第53話 俺は折衷案を説明する
「姉さん大丈夫?何をやって良くて何がダメなのか、ちゃんと解ってる?」
「うんうん、大丈夫大丈夫」
あ、ダメだ。また目が本気モードだ。
小奇麗だが動きやすい服を着て準備体操をしている姉さんは、真剣な眼差しで控室の扉の先を睨みつけている。魔導師1対1じゃなくて魔導師複数人による団体戦を提案しておけばよかった。このまま試合会場に向かってしまうと誰も止める人が居なくなってしまう。
「アレクサンドラ様、こ、こちらへどうぞ」
姉さんを会場に誘導するためにギルド職員が入室して来た。扉を開けた瞬間に獰猛な姉さんの目を見てしまったらしく、怯えさせてしまったのは申し訳なく思う。
「じゃあ行ってくる。私の勇姿をしっかり見ててね」
パンっと一度大きく手を叩き、気合を入れた姉さんが職員について会場へ向かった。
いくら心配しても、もう試合開始を止める事は出来ない。後は姉さんが怪我をしないよう、審判が上手く捌いてくれることを願うしかない。
こんなに不安になるのなら最初から提案するべきじゃなかった。姉さんと父さんの口論を止めるために無理矢理案を捻り出した過去の俺に向かって、もっと良い案を考え付けよなと悪態をつく。
そんな俺の不安を余所に、武闘大会の会場では模範試合参加者の登場に湧き上がっていた。
「魔導師への直接攻撃禁止で魔法合戦をする?」
武闘大会に出たい姉さんと危ない事をさせたくない父さんの口論を抑えるために、その日の俺は何とか折衷案を考え出した。
が、その案を聞いた2人はよく意味が解らないようで首を捻っている。とりあえず2人の口論を止める事が出来たから、目的は果たしたと言っていいよね?
ふぅっと一度大きく息を吐いた後、静かに耳を傾けている皆に向かって俺の考えを説明した。
1つ、魔導師が自分の代わりとなる戦士を魔法で作り出し、対戦する。
2つ、生み出された戦士が1対1で戦う、もしくは複数の戦士で集団戦を行う。
3つ、魔導師は対戦中に破損した戦士を修復してはならない。
4つ、対戦相手の魔導師を傷つけてはならない。故意の場合は罰則を設ける。
こんな感じでどうだろう。
この条件なら父さんの心配も緩和できるし、姉さんも武闘大会に参加できるし、何よりギルドから提案された模範試合をこれでやればいいし。
「つまりマリーが金属魔法で作ったメタルジークのような物で、代理試合をするということだな」
俺の話をじっくり噛み締めた父さんが口を開く。
ああ、そうそう。それが分かり易いかもね。
「だが、対戦相手はどうする。アリー以外に短期間でこの魔法を模倣出来る人間は居ないと思うが」
父さんの言葉を聞いたマリーがメタルジークを生み出し、それを見た姉さんも金属魔法で同じような人形を作りだした。姉さんの人形は何となく父さんに似てるかな。
「土魔法の言霊で人形を作るようにしたら大概の人族かドワーフ族はすぐに出来るようになると思うよ。父さんも土魔法でなら出来るでしょ」
「ああ、土魔法でなら作れるが、あれはそれほど固くないからな。1対1の対戦で修復無しなら試合はすぐに終わってしまうぞ」
父さんが指をぱちんと鳴らすと、何もない空間に土の塊が出現し、手足と頭がずるずると生えて大人サイズの土人形が出来上がった。
父さんはその土人形を操り、メタルジークに殴りかかった。マリーも反応してメタルジークを操り、お互いの拳をぶつけ合う。
ぐしゃっという音を立てて土人形の右手が吹き飛び、そのままメタルジークは土人形の体を殴り壊した。
誰が片づけるんですかとちょっと声色を変えたマルテの言葉に、後で片づけるからと平謝りをして父さんは話を続けた。
「土人形同士ならもう少し長く動けるとは思うが、どちらにしてもそう時間が掛からずに勝負は終わる。面白い試みだとは思うが、模範試合としては不適切じゃないか?」
確かに去年よりは寂しい試合になっちゃうかもしれないな。去年は本戦が全く目立たなくなるくらい模範試合が派手だったから、今年も皆期待しちゃうよな。
「百対百でバーンと激突したら派手になって面白くなるよ」
「いやあの会場に総勢2百体の人形を入れるのは無理だろう。多くても50、いや30ずつ位かな」
姉さんの無理難題に父さんが現実的な意見を返す。
「うん。集団戦にして、武器や防具を持たせて、殲滅戦じゃなくて旗か何かを奪い合う争奪戦にするのが良いかもね」
俺も追加で案を出す。ボールを奪い合ってゴールに運ぶラグビーのようにするか、陣地を決めて旗を取り合う争奪戦にするか。ああ、攻撃する側と防衛側の役割を分けて行う防衛線も面白そうだな。
「良く色々と思いつくな。わかった、その案で冒険者ギルドと相談して来る。その案が通ったら、アリーは予選出場を取りやめるように」
は~い、と言いながら姉さんはマリーと2人で言霊を相談し始め、父さんは会議室の汚れを拭き取り始めた。
気合が漏れすぎている姉さんを見送った後、俺は急いで控室から観戦席に向かった。走りながら会場から漏れてくる声援を耳にする。きっともう試合の準備が始まっている。
満員の声援にかき消されて対戦者の2人は言霊は聞こえなかったが、何度も練習に立ち会って、その内容は覚えている。
「土塊が、琥珀色した、骨と成る。血肉を付けて、彼の敵を討て」
「土偶」
言霊を口ずさみながら俺が漸く会場を眺められる位置まで到達した時は、会場中の地面から総勢60体の土人形が出現している所だった。




