第19話 俺は禁書の答え合わせをする
「そうじゃ、よく気づいたの」
マリーが借りてきた絵本の内容に気づいた俺は居ても立っても居られず、翌日の開館前から図書館を訪れていた。
昨日は興奮して眠れなかった。朝早くから付き合ってくれているマリーとマルテもありがとう。
出勤してきたメーチさんを捕まえて絵本の事について尋ねると、正解だと言われた。
昨日教えてくれたらよかったのに。
他の人に聞かれないように気をつけながらメーチさんは話を続けてくれた。
「口止めされたからの。手掛かりは既に掴んでいる、と最低限の助言はしたつもりじゃぞ」
確かに、あの絵本は最初からずっとマリーが掴んでいたけど。
でも禁書に関わる事が、子供が読む棚に置いてあってもいいんだろうか。
「大人は絵本から学ぼうとはせんし、儂の助言が無かったら君もその絵本の重大性には気づかなかったじゃろう」
確かに。ちょっとセンスが悪い絵本と思うだけかもしれない。
「因みに禁書の題名だけ伝えておくと、『五行思想について』じゃ。過去に国が推奨した政策や四属性思想と考えが合わんから禁書扱いになったんじゃが、儂は禁止にする内容じゃとは思っておらん」
絵本のタイトルにも五行って書かれてたからそうじゃないかと思ってた。
五行思想は日本のゲームや漫画にもよく登場するよな。木火土金水の五つの要素で構成されるんだ。四属性は火水風土。確かにちょっと違うけど禁止にするような事?
なんで禁書になったんだろう。
「まあ禁書になった理由くらいはいいかの。禁書に指定された頃のこの国は、人族至上主義が主流な政策じゃった。ドワーフ、エルフ、魚人、獣人は排除されたんじゃな。五行思想にはエルフしか使えないとされる草木魔法が一つの要素として取り入られておるから、禁書の対象にされたんじゃ。一度禁書になったら、それを取り払うのは難しい。人族至上主義が傍流になっても禁書のままなのは残念な事じゃ。じゃから儂はこっそりと絵本に紛れ込ませておるんじゃ」
最後見せたメーチさんの笑顔は、悪戯をする子供のようだった。
なるほど、木行はエルフを連想する、か。だったら金行はドワーフかな、そういう印象があるけど。
「儂らドワーフはどちらかというと土魔法が得意じゃの。四属性思想では金属魔法は土魔法の一部と考えられておるから、金属といえばドワーフという考えもあながち間違いでは無い。金属を扱う鍛冶屋にはドワーフが多いしの」
ふむふむ、そういう解釈になるのね。
「メーチさん、何をしているんですか?」
あ、昨日メーチさんを叱っていたペトラさんがやってきた。
「おっとこれ以上は言えんの。まあ禁書になってるのはこの国だけで、他の国では一般的に売られているかもしれんぞ。そういうのを探してみるのも面白いかもの」
「メーチさん、いま何時ですか?」
「来館者の質問に答えるのも大事な仕事じゃよ。はいはい、持ち場に行けばいいんじゃろ。ではまたの」
「失礼します」
ペトラさんに促されてメーチさんは行ってしまった。これ以上仕事の邪魔をする訳にはいかないから、仕方ないね。
これからどうする?
マリーが新しい絵本を借りたいみたい。よし、今日も図書館で過ごそう。マリーが借りた本を、返す前にもう一度見よう。
うんうん、木火土金水の順に、青赤黄白黒か。木と水で惑わされるけど、覚えてしまえばどうって事ないね。
あと重要な情報として各色で描かれた動物も載っている。形から考えて、朱雀、青龍、白虎、玄武だね。四神もゲームや漫画で有名な存在だ。四神を倒しながら塔に登って行くゲームをよく覚えている。
で、黄色で描かれたこの動物が、麒麟。こういうのも想像できた方が魔法の役に立つのかな。
というかこの世界にこれらの動物は居るんだろうか。ちょっと気になるよね。よし、動物図鑑チェックしよう。
写実的に描かれた絵が載っている図鑑も楽しいね。見た目はほとんど地球の動物と同じようだ。ただ、馬っぽいのに角があったり翼があったりする。ペガサスとユニコーンかな。図鑑には無かったけど、これなら龍や麒麟もこの世界にいそうだな。
植物図鑑も面白そうだ。日本でよく食べていた食材が描かれているかもしれない。
マリーは新しい絵本を借りるの?俺にも見せてね。
マルテは?そうだよね、昨日の俺たちの本をよんでくれていたから、料理本をまだ読んでないよね。ごめんね。
最近の姉さんは朝御飯を食べたらすぐに家を飛び出して行く。知り合いの魚人族の所へ連日通っているらしい。夜は疲れて帰ってきてご飯も食べずに寝てしまう。アンナさんが言うには魚人族の所でいっぱい食べているらしい。何をやっているんだか。
明日は朝食後にすぐ姉さんを捕まえて、魔法の色について話してみよう。そのまま魚人族の所について行っても面白いかもね。
せっかく返却したけど、昨日の絵本をもう一度借りて、姉さんに見せてみよう。これで少しは姉さんの助けになるといいけど。




