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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第71話 俺は競艇の実況に耳を傾ける

 スタートに出遅れた姉さんはいつも通りの急速発進で、9隻の舟を追いかけて行った。

 カウントダウンをしていたことから察するに、姉さんはわざと出遅れたみたいだ。先頭の1隻はもう角を曲がって姿は見えなくなっている。その他の8隻は団子状態になって直線を進んでいる所だ。ここからどうやって巻き返しを図るつもりなんだろうか。


 姉さんは外堀右側の壁ギリギリを走行していた。

 先行している舟が生んだ引き波は壁に当たると折り返して二重になってしまうので、壁際を走行するのは不利になるはずだ。しかし姉さんの舟はそんなことは気にしないと、小刻みに波を乗り越えながらあっという間に最高速度に達していた。


 最高速度に達した頃に外堀内をフラフラ左右に動いていた9位の舟を抜き去り、8位の背中を追いかけてカーブに突入。速度を維持したまま大外を舐めるように旋回し、内側の最短コースを速度を落として曲がっていた8位の舟と並走しながら姿を消して行った。

 ここから先は実況で状況を把握するしかない。


「今回の予選は前走と異なり、先頭を走る1隻が独走状態で今、我々の前を通過しました。2位争いを3隻が繰り広げていますが、おっと後ろから爆走してくる舟があります。ええっと、舟番30番、フリーグ男爵家所有の舟ですね。操船者は男爵家のアレクサンドラ。プロテクターで身を護っている少女が、今、直線で1隻を抜いて7位に上がりました。先頭の舟が2つ目の角を曲がった所なので我々の実況は此処までとさせていただきます」


 なんだよ、姉さんの動きをもっと実況してくれよ。

 外堀は六角形の形をしているから、ゴールまではカーブが後5回、直線が4本とゴール前の半分。1位との差はどれくらい詰まったんだろう。向こうも全力で逃げているみたいだし、追いつけるだろうか。


「先頭の1隻が3つ目の直線で待つ我々の前を走り抜けて行きます。独走する首位の舟にはもう追いつけないと思ったのか、2位の舟が左右に蛇行しながら後ろの邪魔をしていますね。やり過ぎて衝突事故を起こさないように注意して貰いたいところです。その後方では、角を曲がり切った所で2隻を置き去りにした舟がぐんぐん追い上げて来ています。このままの勢いで走り続ければ、次の曲がり角に到達する辺りで2位争いの集団に追いつきそうです」


 姉さんは順調に順位を上げているようだ。恐らく相手がカーブで速度を落としたところを抜き時と考えているんだろうな。前の集団が2位争いに意識を奪われている事も今の姉さんには有利に作用している。次は一気に3隻、抜けるのか?


「逃げる先頭を追いかけて、2位争いの集団が角を曲がり切って姿を現し、おおっとここで衝突です。2位を走っていた舟に外側から抜こうとした1隻が衝突してしまいました。動きを止めてしまった2隻の内側を、他の2隻が通過していきます。ぶつかった舟は21番と23番ですね。2隻とも何とか再び走り出したようです」


 衝突と聞いて心臓が止まるかと思った。

 でもよかった、姉さんの番号じゃない。2隻がぶつかったのを見て、上手く内側に進路変更出来たみたいだ。


「さあ5つ目の直線です。相変わらず独走を続けている舟を追いかけて、1隻が全速力で追いかけています。小さな体を更に小さく丸め込んで、舟と一体となりながら直線を走り抜けています。その差がじわじわ縮まっているようにも見えますが、果たして追いつけるのでしょうか」


 実況と共に向こうの外壁の歓声がこちらにも聞こえて来た。追いかけているのは姉さんだな。いつの間にか2位に上がっていたらしい。衝突した舟を躱す時も速度を落とすことなく操船したんだろう。心臓が激しく鼓動する。早くゴール前まで来てくれ。


 最後のカーブを曲がって最初にゴール前の直線に来たのは案の定爺さんの舟だった。その舟が直線で再加速し始めたところで、姉さんがカーブの内側ギリギリを舟の鼻先で掠るように姿を見せた。カーブで外側に膨らみながらも速度を緩めることなく、姉さんは直線に突入した。




「う~ん。もう一周あったら確実に抜けたんだけどね」


 夕食を食べながら、昼間の予選について姉さんが感想を述べる。

 確かに最初のスタートよりは随分距離が縮まっていて、あとカーブが2つか3つ残っていたら確実に抜けていたと思う。

 でもそれならスタート時点から本気を出せばよかったでしょ。


「開始直後は皆固まって走って自由に速度を上げられないから、ああするのが一番だったと思うよ。ちょっと待つのが長すぎたかなとは思うけどね」


 やっぱりわざと出遅れたのか。確かにあの行列状態で最高速度を出したら即衝突していたとは思う。でも、その案も最後列だったから出来た事だよな。列の途中でスタートせずに止まっていたらすぐに後ろから衝突されていただろうし。あのスタート位置はどうやって決まったんだろう。


「最初から決まってたよ。舟の登録順って言ってたけど。まあでも、決勝に出られて良かった。明日も全力で走り抜けるよ」


 ふ~ん。誰かの陰謀で最後尾に回されたんじゃないか、なんて思ってたけど思い過ごしだったかな。最近事件に関わり過ぎて疑心暗鬼になっているのかも。


 まあ終わったことはいいか。姉さんの言う通り予選順位2位以下での周回タイム1位で決勝進出は勝ち取ったからね。

 もちろんソゾンさんの舟は予選1位通過。最後の方は流して走る余裕も見せていた。4戦目の予選で1位になった舟も結構速かったし、明日の決勝がどうなるか、そっちの方に意識を向けよう。

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