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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第72話 俺は姉さんの食べっぷりを心配する

 競艇2日目に行われる決勝戦は午後からの開催となり、午前中は舟の調整に充てられる事になった。


 だが、この短時間に仕様を弄るよりは乗り慣れた舟の方が良いという話になり、リオネラさん達によって簡単なメンテナンスをするだけに留まっている。


 姉さんは今日になってアンナさんと共に村から飛んで来たエステルさんと、屋台の食べ歩きを楽しんでいる。

 王都の誕生祭などに出る屋台と8割方は同じような屋台で、残りはこの街や王国西部地方の郷土料理的な食べ物が振る舞われている。ヴルツェルを含めて王国西部は寒冷な地域な為スープ系の暖かい食べ物が多いみたいだが、王都では流行らないような個性的なソーセージも沢山あった。


「この甘酸っぱいベリーソースが美味しいね」


 姉さんが口の周りに真っ赤なソースを付けて茹でられたジャガイモに齧りついている。余ったソースは隣の屋台で売っていたソーセージにも付けて楽しんでいる。

 俺も昨日食べたけど、このベリーを使ったソースは確かに美味しい。酸っぱいのが苦手な人にはちょっと向かないかもしれないけど俺は好きな味だった。

 隣のソーセージ屋は昨日は無かったから俺も注文してみたが、独特過ぎてあまり美味しくなかった。俺の微妙な表情を見てマリーもエステルさんもソーセージの購入は控えていた。


 このソース、生のベリーを潰して砂糖を混ぜただけだと言うから驚きだ。北西部の冷たく乾燥した森林に自生する果実らしく、8月から10月頃に収穫され加工して1年間楽しむそうだ。

 保存が効くソースの様だが王都に出回らない理由はと屋台の店主に聞いてみたら、もともと森林周辺の村でしか食べられていない物みたいで、去年の収穫量が豊富でソースが余っていたから競艇で屋台を開くことにしたそうだ。1年分は次の収穫までに使い切って、新しいソースを楽しむのが現地の習慣らしい。できれば我が男爵領でも育ててみたいものだが、寒冷地に自生する植物となると王都周辺では厳しいか。


「リンゴンベリーを育てたいならグリューンが良いよ。寒い気候の方があってるから」


 エステルさんにベリーの事を聞いたらそう教えてくれた。そうだ、グリューンがあった。あそこは山の中腹で王都周辺よりは寒い。後で父さんに頼んでみるとしよう。


 それにしても姉さんは食べ過ぎじゃないかな。あまり食べ過ぎるとお腹壊すよ?


「大丈夫大丈夫、エステルがいっぱい薬を持っているから。毒を食べたって大丈夫だよ」


 毒と言われて屋台の主人がびっくりしているよ。言い過ぎだから謝って謝って。




「う~ん、お腹痛い。ソーセージを食べ過ぎたかな」


 忠告から1時間もしないうちに姉さんは腹痛を訴え始めた。ほら、言わんこっちゃない。姉さんの要望に応えて、エステルさんが背負っていたリュックから水筒と散剤を取り出し、姉さんに手渡す。


「うぐぅ、にがあぃ」


 薬を水筒の水で流し込んだ姉さんが面白い顔になっている。よっぽど酷い味だったんだな。俺は飲まないように注意しよう。


「あのぅ、すみません。もしまだ薬をお持ちなら、こちらに売っていただけませんか?」


 え?


 声に反応して振り返ると、そこには姉さんと同じようにお腹を押さえて汗だくになりながら苦しんでいる女性と、その人を介助している男性がいた。すぐにエステルさんが女性に薬を手渡し、水筒の蓋に水を注ぎ始めた。




「ありがとうございます。おかげで妻が助かりました」


 薬を飲んで5分もしないうちに容体が落ち着いてきた女性を見て、男性は安堵した様子でエステルさんに頭を下げた。

 この男女は競艇を見る為に別の街から来ていた観光客で、診療所等の場所が分からずに困っていたらしい。食べ過ぎで苦しんでいた姉さんが薬を飲んで回復したのを見て、縋る思いでこちらに声を掛けたそうだ。それにしても姉さん並に食べ過ぎるなんて意外だ。まあ痩せの大食いっているからな。


「大丈夫ですよ。暫くはゆっくり休んでください。競艇開催までには元気になると思いますが、口に入れるものは水分位にしておいてくださいね」


 エステルさんが優しく女性の背中を摩りながら忠告をする。姉さんも、しっかり聞いといてよ。


「はあ、はあ、ようやく見つけた。エステルさん、く、薬を。息子が危ないんだ」


 薬の売値をどうしようかと考えていた時、団長が息子君を抱えて走り寄って来た。息子君は顔を真っ青にしてお腹に手を当てて苦しんでいる。また腹痛?

 しかも、団長の後ろには大人達に支えられた他の子供達も。苦しんでいる子も居ればそうじゃない子もいるけど。もしかして、本当に、毒?


「ここに来る前に何カ所か診療所も見つけたが行列が出来ていた。何か変だぞ、この街」


 薬を飲ませて落ち着いてきた息子君を見て団長も漸く落ち着きを取り戻したようで、朝、俺達と宿で別れた後の行動を話してくれた。


 3班に分かれて行動していた傭兵団は、各々街を散策し、昨日は食べられなかった屋台を中心に食べ歩きをしていたようだ。沢山種類を味わうために購入した1つを数人で小分けにして食べていたらしい。

 しかし、20分ほど前からちらほらと腹痛を訴える子供が出始め、歩くのを止めて休憩していてもどんどん容体が悪化し始めた。すぐに診療所を探して移動したがどこもいっぱい。行列には並ばずリオネラさんを探して街を徘徊し、漸く合流できたと言う訳だ。


「私が飲ませた薬は収斂作用がある薬草と軽度の解毒作用がある薬草を混ぜたものです。腹痛を引き起こす食あたりには効果がありますが、強烈な毒には無力です。アリーちゃん達が回復したことから、何処かの屋台で傷んだ食べ物を提供していたんじゃないでしょうか」


 エステルさんがそう分析する。腹痛の原因は食べ過ぎじゃなくて食あたり、もしくは食中毒だったのか。

 アリーちゃんはまだまだ食べられますよと言うリオネラさんの言葉を聞いて、姉さんがちょっと照れている。褒めたわけじゃないと思うんだが。


 俺は団長から子供達が食べた屋台について詳しく聞いた。ついでに先程助けた女性の旦那さんからも情報収集をした。苦しむ子供達の介助を手伝ってくださり、ありがとうございます。


 俺は姉さんが食べた屋台はだいたい覚えている。それらの話を総合して発生源と思われる店は、あのベリーソース屋の隣にあったソーセージ屋だ。

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