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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第69話 俺は予選開始の合図を待つ

 予選の組み合わせが決まったその夜、俺は沈鬱な表情を隠せなかった。


 5つの予選で10隻ずつの舟が競い合い、外堀を首位で1周した舟が翌日の決勝戦に進出する。

 さらに予選を走った全ての2位以下の舟の中で、最も早く周回した舟が決勝に出られる事になる。そのため合計6隻の舟で決勝戦が行われる。

 その予選でヴルツェルフリーグ家とぶつかることになってしまった。予選が5つしかないんだからそりゃあ同じ組になる可能性は高いだろうが、まさか一番と言っていい難敵とぶつかるなんて。

 出来る事はやって来たつもりだが勝てるかどうかわからない。2号機は自信を持って良い舟だと言い切れるが、試作機はもっと良い舟だ。これに勝てるかどうか。


「ここで負けるとソゾンさんとの競争にも負けてしまうでしょうね。流石にソゾンさんが作った舟が予選で負けることは無いでしょうし」


 俺の不安をマリーが的確に突いて来る。そうなんだよ、ソゾンさんが作った舟と戦う事も無く敗戦する訳にはいかないんだ。


 もう舟は競艇の係員に管理されていて、手を加えることは出来ない。明日の姉さんの操船に任せるしかないが、姉さんはもうベッドに潜り込んで眠っている。子供達と遊んで疲れたんだろう。興奮して眠れないよりはいいけどね。逆に俺の方が眠れないよ。


 マリーが自室に戻った後も俺はベッドの中で悶々としていて、日付が変わった頃に漸く意識を手放した。




 朝起きて日課のラジオ体操を宿の一室で行った。流石に皆で集まって一斉に、という事は出来ないからね。競艇が終わるまではランニングも剣術稽古もお休みだ。子供達も体を休ませて、お祭りを楽しんでもらいたい。


 午前中は参加者が舟に乗って街中に張り巡らされている水路をゆっくりと進み、観客達へのお披露目が行われる。その後、昼食の時間が終わった頃に街の外堀で予選開始だ。見物客は街の外に出て水路の近くで観戦するのも良し、街を取り囲む外壁の上に登って俯瞰で水路を見るのも良し。


 朝食の後俺達は水路の一角を陣取り、舟がやってくるのを待っていた。

 競艇参加者の関係者用に主催者側が用意してくれた場所だが、なかなかいい所だ。近くに食べ物の屋台も出てるし、お手洗いもある。あの角にある屋台のベリーソースは王都では見た事が無いから後で食べてみよう。ただ問題は暑い日差しを遮るものが何もないから、熱中症にならないように注意しないといけない。




 競艇主催責任者のボーデン公爵が風魔法を使って行った開会挨拶の後、順次参加舟が水路を巡ってやって来る。

 大会本部近くの水路を通った時に参加者の名前等を紹介しているが、そこから随分離れている俺達は声と舟の様子が全く違う。暑い意外にも難点があったな。子供達も最初は戸惑っている様子だったが、姉さんの名前が聞こえた時には随分と盛り上がっていた。


 姉さんの名前が聞こえてから20分程した後に漸く姉さんの動かす舟が俺達の前を通過した。参加者達が渋滞を起こしてなかなか進まないこの状況に姉さんは不満を感じているかと思ったが、割といい笑顔で俺達に手を振っていた。目立てているこの状況を楽しんでいるようでよかった。


 姉さんが通過してしばらく経った後に、俺達が作った試作機が通りかかった。爺さんに売り渡された後に少し手が加わったようで、赤い炎をイメージしたカラーリングが施されていた。爺さんの競艇にかける熱意が表されているのかもしれない。こっちも何か塗装した方がよかったかな。


 渋滞した船団の一番最後の舟は主催者であるボーデン公爵の舟だった。ソゾンさんが作った舟だが、明らかに試作機を意識した構造になっている。使われている素材は違うだろうが、上から見た形は試作機そっくりで、明らかに違うと分かるのは青く彩られたカラーリングと操縦系統だけだった。


 俺達の舟はハンドル操作だが、ソゾンさんの舟にはハンドルが無い。操縦者の正面に2つのレバーがあって、どうやらそれで操船するようだ。

 う~ん、どうなんだろう。激しく揺れる舟の上で、レバー2本でしっかり体を維持できるんだろうか。まあ、あのソゾンさんが作った舟だ。俺が考えている事なんて何かしら対応策を講じているだろう。お手並み拝見と行こうじゃないか。




 参加者のお披露目が終了してお昼休憩の間に、次の予選を見る為に外壁の上まで移動した。長い階段に不満を述べることなくどんどん進んで行く子供達を追いかけながら、高所から眺める街並みに見惚れていた。街の外に何処までも広がっている畑も素晴らしい。男爵家の村もいずれはここまで成長出来るといいな。


 俺達が登った外壁の下にある外堀は、ちょうどスタート地点かつゴール地点になっているところだ。そこを見下ろすと係員や審判などの大会関係者が予選の準備を始めているのを見る事が出来た。その中には爺さんや父さんの姿も確認出来る。開始時間まで後20分。俺より背の低い子供達が見えるよう踏み台を用意して、俺達は予選開始の合図を待った。

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