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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第80話 俺は古本を購入する

 ニコルさんの暗い過去の話を振り払って、俺はドワーフ言語の本かエルフの薬学か薬草学の本が無いかと、古本屋の店員さんに聞いてみた。


「おや、人族の子供がそんな本を欲しがるなんて珍しいね。ドワーフ言語は理解しているのかい?」


 俺の答えを聞かずに別の棚へと足を向けた店員さんを慌てて追いかけ、鍛冶屋のソゾンさんから言語を習って魔導具も作れる事を店員さんに説明した。


「ヤーナが言っていた人族の弟子って言うのはあんたのことかい。面白い物を色々作っているって話は聞いているよ」


 従業員以外立ち入り禁止と書かれた場所にある棚から、これは違う、あれじゃないと言いながら店員さんが何かを探している。

 造船所のロジオンさんも俺の事を知っていたし、ヤーナさんは割とお喋りさんだな。


「王都に居るドワーフ族は毎月集まって情報交換をしているんだ。そこで最初に弟子が出来たと自慢したのはソゾンだけどね。ソゾンは女の子って言ってたけど、性別を見誤るなんて耄碌爺だね」


 あ、それは店員さんの勘違いだ。

 ソゾンさんの名誉を護る為、最初に弟子入りしたのは姉だと伝えた。最近は弟子っぽい事はやってないと思うけどね。


「なんだい、それならそうとヤーナも言ってくれればいいのに。あ、あったあった。これが一番面白いかな」


 店員さんが棚から1枚の羊皮紙を引っ張り出して俺に手渡してきた。


「それはある魔導具を作る為のドワーフ言語が掛かれた物だけど、おっと、まだ中を見ないでよ。ドワーフ言語が分かるのならちらっと見ただけでも知識を得られるからね」


 それなら手渡してこなきゃいいのにと思いながら、店員さんにその魔導具とは何なのかと聞いてみた。


「冒険者ギルドで使われている通信装置は知ってるかい。それの基になった魔導具だよ。試作機、と言っても良いかな。因みに値段はこれくらい」


 店員さんが示した値段を聞いて目玉が飛び出るかと思った。リオネラさんが作った舟と並ぶ程の金額に、嘘でしょと疑いの言葉が俺の口からつい漏れ出てしまった。それを聞いた店員さんは俺の手から羊皮紙を取り上げた。


「嘘じゃないよ。これに書かれている知識がそれほど重要な物だって事。雷撃魔法を利用できるドワーフ言語はなかなか世に出回らないからね」


 雷撃魔法?

 それなら興味があるけど、どうして他の魔導具職人達はこの羊皮紙に興味を示さず、古本屋で大事に仕舞ってあるんだろう。実はあまり役に立たない知識なんじゃないか?


「じゃあ、次はエルフの本ね。ええっと、これこれ。これは割と新しい本だけど、この国では手に入らない植物が殆どだから人気が無くて売れ残ってるんだ」


 店員さんは魔導具の羊皮紙を片付け、別の棚から1冊の本を取り出した。こちらはきちんと厚紙で装幀されていて損傷も少なく綺麗な本だ。中を見てもいいと言ってくれたからペラペラとページを捲って目を通した。


 受け取ったのは薬草の生態を絵柄付きで説明している薬草学の本だった。綺麗で精密に描かれた絵は、植物に興味がある人なら見ているだけでも面白いと思う。その中には村の温室で見た事がある薬草もいくつかあった。


 本の後ろの方にはそれらの薬草を使った薬の調合方法が記されていたが、分量が曖昧だったり調合機器に関する説明を省いていたりと随分と手抜きな感じがした。表紙に書かれていた作者はルシアンと言う知らないエルフだったけど、あまり調合には興味が無かったのかな。


 でもこれはなかなか良い本じゃないかな。調合部分の手抜き感を差し引いても、薬草の生態がかなり詳しく書かれていて随分と勉強になる。最近温室に足繁く通っている子も居るみたいだから、村での教育用に買っておこうかな。


 値段を聞くと割と高い本だった。まあ割と綺麗な装幀だし、絵も凝ってるからな。でも売れ残っているならちょっとは安くしてくれてもいいんじゃない?


「こっちも生活があるからね。もう何冊か本を買ってくれるなら、考えても良いけど」


 それならと、もう少し棚を回って面白い本が無いかと探すことにした。




「良い本が手に入って良かったですね。村の子供達も喜んでくれるといいんですけど」


 マリーが手元の絵本を大事そうに抱えて、柔和な笑みを浮かべている。俺も複数購入にしたけど、マリーも3冊の絵本を購入した。1冊は北の国で作られた絵本らしく、子供達に故郷の話を読んで聞かせるんだと意気込んでいる。


 俺は薬草学の本と合わせて合計4冊の本を購入した。色々棚を見て回っていると面白そうな本が見つかってついつい買い過ぎてしまった気はしている。


 冒険者ギルドが初心者冒険者に配布していると言う魔物の絵と情報が簡単に書かれている冊子。

 初心者を卒業した冒険者が毎年売りに来るらしく、凄く安かった。冒険者にならなくても魔物の知識は少なからずあった方が良いと思って買ってみた。


 とある好事家の商人が国内の各地を巡った時の手記、の複製版。

 この手記は、何処で何を食べたとか、あの街ではこれを売っていたとか、国内の料理や特産物について書かれていたから購入した。50年くらい前の物で流行物には対応出来ないし、国内全ての村々を網羅した物ではないが、ストラオス王国の事を知るには良い本だ。生存中から何冊も同じ本を出版していたらしく、お手頃な値段だった。


 それから最近作られたという小説。冒険者が各国を巡って強い魔物を討伐していく物語。

 お話自体は創作だが土地名や国名は実在する物らしく、作者が長年各国を渡り歩いた知識が使われているそうだ。楽しく地理の勉強が出来るかなと思って買ったけど、割と高かったからちょっと後悔している。


 小さな子供には難しい内容もあると思うけど、時間が掛かっても良いから読破して欲しいなと願っている。いつかマリーみたいに、自分のお金で本を買いたがる子が出てきたら嬉しいな。

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