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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第74話 俺は父の自虐に驚く

 父さんの背中を追いかけて宿へ帰ると、薬を配りに行った姉さんとエステルさんも帰って来ていた。

 エステルさんが落ち込んでいる様な気がするけど、何かあったのかな。


「道端で蹲って動けなくなっている人達は薬を飲んでくれたんだけど、診療所に並んでいる人達には拒否されちゃった。診療所で働く人達も受け取ってくれなかった。フリーグ男爵家の薬だって名乗ったんだけど、得体の知れない薬は飲めないって。薬を飲めばすぐに良くなるのになぁ」


 姉さんが帰って来るまでの出来事を教えてくれた。

 そっか、一生懸命作った薬を拒否されたからエステルさんは凹んでいるのか。俺もさっき凹まされたからな。その気持ちはよく分かるよ。


 姉さんについて行ったアンナさんは、子供だからというより男爵家だと名乗った瞬間に拒絶されたように感じた、と話していた。


「この街を治める公爵は先王の兄で、王位継承を弟に譲って公爵になった人だ。王子時代からこの街を任されていて、街に昔から住んでいる人は公爵こそが王になるべきだと思っている人も少なくないだろう。その気持ちが男爵家如きの助けを借りるなんて出来ないという誇りに繋がっているんじゃないかな」


 状況を把握した父さんがそう推察する。

 あまりにも自虐的な発言に驚いてしまったが、男爵家如き、か。爵位を持っていても新興の男爵家など歯牙にもかけないと。

 それを心の支えに腹痛を我慢出来るというなら立派なプライドだと思うが、親の思想で無理矢理我慢させられた子供がいたら可愛そうだな。


「だから、エステルの薬が悪かった訳じゃないから気にするな。道端で蹲っていた人達はおそらく余所から観光に来た人で、診療所を探す元気も残っていなかったんだろう。その人達だけでも助けられて良かったじゃないか。それに、アリーや村の子供達を救ってくれてありがとう。これからも良く効く薬を作って欲しい」


 父さんの感謝と励ましを聞いてエステルさんはついに泣き出してしまった。ダムが決壊するように、ボロボロと涙を床に落としている。こっちももらい泣きをしてしまいそうになったが、エステルを泣かすなと言って姉さんが父さんにボディーブローを喰らわす現場を見て、俺の涙は引っ込んでしまった。


「お、おう。アリーが元気そうでよかった。その怒りは競艇で発揮してくれ。じゃあ俺は舟の様子を見て来るから、集合時間に遅れるなよ」


 父さんは姉さんに殴られたお腹を摩りながら宿の一室を出て行った。お腹痛いならエステルさんの薬飲む?。




 集合時間近くまで宿で休んだ姉さんはアンナさんと一緒に舟の方へと飛んで行った。それに続いて俺達も動き出す。食あたりになった子供達はこのまま休ませておこうかと相談したが、結局皆で行動することになった。もう今日は屋台で食べ物を買う事はしない。喉が乾いたら持参した水筒の水を飲む。

 子供達が屋台から眼を逸らして歩く姿を見て心が痛んだ。今回の事がトラウマにならないといいけれど。


 昨日と同じ外壁の上に登り、競艇開催を待った。なんとなく、昨日より人混みが空いている気がする。まだ腹痛が改善せず苦しんでいる人達も居るんだろうか。そう思うとここで大人しく観戦しているのも気が引けるが、かといって薬を受け取ってもらえないのならどうしようもない。無理矢理飲ませて問題になるのも怖いからな。


「それでは、競艇決勝戦を開始します。この時点で賭けの投票は閉め切りになりますよ。さあ、どの舟が外堀を一番早く2周して、優勝の栄冠を手にするでしょうか。先ずは各予選を1位で勝ち抜いた舟の中から、周回時間が最も早かった舟を御紹介致します」


 俺が悶々と考え事をしていると、係員によるアナウンスが始まり、爺さんの所有する舟が紹介される。そういえば腹痛の混乱で賭けるのを忘れていた。

 決勝戦は予選の周回時間順にスタート位置が決まっているようだ。爺さんの舟が最前列の左側、2番手がその右に並んでいる。

 2番手はソゾンさんの舟だ。予選では途中から少し速度を落として走っていたけど、あれで2位なんだな。


 3列目の右側、1番最後に紹介されたのが我が男爵家の舟。他の5隻は予選1位の舟だから、この並びになるのは当然だな。予選の時と同じ間隔で6隻が並んでいるが、姉さんはどう動くつもりだろうか。またスタートを少し遅らせるのかな。今回は2周あるから多少遅れても追いつけるかもね。


 6隻の商会が終わり、準備が整った所でいよいよレース開始の雰囲気が高まって来た。頑張ってくれよ姉さん。男爵家の名を知らしめるんだ。


 10、9、8。


 予選より長いカウントダウンに外堀周囲で見ている観客達も声を揃えて合唱する。


 4、3、2。


「危ない!」


 誰が発した分からないその声が街全体に響いたのに少し遅れて、大きな衝突音が耳に届いた。

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