第52話 俺は折衷案を考える
俺とリオネラさんが耐久試験の傍ら次舟の構想について話し合っている間、世間は別の話題で盛り上がっていた。
5月30日に冒険者ギルドの競技場で開催されると発表された、武闘大会についてだ。
開催日時や参加資格、予選内容などと一緒に、他国の王室関係者が観覧に来る事も発表された。国外にもそれを通達し、広く参加者や観戦者を募っているようだ。
それに伴い北の国との通行禁止が、大会前の5月20日から一部緩和されることとなった。この国から出国は大会が終わるまで禁止のままだが、入国は可能となる。
我が村でもその話は広まっていて、特にフリーエン傭兵団の面々が漸く家族と再会出来ると喜んでいた。
だが現状は、北の国との手紙のやり取りですら制限されている。傭兵団の家族と連絡を取る手段は他国をぐるっと迂回して北の国に入国するか、監視の目が届かない山奥から密出国するしかない。
「あっちには家族だけじゃなく気の利く部下も残して来ているから、国境が一部解放されると言う噂は向こうにも伝わるだろう。それを聞いたら国境の街まで人を寄越すはずだ。そこで情報のやり取りが出来れば家族をこの村に呼ぶことも出来るだろう。それが無理でも今月末にはこちらから出国も出来るんだ。焦る必要は無い」
と団長が行っていたが、その20日が近付くにつれて傭兵団の皆は徐々に挙動不審になり、村の仕事が手に付かなくなってしまった。家族に早く会いたいと、その気持ちを抑えきれなくなっているみたいだ。
見るに見かねた父さんが、数人だけ村を離れても良いと許可を出した。このまま黙って見ていても良い事は1つも無いからね。
その話を聞いた団長が真っ先に村を出て行こうとして副団長達に止められていた。焦る必要は無いんじゃ無かったのか?
「団長は土魔法を使えるようにもっと努力してください。ウラさんが来るまでに土魔法を覚えるんだって意気込んでいたのは誰ですか?」
そう副団長に説得されて、団長は渋々部下に命令していた。俺が居ない間に団長は金属魔法を言霊無しでも有る程度自由に使えるようになっていて、今は絶賛土魔法に挑戦中だ。クロエさんよりも楽に金属魔法を習得した印象だが、2人には何か違いが有るのか。それは、団長は火魔法を使って魔力を操るイメージが出来ていたから、と俺は考察している。
因みにウラさんは団長の奥さんだそうだ。
国境開放まで後2日に迫った日、3人の傭兵団員が練習を重ねた飛行魔法で村を出発した。マルテが教える飛行魔法教室も順調に卒業生を出している。姉さんみたいに高速で長時間飛行するのは難しいだろうが、今や傭兵団の半数以上は苦も無く空を飛んでいる。傭兵団の家族が合流したら、マルテには彼らの子供達に魔法を教える仕事が待っている。大変だろうが頑張ってほしい。
「さて、今年も嬉しい事に、男爵家から模範試合の参加者を出さないか、とギルドマスターから連絡が来た。去年はジークとマルテ、リリーとアンナが参加した訳だが、今年はどうしようかと皆に相談したい」
夕食時に俺達と傭兵団員を集めた父さんがそう切り出した。確かに去年は男爵家のメンバーが大活躍だった。まあ去年はこちら側から提案した話だったんだけど、今年は向こうからお誘いが来たわけだ。男爵家も立派になったもんだ。
「誰か、我こそはと名乗り出る強者は居ないか?」
皆が集まった男爵邸の会議室内には父さんの声だけが響いていた。
「え、誰も居ないのか。ジークはどうだ?」
何時まで経っても立候補者が出ない現状を憂い、父さんが1人1人指名して回った。
「俺は今年は予選から勝ち抜いて本戦に出たい」
「私も旦那が出ないのなら止めておきます」
「俺はまだ土魔法の練習中だから」
「団長を差し置いて出場する訳にはいきません」
「肩の調子が」「膝が」「腰が」
ジークさんは本戦で活躍することを希望し、団員達は模範試合なんて荷が重いと言って首を縦に振らない。
病気を理由に回避しようとした団員達には、薬を処方しますから患部を見せてくださいとエステルさんが駆け寄っている。それは仮病と言う薬では治らない病気ですよ。
しかし何時もなら面白そうと参加したがる姉さんも声を上げないのはどういう事だろう。
「私はもう予選参加登録を済ませているからね。大人と一緒に戦う事になるんだけど、結構学生も参加しているんだって受付のお姉さんが言ってた」
ああなるほど。それで模範試合には参加できないと。
競艇の時もそうだったけど、こういう大会で大人と子供を分けないのはこの国の伝統なんだろうか。
「な、なんだって。そんな危険な事を許可出来るわけないだろ。アンナはなぜ止めなかったんだ」
姉さんの行動に驚き声を荒げた父さんが、普段から監視役を買って出ているアンナさんに咬みついた。舟は良いけど武闘大会は駄目なんだな。
「私が一緒に居る間には冒険者ギルドへ行っていません。登録したと言うのも今知りました。学校を抜け出されては私は対処出来ません。文句があるなら学校に直接苦情を言ってください」
アンナさんのカウンターパンチを見事に喰らった父さんは唸ることしか出来ない負け犬になってしまった。
「ちゃんとお昼休み中に出たんだから、授業に参加しなかったわけじゃないよ」
とか言いつつ授業は睡眠時間なんでしょ。
明日にでも登録を解除して来なさいと言う父さんに、ヤダと短く姉さんが返す。
危ないと心配する父さんの気持ちはわかるけど、そんなやり方で姉さんが引く訳がない。父親なのに姉さんの性格を分かってないのかな。
2人の口論に辟易とした周囲の面々が、俺にあの2人をどうにかしろと言ってくる。え、なんで俺が。
仕方ないなと思いつつ、どうしたら2人が納得する形に出来るか考える事にした。




