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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第54話 俺は姉さんの戦いを応援する

 俺が武闘大会会場の観客席にたどり着いた時、丁度姉さんと対戦相手が言霊を発声し終え、総勢60体の土人形が地面から盛り上がって出現している所だった。


「ゲオルグ様、こちらです」


 一緒に観戦する予定の皆を探そうとキョロキョロしていると、マリーが俺を見つけてくれた。


「ありがとうマリー。子供達の面倒を見てもらって悪いね。本当ならマリーが姉さんの対戦相手になる筈だったのに」


 マリーの周りの席では、フリーエン傭兵団の子供達が一生懸命姉さんに声援を送っている。この子達は北の国からの通行制限が解かれた数日後に村へやって来た。今日は俺達やマルテ、傭兵団の数人の大人と一緒に観客席に座っている。


 子供達は最初は遠慮気味に暮らしていたが、マルテの魔法教室とジークさんの剣術稽古が始まると、その手伝いとして参加していた同年代のマリーと仲良くなり、日に日に元気に活動するようになった。俺も同年代なんだけど、領主の息子だという間柄からかイマイチ仲良くなれないのがちょっと寂しい。

 姉さんには懐いているんだけどな。乞われて色々な魔法を見せているからだろうか。


「大丈夫ですよ。両親が村の仕事で動けないからと言って子供達が武闘大会を観られないのは可哀想ですからね。それよりも土偶が完成して次の行動が始まりますよ」


 そうだ、姉さんの試合を見ないと。

 俺が目を離した隙に、敵味方が分かり易いよう、姉さんは完成した土人形の頭部を黒色に作り替えていた。言霊を使って土人形を作ったのは性能差を無くす為だが、見た目が全く同じだと混乱するからね。


 俺が提案した模範試合。父さんがギルドマスター等と話し合った結果、色々変更点があったが概ね内容は俺の案で通った。本戦とは違い勝利しても特に景品等は無いが、初めての試みだという言葉が気に入ったらしい姉さんは、本戦出場を諦めてくれた。今朝から気合は十分だったが、ちょっと意気込み過ぎていた気もする。ルールを忘れずに怪我無く戦って欲しい。


 心配している俺の耳に、姉さんの言霊第二弾が届いた。


「どこまでも、平らに広がる、黄土の地。その手を伸ばし、我が身を隠せ」


「土塀」


 姉さんの対戦相手、第一王子も同じ言霊を唱えた。

 2人の言霊によって会場内に28個の塀が出現した。会場の地面を盛り上げて高さ1メートル、横幅3メートルほどの塀を作った結果、塀の前後は50センチずつ窪んでいる。それが中央に引かれた線を基点として左右対称に配置されている。


 姉さんと王子は円形の試合会場の両端に設えた2メートルある金属製の高台の上に居る。その高台の少し前には大きな旗が地面に刺さっていて、それを奪い合うのが今回の模範試合だ。


 塀が完成すると各々が土人形を操り、塀の内側へと忍ばせる。

 お互いの土人形は塀に阻まれて確認出来ないだろうが、両者の側面に座っている俺達からは土人形の動きが良く見えた。いい席に座れてラッキーだな。


「王子はそれぞれの塀に均等に土人形を配置していますが、アリー様は随分偏ってますね。一気に勝負を決めるつもりでしょうか」


 確かに姉さんの土人形は、姉さんから見て右側の塀にその多くが配属されている。反対側はすっかすかで、土人形が居ない塀も散見される。

 マリーの言う通り一気に勝負を決めるつもりだろうが、果たしてそう上手く行くだろうか。


 最後に、今度は姉さんだけで言霊第三弾を高らかに詠った。


「しんしんと、空から落ちる、無垢な白。土地をその身で、化粧し隠せ」


「深雪」


 春も終わろうとしている暖かな日に、季節外れのドカ雪が会場内に降り注いだ。

 氷結魔法の言霊によりあっという間に会場は雪景色に包まれ、観客席にも多少の雪が降り注いだ。観客達は雪の冷たさに苦情を言いだすことも無く、皆一様に興奮して盛り上がっている。王都周辺や王都から南側東側は暖かい気候で雪はほとんど降らない。人生で初めて雪を見た人達も多かったことだろう。


 少し時間が掛かったがこれで準備が完了した。今年も実況をしているクルトさんの号令を合図に、壮大な雪合戦が開始された。




 観客の大方が予想した通りに、姉さんは開始の合図と共に右翼から猛攻を仕掛けた。


 堅く握られた雪玉が直撃して体の何処かが破壊された土人形はその場で倒れ、ルール上戦闘には参加出来なくなる。いかに効率よく敵を倒して敵陣に侵入するかが攻略のカギとなるが、姉さんは物量でガンガン推し進めている。数日前から傭兵団員を相手に練習していたけど、雪玉を供給する係と投げる係を分けているのは良い案だったな。王子が開始前に土人形を均等に分散させたのも姉さん有利に働いている。


 模範試合の内容を雪合戦にしようと言い出したのは姉さんだ。争奪戦と聞いて初めてヴルツェルに行った時にアンナさんと行った雪合戦を思い出したらしい。土人形が雪玉を作って相手に投げる映像はとても変な感じがするが、琥珀色の土人形と雪の白さがとても印象的な光景だ。


 王子は相手の勢いに押されて徐々に戦線を後退させているが、姉さんの土人形を自陣深くへと引きずり込んでいるとも言える。後退しながらも隠れている土人形の位置を巧みに動かして伏兵を用意している。姉さんの土人形を右端からやや中央へと上手く誘導して進軍させ、伏兵を忍ばせている所まで来たら一気に反撃するつもりなのが上から見ているとよく解る。

 一緒に見ている子供達もそれを理解しているようで、姉さんに向かって危ないと声をかけているが、風魔法を使って声を送らないと届かない距離だし、何より助言はルール違反だぞ。実況解説も最小限にしかしていないしな。


 さあそろそろ王子の反撃が始まるぞ、と思ったその時、姉さんが思わぬ行動に出た。


 2体の土人形が1体の土人形を抱えて、旗目掛けて放り投げたんだ。

 合計4体の土人形が塀を飛び越えて旗に迫ろうとしたが、王子は落ち着いてそれに対処し、空中でまともに避けられない土人形の全体撃墜を成功させる。


 しかし、空中に投げられた雪玉の動きによって、塀の向こうで多数の土人形が待ち構えている事を察した姉さんは退却を指示。殿軍を務めた3体を犠牲に、伏兵による全滅を免れて戦線を後退させた。

 が、多くの観客は姉さんの行動を目撃していた。全力で逃げると見せかけて、王子の死角となる塀の陰に2体の土人形を伏していることを。倒された土人形に紛れ込んでいたため、まったく動かなければ死角じゃなくても見つけられなかったかもしれない。


 土人形を投げ込むと言う姉さんの奇策を防いだ王子は勢いに乗り、3体の土人形を旗の近くに残して敵陣への進攻を開始した。

 姉さんは必至の抵抗を見せる。先程の王子のように自陣深くへ引き込もうとする動きは見せず、両者陣地の境界線辺りで激しくやり合った。最初の猛攻で王子も土人形を多数失っていたせいか、攻め手に掛けて戦線は動かなくなってしまった。王子より姉さんの方が土人形の操作が上手い事も王子が攻めきれない理由だろう。


 このままでは埒が明かないと思った王子が、旗の近くで待機していた3体の内2体を前線に合流させたその時、姉さんの伏兵2体が駆け出した。




 やったーと燥ぐ姉さんとは逆に、王子はしまったと天を仰いだ。

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