第88話 俺は皆へのプレゼントも考えている
2年間元気に生き抜いたことに対する賛美と、これからの成長に対する展望を伝え、俺の壇上での仕事は終了した。ふぅ、緊張した。
子供達はここで一旦休憩。用意した食事を食べるも良し、果物のジュースを飲むも良し、一旦仮眠を取っても良いぞ。
俺はその間に、桃の苗木を植える手伝いをしに行った。苗木をもらった家族と共に、住居敷地内の庭へと移動。日当たりの良い所を選んでお母さんが土魔法で土を掘り起こす。エステルさんの指導の下、キュステの土付きのまま苗木を静かに掘った穴へと植え替える。苗木の周りに土をかぶせ、お父さんの水魔法で水をしっかりと吸わせる。その上にもう一度土をかぶせて周囲より少し高く盛ったら完成だ。後はエステルさんに任せよう。今回は肥料は使わなかったけど、必要ならヴルツェルから取り寄せるから言ってくださいね。
苗木の植え替えを終えて広場に戻って来ると、特別ゲストの紹介だ。
「こんにちは。只今ご紹介に預かりました、画家のクレメンスです。皆様の晴れ舞台にこうして参加出来る事を大変嬉しく思います。時間は掛かると思いますが出来るだけ丁寧に仕上げたいと思いますのでご協力よろしくお願いします」
はい、画家のクレメンスさんです。王都の男爵邸の応接室に飾ってある俺と姉さんの絵や、絵本作り、絵画セットの選定に協力してくれた画家さんだ。
誕生祭を記念して、村の子供達に家族の絵を送りたいと相談したら快く引き受けてくれた。もちろん依頼料は相場通り払うし、絵が書き終わるまでは村の滞在費は無料だ。昨日の夜から村に滞在し、今朝から祭りを楽しむ子供達を眺めてスケッチをしていた。これから本格的に一家族ずつ絵を描いて行ってもらう。
と言っても、2歳の子供の絵を描くのは大変だ。何せじっとしていられる時間が短い。嫌がって迷惑を掛けないかと心配だったけど、慣れているから大丈夫だよとクレメンスさんは笑っていた。
村の広場の一角に用意した長椅子に家族3人を座らせて絵を描き始める。先ずは団長家族からだ。クレメンスさんの後ろには描き進められている絵を覗こうと子供達が群がっている。特に色鉛筆を送られた女の子がお母さんに抱かれて熱心に見つめていた。
クレメンスさんは座っている子供が飽きてじっとしていられなくなったらすぐに次の家族を呼んで被写体を交換した。時間が掛かっても子供に無理をさせないのが秘訣らしい。無理強いすると絶対に椅子に座らなくなる子がいるそうだ。特に姉さんの時は大変だったとクレメンスさんは遠い目をしていた。迷惑を掛けていたみたいで申し訳ない。当の本人は村の子供達に魔法で演出しながらアイスやかき氷を提供している。姉さんは明日以降は王都の屋台を手伝う予定だから、今日は目いっぱい子供達を楽しませてほしい。
クレメンスさんはとっかえひっかえ家族を入れ替えていて、傍目には全く進んでいないように見えるが、今日描いているのは下書きで特徴的な部分だけをしっかりと描いているようだ。明日からは宿で1人描きながら、筆が止まったら子供達家族に会って表情や体格などをもう一度頭に叩き込むらしい。結構無茶な事をやっているような気がするが、大丈夫と笑っていたからクレメンスさんのやり方に任せた。
しかし今年の誕生祭で祝福された7家族を描き終わっても、それで終わりじゃないんだよな。北の国出身で誕生祭を祝われなかった年上の子達にも何か贈りたくて、この子達の家族の絵もクレメンスさんに頼んだ。傭兵団の3歳以上の子供は10人、さらに孤児院から移住してきた子達の絵もお願いしたからもはやいつ終わるか分からない。年は明けるだろうねとクレメンスさんは苦笑いだった、すみません。
日が暮れた頃、広場にはキャンプファイアーを模した焚火がくべられた。パチパチパチと薪が奏でる音、ゆらゆらと風に揺れる炎。火魔法で生み出した炎とは違い、自然の炎に子供達ならず大人達も魅入られていた。
祭りの最後は姉さんの火魔法を使った大きな花火を打ち上げた。少し村から離れた場所で打ち上げられた人工の灯りが、暗い夜空を明るく照らす。合計で7発。子供達の成長を祝う花火が上空に昇っては、派手な音と光で弾け飛んでいた。一応周囲の村にはそういうイベントをやるよって伝えてあるから音や光に驚かないとは思うけど、苦情が来たら平謝りをするしかないな。
子供達が疲れて寝静まった後は大人達の時間。お酒やつまみを提供し、心行くまで飲み明かしてもらった。新しく村に来た住民も団員に快く受け入れられたようでよかった。さっそく数名が農作業からの転職を願い出ているようだが、父さんはこれを機にまた畑を拡張すると言っているらしいから、希望には答えられないだろうね。
今年の村での誕生祭は1日で終了。でも王都での誕生祭は5日間行われる。
王都での祭りも楽しんでもらいたいから、村の住民を3班に分けて日替わりで王都へ行くことになっている。1班目は明日の午後に川船で王都へ出発し、次の日の午後に船でやってくる班と交代するまで王都に滞在する。1年で1番活気のある王都の姿を子供達にも是非見てもらいたい。
それを見た子供達が大人になる頃には、この村ももっともっと大きく発展させて行きたい。俺は寝る前にもう一度桃の苗木を訪ね、いつまでも見守っていて下さいと手を合わせた。




