第83話 俺は第三王子の頑張りを視察する
翌早朝、ラジオ体操等はスキップし、アンナさんが姉さんを迎えに行くのに合わせて俺を村まで運んでもらう。馬車か川船を使うよりは飛んで行った方が早いからね。マリーとルトガーさんの魔法でも俺を運べるとは思うが、より安全にという事でアンナさんの力を借りる事になった。
出都手続きをするために北門へ向かう。朝早くから王都を出立する商人や冒険者が一定する居るため、この時間帯の王都では門の周囲が一番賑わっている。ほぼ毎日ここを出入りしているアンナさんは門兵や役人と顔見知りになっていて、気軽に朝の挨拶を交わしていた。
俺達も挨拶をして、書類に名前や出都理由を書き手荷物検査を受けていると、アンナさんは名前が書かれた金属製の札を受け取って首から吊るし、手続きを簡単に済ませていた。なんですかそれは。
「私達が何度も何度も出入りするので、手続きを簡略化する為に第一王子が用意してくれたんです。大きな荷物を持っている時は荷物検査が必要になりますけどね」
へぇ。そんな制度があるんだね。確かに毎日出入りする人達は、この手続きを毎回やるのは面倒に思うだろう。
でも役人がアンナさんと顔見知りだから簡単に出来るけど、アンナさんの事を知らない新兵が担当した時とかはどうするのかな。
「あの役人が手に持っている書類に私達の名前や顔が描かれていまして、担当者全員が確認できるようになっています。先月に第一王子が提案して出来た制度で、まだ私達を使って試験運用をしているところなんですけど、随分と出入りは楽になりましたね」
第一王子が姉さんに会う出汁に使っている様な気がする。やあ、今日も問題無く門を通過できたかな、とか何とか言って。
姉さんにとって有益は物事を提供するのは悪くないと思うけど、しつこく聞きすぎると嫌がられるから注意してほしい。
ところで、その便利なシステムは誰でも簡単に利用することが出来るのかな?
利用登録にお金が掛かったりするの?
「今のところ登録は無料ですが、毎月1回は継続手続きをしなければならないのと、前月に王都を一定数回出入りしていなければ札は発行されないという規則があります。ゲオルグ様を含め多くの王都民はあまり頻繁に移動しないので登録はできないかと思います。いずれ商人用にもう少し条件を緩和した物も作ると仰っていましたから、そちらは登録できるかもしれませんね」
なるほど、前月の出入都回数か。あまりにも簡単に王都を出入り出来るようになると怪しい人達も入って来るだろうから、そういう制限は必要だよね。まあ第三王子と俺達が誘拐された時は門兵達がグルで簡単に通過出来たけど。
きっと毎日飛び回っている姉さんの為に、このシステムを考えたんだろうな。
「それもあるでしょうが、第三王子が北門の近くに休憩所と称した集落を作っているのも影響していると思います。2人のやり方は違いますが、どちらも門の出入りで混雑するのを改善したいんでしょうね」
ああ、武闘大会の時に話した件か。プフラオメ王子も頑張っているんだな。そういえば最近北に行く街道は使ってなかったからどのくらい休憩所が出来ているのか知らないや。
「まだ時間が有るので、少し遠回りして上空から眺めてみますか?」
アンナさんの提案に首を縦に振った時、漸くマリーとルトガーさんの出都手続きが終わった。2人が持っている本の検閲が少し手間取ったようだ。ルトガーさんの本は俺が買った奴だけどね。
そうなると今作ってる絵本や魔導書も王都から持ち出す時は検閲されるのか。取り上げられたりするような内容じゃないけど、雑に扱われたりすると困るな。アイテムボックスを使って村の倉庫に直接送った方が良いかな。
検閲について1人でぶつぶつと考え事をしていると、行きますよとアンナさんに持ち上げられ上空に飛び立った。
久しぶりの飛行に少し慌てたが、高所から見下ろす王都は相変わらず見事な街並みだった。
くるっと反対、北側に目を向けると、北へ続く道の先に小さな建物が何個か見えた。あれがプフラオメ王子が作っている休憩所かな。
休憩所を上空から眺めると、街道の東側に建物が数戸立ち並び、建設中も散見される。道の反対側にはバスロータリーのような広いスペースが設けられ、その更に向こうには牧場と厩舎が配置されていた。当初は馬だけ飼育していたそうだが、最近牛が追加されたらしい。こんなに王都に近い場所で畜産業でもやるつもりなのかな。動物の臭いが風に乗って王都へ行かなければいいけど。
建物の中に1つ気になる物があるんだけど、まさかフリーグ家も関わってる?
「ええ、男爵もお爺様も東方伯も出資してますよ。集落作りにいち早く感づいた男爵が誘ったみたいですけどね。食べ物のお店の他に牧場や宿の食堂にもフリーグ家が関わってますよ」
素晴らしい商売根性だけど、いつのまにこっちにも手を出していたんだろう。
「ゲオルグ様が2つ目の舟に手を出した辺りですかね。アリーに舟を贈る為に俺もがんばるぞって男爵が零してましたよ」
そっか、偶に王都で仕事している時も有ったもんな。無駄な出費で無理させちゃったかな。
「さあ、楽しそうに働いていましたからいいんじゃないでしょうか。王都付近で仕事をするとリリー様と過ごす時間も増えますしね」
それならそれでいいんだけど。
「それでは村へ行きましょうか。また今度、あそこに立ち寄ってみましょう」
プフラオメ王子もこの集落建設を楽しんでいるだろうか。まさか父さん達が手を貸すとは思わなかったけど、リオネラさんが望んでいたように楽しく仕事出来ているといいな。




