第82話 俺は魔導書の執筆を依頼する
図書館で魔導書を読み進め、そろそろ日が暮れるぞという所で退館した。
色々な魔法が書かれていたが、多くは攻撃的な魔法か防御用の魔法。書いている魔導師の性格なのか、その時代のニーズなのか、派手で荒っぽい魔法ばかりだった。マリーに書かれている魔法は使えるかと確認してみると知っている属性の物は概ね再現できるそうだ。よく分からない系統の魔法も有ったからね。
魔導書について雑談しながら男爵邸に帰ると、アンナさんがちょうど姉さん達の送り迎えから帰って来たところだった。アンナさんは俺を見つけると、早速午前中にお願いした件を話してくれた。
「残念ながら今は種が手元に無いので何も出来ないと仰ってました。キュステのマチューなら持っているかと思い、冒険者ギルド経由で確認を取っています」
お、話が早い。ありがとうございます。通信費用は後程支払いますね。
アンナさんに御礼を行った後、俺は先ず自室に引き籠ってマリーと一緒に図書館で調べた内容を精査した。
魔導書を作るにあたってどのような内容を書いてもらうか、図書館にあった魔導書を参考にして目次を作って行った。
夕食の後、母さんの自室を訪ねた。
ソファーに座って何か作業をしていた母さんは、手元を止めて俺を優しく出迎えてくれた。
「え、魔導書を作るから書いて欲しいって?」
母さんを訪ねた理由を説明すると、目を丸くして驚いていた。
ドーラさんの事を思い出した後、俺はドーラさんに匹敵する魔導師が書く魔導書を読んでみたいと思った。単純に俺の興味だが、風魔法使いの母さんに浮遊魔法と飛行魔法の真髄を書いてもらいたいんだ。
「う~ん、時間は有るから書くことは出来るけど、面白く書けるかしら」
面白くなくてもいいよ、母さんの思いのままに書いてもらえれば。ルトガーさんに清書してもらう事も出来るし、挿絵を入れるなら画家さんにお願いして来るよ。8月末までには書き上げて欲しいけど。
「わかったわ、頑張ってみるね」
暫く説得を続けた結果、なんとか母さんは承諾してくれた。ありがとう母さん。体に負担を掛けないように気を付けてね。
母さんに魔導書の寄稿を頼んだ翌日、冒険者ギルド経由で2つの連絡が来た。
1つはマチューさんからの返信。
桃と一言で言っても色々な種類がある。
白桃と黄桃どっちがいい?
甘味が強くて柔らかい肉質の物と、硬めの肉質だけど日持ちがする物どっちがいい?
6月くらいに実を付ける物と、9月くらいに実を付ける物、中間の物もあるけどどれがいい?
東方伯からも格安で売っていいと了解を貰っている。誰か取りに寄越して。
そう言う内容だった。
そんなに色々種類があるなんて気にしてなかったな。う~ん、どれがいいかな。個人的には柔らかい桃が好きだけど。う~ん。
「どうせ暇なんですから、悩むなら一度キュステに行ってみませんか?」
うんうん唸っているとマリーが何でも無いような風で言ってくる。
村から王都へは簡単に行き来出来るけど、キュステは遠いからな。父さんが居ない村からあんまり長期間離れるのも良くないかなと思うし。
「それなら団員の誰かに行ってもらいましょうよ」
そうだね輸送部隊に頼んで桃の苗木以外の物も買ってきてもらおうかな。
苗木のまま植えずに置いておくのも可哀想だから、誕生祭の前日辺りに合わせて帰って来て貰うように調節して。
その前にどの苗木にするかマチューさんに言っておかないと。
「折角ですから誕生祭に合わせて9月に実る物を選ぶのはどうですか?」
ああ、その案は良いね。採用。
後は甘い物をマチューさんに選んでもらおう。2歳を祝う誕生祭に合うよう、2年生の苗木があればそれを優先してもらうのも面白いかな。
そしてもう1つはヴルツェルの爺さんからの連絡。俺個人にというよりは男爵家にという内容だった。
競艇では迷惑を掛けた。公爵と侯爵には抗議をしているが実りは無い。
決勝戦中に舟を直してもらってありがとう。操船者も最後まで走り切れて良かったと感謝している。
また時間が取れたら王都に行くから、その時にもう一度謝罪させてほしい。
忘れようと努力しているのにまた掘り返されてしまった。爺さんに悪気は無かったんだと思うが、もっと早く、競艇後かその翌日には声を掛けて来ても良いのに。抗議の結果を待っていたら遅れたんだろうか。
関わるとまた文句が止まらなくなりそうだと思ったから、返事は父さんに任せる事にした。父さんはグリューンに行っているから二度手間になるけど仕方ないよね。
これで誕生祭用の贈呈品は3つとも目処がついた。剣と苗木は確実に手に入るだろう。魔導書は母さん頼りにしてしまって申し訳ないが、もし間に合わなかったら古本屋であの変な羊皮紙を購入しよう。母さんの本を待つ間の時間稼ぎにはなるだろう。
マチューさんへの返信と父さんへの連絡はアンナさんに任せて、俺は明日村に行こうかな。折角買った本を早く子供達に読んでもらいたいからね。




