第51話 俺は競艇の詳細を知る
爺さんからの使いの話によると、7月20日と21日、2日間の競艇開催が決定した。
20日は参加者のお披露目と予選会。ボーデン内の水路をぐるっと回って観客にアピールした後、ボーデン外周の水堀で予選会が行われる。競艇の参加人数に寄るが、数隻で六角形の水堀を1周し、順位を競う。1位の者は当然翌日の本戦出場が確定するが、1位じゃなくても周回タイムが優秀な舟も本戦に出場出来るらしい。
本戦も外堀を使って行い、今の所は予選と違って2周する計画だとのこと。
会議で決定した大きさ内の舟を持っていたら誰でも参加出来るという話だが、子供と大人で参加部門は分けないそうだが、危なくないんだろうか。話を聞いた姉さんは絶対に参加すると言っているから心配だ。因みにリオネラさんが作った舟は規格内に収まった。ダニエラさんの舟は長すぎたけど。
参加する子供達の事が心配だから姉さんにヘルメットと関節パッドをもう一式作ってもらい、使者さんに持って帰ってもらう事にした。
これらの品はエステルさんが山で見つけて来た腐り辛く柔らかい草を詰めた特注品だ。何度も山に入ってもらってエステルさんには申し訳ないが、子供達が安全に操船を楽しんでもらうためには必要になる物だ。必要ならもう何セットか作ってもらわないと。
しかし父さんが割り込んできて、安く売りますよと商売心を出してきたのにはちょっと反発した。安全の為の物なんだから無料貸し出しでいいのに。
「そりゃ舟に乗る子供には貸し出しで良いだろうが、競艇が終わった後こちらに戻って来ても管理に困る。これから競艇を毎年開催する事になる親父かボーデン公爵が持っているべきだろう。彼らには無料で提供するより売りつけた方が良い。一式渡しただけで十分な貸しになるからな。貸し借りを気にする人達だから安くしなくても良いくらいだ」
そういうものなの?
お金が掛かるなら採用しないんじゃないかな。
「大丈夫。あれを見て必要無い物だと思う人達なら領地経営なんて無理さ。それに金額に不満が有るなら自分達で作るよ。俺としては買ってもらった方がエステルにお金を渡せられるからいいんだけどな」
わかった、父さんを信じよう。草よりも綿や羽毛で作った方がクッションになるかも知れないし、エステルさんに山を駆けずり回ってもらうのも悪いし。
爺さん達が更に良い物を作ってくれる事を願おう。
さて、競艇のコースが決まった訳だが、外堀を2周する単純なレースだ。使者さんが持って来てくれた地図を見た所、直線がかなり長い。そこでの最高速度が勝負の分け目になるだろう。
外堀は正六角形に近い形をしているから曲がる角度は約72度。そこまで旋回性能を気にしなくても良い。
外堀を2周するとなると割と長い走行時間になるが、大きな魔石を使っているから途中で補充しなくても3周分は持つはずだ。
うん、悪くないんじゃないか。この舟と船外機なら十分優勝を狙えるぞ。
只1つ問題があるんだけど。
「耐久試験が終わったらあの舟と魔導具はヴルツェルに運ばれることになっちゃいましたね。アリーちゃんが悲しむでしょうね」
リオネラさんが俺の顔を伺って来るが、それが問題なんだ。なにせ姉さんはこの舟で競艇に参加する気満々だから。今は学校に行っていないけど、帰って来たら毎日必ず乗り回しているからな。これで操船者に指名されなかったらどれだけ悲しむことか。
「私としては舟が売れれば何でもいいんですけど。ヴルツェルのフリーグ家がこの舟をそのまま買い取って、近隣の湖で訓練した後に競艇へ出ると言ってましたよね」
はい、使者さんはそう言ってましたね。爺さんは姉さんが乗りたがっていることを知らないからな。知ってたら乗せるだろうか。爺さんも勝敗には随分と拘っていたから、それはどうかわからないな。
「私としては、舟が売れれば、何でもいいんですけど」
それはさっき聞きましたよ。何が言いたいんですか?
「もう、相変わらず鈍い人ですね。もう1隻作りたいなって言ってるんですよ。操船者に合わせた特別機を作るか、安価に販売することを目指す先行量産型を作るか迷っているんですけどね」
え、もう1隻?
「なんですかその眼は。まさかあの1隻分しか材料が無いとか思ってました?」
はい。何せ高価な材料な物ですから。
「修理用に材料を残さず使い切る馬鹿は居ませんよ。ただ問題なのは買ってくれる方が居ないんですよね。只でさえあの舟を勝手に作って姉さんに怒られたのに、また新しい舟を作ろうと動き始めたらどんな折檻を受けるか分かりません。ああ、誰か新しく作る舟を購入してくれる人は居ませんかねぇ」
その話を聞いた俺はすぐに父さんに直談判をした。姉さんの為に、新しい舟を買ってください。




