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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第90話 俺はマリーに愚痴を言う

 王都の誕生祭に行くとニコルさん達男爵家グループの屋台に並んで、ベリーソースの屋台が開かれていた。屋台の店主はボーデンで屋台を開いてた人と同じ人だし、何がどうなっているのか分からず呆然としていると、口の周りにべったりと赤いソースを付けた姉さんが手に持ったお皿を俺に勧めてきた。


「この前のよりちょっと香りが少なくなってるけど、甘味が増して私はこっちの方が好きだよ。ゲオルグも食べよ」


 姉さんが突き出してきたお皿を受け取り匂いを嗅いでみる。ベリー系特有の匂いが鼻を刺激する。香りが少なくなったと姉さんが言うが、俺にはさっぱり違いが分からない。

 皮付きのまま茹でられているジャガイモをフォークで崩し、ベリーソースを絡めて口へと運ぶ。口の中にリンゴンベリーの酸味と甘味が広がっていく。確かにこの前より甘くなっている気がするが、俺はそれよりもベリーの酸味を強く感じた。


 酸味の件を訴えると、屋台の店主がその通りですと反応する。


「王都で出店許可を得るために生のリンゴンベリーを加熱してソースを作りました。煮詰めると香りが失われて酸味が強く出てしまうので砂糖を混ぜる量も多くなります。リンゴンベリーの良さが損なわれてしまうのであまりやりたくはなかったのですが、商業ギルドとの話し合いでそうなってしまったんです」


 生のリンゴンベリーを潰して少量の砂糖と混ぜるだけにするのが一番良いと店主は考えているのだが、『食中毒の発生を抑制する為にその日に使う量をその日に加熱して作れ、生のリンゴンベリーをそのまま使うのはダメだ』と話し合いで決まったらしい。


 8月終盤に収穫された初物のリンゴンベリーを冷蔵で王都まで運び込み、毎朝調理をしているそうだ。本来は近隣の村々で毎年新しく収穫したリンゴンベリーを楽しむんだと聞いたけど、態々本来の美味しいソースじゃない物を作ってまで王都で販売する利点は有ったんだろうか。


「男爵様のお蔭でボーデンでの汚名は雪がれ、さらに王都での名誉挽回の機会まで与えて頂きました。我が村の住民のみならず、近隣の村々や領主である伯爵様からも王都へ行って来いと許可を頂いています。皆、公爵家の不当な行いに毅然と立ち向かった男爵様に感謝しているのです」


 毅然と?

 競艇での父さんはすぐに反論を止めて長いものに巻かれたという記憶なんだけど。俺の知らないところでこっそりと動いていたのかな。


「ご子息様に自分の功績を殊更自慢しない奥ゆかしさが男爵様の素晴らしい所ですね。王都で仕事を進める度に、我々が男爵家の誘いに乗ったのは間違いでは無かったと思わされます。これからも毎年王都で出店させて頂きますので、ご子息様も今後ともよろしくお願いします」


 う~ん、父さんの事を持ち上げ過ぎじゃないかなと思うけど、男爵家の味方が増えたというのなら特に俺が口を挿むことは無いね。

 俺からも店主に、これからもお願いしますと返した後、屋台で売られている『茹でジャガイモのベリーソース掛け』とボーデンでは売っていなかったベリージャムの瓶詰を4つ購入した。


 瓶詰はニコルさんやジャム屋の店長さんの協力の下、衛生面に気を払って販売を開始。料理を食べて気に入ってくれた人はほぼ必ず買って行くほどの人気らしい。ジャム状のどろっとした形をしているが、水を混ぜると簡単にソース状になるそうだ。もちろんジャムのままパンに塗ったりしても美味しく頂ける。


 芋を食べ終わり、鷹揚亭の屋台で購入した焼きソーセージに余ったベリーソースを付けて食べる。うん、うまい。

 美味いんだけど、王都に着いてから今まで我慢していた愚痴をマリーに聞いてもらった。リンゴンベリーの屋台を男爵家グループに引き込んだのなら、もっと早く教えてくれればよかったのに。


「なにを言ってるんですか。公爵家の発表を持ちかえった団員もアンナさんやアリー様も言ってましたし、何より昨日王都から帰って来た団長が嬉しそうに言っていたじゃないですか。妻にリンゴンベリーを食べさせられて良かったって。みんな何度も話題に上げていたのに、聞かないように無視していたのは自分でしょ」


 俺の愚痴を聞いたマリーにもの凄い顔で睨まれてしまった。話題を振っても聞こえないふりをして無視する俺をフォローをするのに辟易としていたらしい。


「公爵の名や競艇の話が出る度に『馬の耳に念仏、馬の耳に念仏』とぶつぶつ言うから、皆に念仏とは何かと説明するのに私は疲れました。いつかこの借りは返してもらいますからね」


 全くそんなことをしていた記憶が無いんだけど、俺は素直にマリーに謝罪した。いつかきっと何かしらで対応させて頂きます。

 これから母さんの出産が控えていてしばらくは忙しいから、それが終わってからでいいかな?

 はい、大丈夫です、忘れません。


 ふう、マリーが漸く機嫌を直してくれた。愚痴を言わなきゃ良かったなと思うが、俺の奇行が広まっていることを知れて良かったなとも思う。自分では気づかないことってあるよね。これからは周りに迷惑を掛けないよう気を付けます。




 日が沈んだ頃、ベリージャムの瓶詰を持って教会を訪れた。まずはシュバルト様の教会へ。瓶詰を1つ供えて、これから生まれてくる弟妹と村の子供達の健康、及び剣術の上達を願った。返事をしてくれたシュバルト様は、剣術の事を頼まれてちょっと嬉しそうだった。最近は剣の神様じゃなく死を司る神として名が売れてしまい、剣の上達を願う人々が減っているらしい。あちらを立てればこちらが立たず。多くの人が来るようになっただけマシだと思うが、神様でも思い通りには行かないようだ。


 マギー様の教会では3つの瓶詰をお供えした。アマちゃんとマキナ様へも1つずつ渡してください。その代り、家族や村の住人の健康と魔法の上達をよろしくお願いします。


「アマちゃんが迷惑を掛けてすまない」


 マギー様の返信は短く、なぜか謝罪された。

 何か迷惑を被ったことがあったっけ。それともこれから何か起こるのかな?

 俺に関する事だけならまだいいけど、家族が、特にこれから産まれてくる子供達には悪さをしないで頂きたいともう一度手を叩いて神に願った。

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