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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第73話 俺は自分の矛盾を理解している

 腹痛を患った人達の話を総合すると、ベリーソース屋の隣でソーセージを販売していた屋台が怪しい。変な味だと思ったのは腐っていたからかもしれない。


 俺は傭兵団に子供達を宿へ戻して休息させるよう指示し、エステルさんには各診療所を回って腹痛で苦しんでいる人達に薬を提供するようお願いした。


「薬の在庫は村の倉庫にまだ沢山有るので大丈夫ですが、販売価格はどうしますか?」


 ど、どうしよう。無料で手配り回ったら父さん怒るかな。薬は大事な村の収入源だからな。


 エステルさんの質問に悩む俺に対して、姉さんが口を開く。


「学校の歴史の先生が損して徳とれって言ってた。昔の偉い人の言葉なんだって。薬は無料で提供して、男爵家の名を売ればいいんだよ。飛行魔法の出来る団員は診療所まで案内して、急ぐよ」


 姉さんが珍しく良い事を言って、先行する団員を追い越さん勢いで飛んで行った。エステルさんは念のためにと、俺に10個の薬と水筒を手渡して姉さん達を追いかける。アンナさんもついて行ったから向こうは心配しなくていいな。


 姉さんの言う通り、悩む時間は勿体無い。俺も次の被害者を出さないように行動しよう。先ずは父さんに状況を報告。確かリオネラさん達と一緒に舟の所に居るはずだ。



 話を聞いた父さんは、薬を無料で配布していると知って少しだけ暗い顔を見せた。

 しかし、損して徳とれと言う言葉は知っていたようで、姉さんが学校の勉強を頑張っているんだなと感動していた。偶々歴史の授業で起きていただけじゃないかなと俺は思っているけど。


 父さんと合流した後、一緒にボーデン公爵邸を訪問した。屋台の管理を任されていると言う男性が、案内された部屋で対応してくれた。父さんはその男性に街中で腹痛が広まっている事を報告した。


「報告ありがとうございます。ですがすでに発生源は特定され、屋台の店主が捕らえられて取り調べを受けています。腐ったベリーソースで公爵の民を苦しめるなんて大罪ですよ」


 え、ちょっと待って。その店じゃないと思うんですけど。

 俺がつい口を出してしまったことに、男性は面倒くさそうな顔をして対応した。


「街の診療所から、腹痛になった全ての人がベリーソースを食べた、との聞き取り結果が報告されています。しかもあの店主は公爵の民では無く、他貴族領から来た余所者。調べるなと言う方に無理があります」


「でも、昨日もあの屋台はあそこに有りましたよ。俺は昨日あの屋台のベリーソースを食べました。昨日は腹痛騒ぎが起こっていませんよね。俺はベリーソース屋の隣のソーセージ屋が怪しいと思っています。昨日はその屋台は有りませんでしたし、変な味のソーセージでしたから皆隣のベリーソースをかけて食べたはずです」


 つい声を荒げて反論してしまった俺に、男性も反論を返して来る。1度大きくため息をついて。


「言いたいことは解りますが、昨日はソースに毒物を混ぜていなかったのかもしれませんし、食べ物は1日放置していれば十分腐ります。変な味だったと言いますが、君はそのソーセージを食べたんですか?」


「はい、1本、全部」


「その割には君は元気そうですね。先程提出して頂いた薬を飲んだんでしょうか?」


「いえ、俺は腹痛になっていません」


「では、今日は、ベリーソースを口にしましたか?」


「いいえ」


 今日は、の部分を殊更強調して来るのが厭らしい。


「ソーセージが怪しいと言う君は、それを食べたのに腹痛になっていない。ベリーソースを疑うなと言う君は、今日それを口にしていない。しかし、腹痛を訴えている人はベリーソースを食べている。君の話に説得力があると思いますか?」


 それは自動治癒のお蔭で俺の体は腹痛にならないから。


 そんな話を口に出来るはずがない。黙ってしまった俺を見て、男性は鼻を鳴らして呆れた表情を見せた。


「その是非はともかく、助言には感謝します。ですが警備隊ごっこをして遊ぶ貴方達と違って、我々は対応に忙しいのでこれで失礼します。この薬はお返ししておきますね。子供の妄言に付き合う男爵家の薬など誰も必要としていません」


 男性は薬を父さんに突き返して部屋を出て行ってしまった。それを止めることも出来ず、俺は呆然としてしまった。明らかに男爵家を馬鹿にした発言に対して沸々と湧いてくる怒りと、人には話せない秘密を持っているが故の矛盾が、俺の中で鬩ぎ合っていた。


 父さんに促されて漸く動き出した俺に、父さんは優しく声を掛けて来た。


「まあ役人なんてあんなもんだ。簡単に自分の考えを変えない。話を聞いてくれただけ良かったよ。俺達は出来る事をやった。アリー達が薬を配って市民の体調が回復したならそれでいいじゃないか。あとは公爵が上手くやるさ」


 ダメだ。これ以上優しい言葉を掛けられたら涙を我慢できなくなる。俺は父さんを先に行かせ、その大きな背中で自分の顔を隠して歩いた。


 公爵邸の外で待っていたマリー達と合流した時、彼女らは何も言わなかった。俺の顔を見て何か異変を感じ取ったらしい。俺は止まらない鼻水をすすりながら、宿に向かう父さんの後を付いて行った。




 宿に帰る途中、偶然ベリーソース屋の前を通過した。その屋台は半壊していて、近くの地面には真っ赤なベリーソースがぶちまけられていた。どこかで飼われているのか野良猫なのか、数匹集まって赤いソースを舐めている。


 隣にあった筈のソーセージ屋の屋台は、跡形も無く姿を消していた。

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