぎて逆上せて倒れた父さんがニコルさんの世話になったのには、家族総出で平謝りをするしかなかった。
出産から日数が経過し、10月下旬になった。出産後毎日ニコルさんの往診を受けながら、双子の妹達は順調に成長している。
俺も姉さんも、短い時間だけど、毎日妹の様子を見に行っている。ニコルさんの指導の下、会いに行く時は手洗いうがいをしっかり行って。眠っている時、泣いている時、ミルクを飲んでいる時。産まれたばかりだけど様々な表情を見せるんだなと日々驚かされている。
父さんは悩みに悩んだ末、13日の役所が閉まるギリギリに妹達の名前を決定した。
先に産まれた姉がカエデ。よく泣き、よく食べる姿は姉さんにそっくりだとアンナさんが言っていた。
後に産まれた妹がサクラ。カエデと比べて落ち着きがあり、眠っている時間が長い。俺とよく似ているらしい。まさか転生者じゃないよね?
カエデとサクラは見た目ががそっくりで見分けがつかない。泣く回数はカエデの方が多いみたいだからそれで判別できるけど、寝ている時は俺も父さんもいつも間違えていた。
母さんは勿論姉さんもマリーも妹達の名前を間違えない。マリーにその秘訣を聞いてみたところ、笑った時にえくぼが両頬に出来る方がカエデで、右頬にだけ出来るのがサクラだと教えてもらった。よく見ているなぁと感心して妹達の顔を観察していると、確かにえくぼに違いが有った。それ以来俺も間違うことなく名前を呼べている。
産まれたての笑顔は新生児微笑といって反射的に筋肉が動いているだけで本当に笑っている訳じゃ無いよとニコルさんに言われたが、えくぼを見たくてついつい笑わせようとしてしまう。
可愛い妹達の成長をもっと見ていたい気もするが、俺は村へと移動した。
父さんはまだ妹達の顔を見ていたいと言い張るからお金だけ貰って置いてきた。村の方でもそろそろ出産が始まるし、冬が始まる前に各家庭へ暖房器具を設置してあげたい。自分の家族も大切だけど、村に来てくれた人達の事ももっと考えるべきじゃないか、なんて父さんには言えなかった。えくぼの秘訣を聞いて嬉しそうに名前を連呼する父さんを見たら、もう少しそっとしておこうと思うじゃないか。
10月末から村での出産が始まった。団員の奥様方が頑張って働いてくれたおかげで、ニコルさんの部下を1人回してくれた。もちろん出張費等はこちら持ちで村民を上げて歓迎した。
部下さんの尽力もあって10月に1人、11月に2人の子供が無事に産まれた。12月にはまだ1人、出産を控えている。
産まれた子供達は皆男の子だった。11月の1人は獣人族の子で、他は人族だ。
皆、無事に産まれて良かった。
10月に産まれた子が11月中に熱を出して体調を崩したが、部下さんの処置とエステルさんの薬で事なきを得た。ニコルさんが言っていた通り、出産が終わった後も気を抜けない。
赤子が病気から快復した後俺はすぐさま暖房器具を開発した。ソゾンさんの知識を貰って温度計と湿度計も付けた。乾燥し過ぎるのも喉に良くないからね。赤ちゃんが居る家庭から優先的に配布し、夫婦だけの家庭は申し訳ないけど後回しだ。
それと魔導具のポットも作った。現在家庭では魔導具のコンロを使ってケトルの水を沸騰させている。この魔導具ポットは温度計を内蔵し100℃になったら小さなブザーを鳴らして稼働を止める優れものだ。更に100℃以外にも自分の好きな温度に設定出来るぞ。熱々のお湯でもぬるま湯でも飲み放題だ。
出産祝いには各子供の名前を刺繍した服、帽子、手袋、靴下の衣類一式を考えている。もちろんカエデとサクラの分も。
村民からはまたやり過ぎだと御叱りを受けた。
赤ちゃんの為だ。やり過ぎるくらいでちょうどいいと思っている。反省はしていない。




