第60話 俺は遭遇する事件の多さに悩む
武闘大会が終わった翌日、俺とマリー以外の面々は朝早くから馬車に乗って村へ帰って行った。祝勝会で飲み過ぎた父さんがフラフラになりながら馬車に乗り込んでいたけど、大丈夫なんだろうか。俺より年下の子供達の前で醜態をさらすのは止めて欲しいな。
俺は造船所に用事があるから王都に留まった。耐久試験を従業員に任せたリオネラさんが王都の造船所に戻って来ているからね。姉さん用の新しい舟の構想をまだまだ煮詰めないといけない。
マリーは王都に残らなくても良かったんだけど。子供達からも寂しがられていたじゃないか。
「私が居なくなるとゲオルグ様が寂しがるかと思って」
俺は寂しくなんかないぞ。真顔で言うから冗談なのか本気なのかよく解らない。
「冗談ですよ。またゲオルグ様が変な事に首を突っ込まないよう注意しろと男爵様から怒られたので残ったんです。偶には私の言う事も聞いてくださいね」
そう言われたらぐうの音も出ない。そりゃ3回も捕まったら監視の目は厳しくもなるわ。
冗談ですよとマリーが付け加えたが、父さんから密命を受けているのはきっと本当だろう。
マリーが自由に動けなくなっちゃって、マリー先生を待っている子供達には申し訳ない事をした。
「私が行かなくても、父と母が居れば大丈夫ですよ。アリー様も毎日楽しんで子供達に魔法を見せていますからね。それよりも早く新しい舟を作らないと7月の競艇開催までもうすぐですよ」
そうなんだけど、ちょっとリオネラさんとの意見の相違がね。
俺は大きな変更をしなくてもいいと思うんだけど、特別機を作るんだから何か新しいアイデアを考えろと言うんだよね。父さんが折角だから廉価版じゃなくて姉さん用の特別機が良いとか言うから、リオネラさんもその気になっちゃったんだよな。
「どうせグランドブルーアイシャークのような大きさの魔石は簡単には手に入らないんですから、2個も3個も船外機を付けたらいいんですよ」
マリーがさっさと話を進めろと言わんばかりに、適当なアイデアを放り込んでくる。複数個ねぇ。確かにドワーフ言語を多く刻める魔石は手に入らないだろうから、あの性能を維持するなら数を増やすしかないか。でも数が増えたら舟のバランスを取るのが大変そうだ。これから造船所に行って話をする時に、一応提案してみるけど。
造船所でリオネラさんと話を進めていると、男爵邸から使用人がやって来た。どうやら第一王子が護衛と共に男爵邸に現れたらしい。俺に話があるとかで、使用人が呼びに来たそうだ。
なんだろう、武闘大会の件かな。
耐久試験で王子の部下が事故を起こそうとした事への謝礼は父さんが貰ったって言ってたし、アンナさんも事故を防いだ御礼を貰ったと聞いた。そっちの件はもう終わってるはずだからな。
「そう言えば武闘大会の日に、放火犯は捕まったと警備隊員が連絡して来ましたよ。あの逃げ出した公爵に仕えていた使用人だったとか。もう一度ここに放火しようと近づいたところを捕まったそうです。2回も同じところを狙うなんてバカですよね」
へえ、そうなんだ。それなら王子の部下とは関係無かったのかな。
「さあどうでしょうか。放火犯が捕まったと言うだけで、動機とかの詳しい話は教えてくれなかったんですよね。元公爵の使用人にこの造船所を放火する理由は無いように思えますが、どうなんでしょうね」
放火と、舟の事故未遂と、武闘大会の毒殺未遂と、ここ最近の事件には何か関連が有るんだろうか。すべてに絡んでいるのは男爵家だが、俺が行くところに事件が起こるみたいな、どこかの名探偵の様にはなりたくないな。なんてったって俺には華麗に事件を解決する推理力は無いんだから。
造船所からの帰り道、ルトガーさんに冒険者ギルドへ行ってもらって魔石をいくつか購入するようお願いした。マリーが考えた複数個案をリオネラさんが気に入ってしまったため、今日から船外機作りに取り掛かることになっている。
俺はマリーと連絡に来た使用人の3人で家に帰った。
名探偵とか考えたから何か事件に巻き込まれるんじゃないかとドキドキして歩いていたけど、何も無くて良かった。
男爵邸の応接室では第一王子が母さんと雑談しながら俺を待っていた。待たせた事に謝罪して俺もソファーに腰掛けた。
「今日は御礼に来たんだから、待つのは大丈夫だよ。待っている間、リリーさんに愚痴を聞いてもらってたんだ。決勝戦参加者に褒賞を手渡すと言う名誉ある役を与えられて嬉しかったんだけど、それを上手く利用されちゃったみたいだからね」
王子の話では、武闘大会開催に関わる会議中に、いつの間にかその案が議題に上っていて、いつの間にか第一王子がその役を担うと決定していたらしい。議事録を見ても、ギルド側が提案したのか王家側が提案したのか分からないそうだ。
「議事録が改竄されている可能性があるが、僕の力ではそれ以上調べられなくてね。まだ元ギルド職員や実行犯の取り調べも終わっていないし、事件が全て解決した訳じゃないけど、先にゲオルグ君にはしっかりと御礼を言っておこうと思ってね。今回も助けてくれてありがとう」
王子と一緒に護衛の皆さんも頭を下げた。いえ、偶々ですから。
「いや、こう何度も事件に遭遇するなんて偶々では済まされないよ。ゲオルグ君が何かを引き寄せているんじゃないのかい?」
や、やっぱりそう思います?
俺も名探偵の仲間入りをするのかと思うと、ちょっと気が重い。誰か俺を眠らせて代わりに事件を解決してくれないだろうか。




