第50話 俺は魔導具を修理する
新造舟の試運転を行い、王子の護衛がトラブルを起こし、父さんに呆れたその日、村の男爵邸で数日ぶりにちゃんとした睡眠をとった。眠気もスッキリ、気持ちの良い目覚めだ。
前日朝早すぎて走れなかった分、今朝はランニングを行い、剣術稽古は明日にずらすことにした。ランニングから帰って来ると、丁度これから王子達が村を出て王都に戻ると言うので見送りに向かった。
「皆さんには迷惑を掛けてしまったが、お蔭で良い情報が手に入った。これから彼の父親に詳しい話を聞きに行くところなんだ。ソゾン老の温室作りを見学するのも楽しみにしてたんだが仕方ない。ここで舟を操縦して随分と楽しませてもらったから感謝しているよ。美味しい料理を作ってくれたマルテさんにもありがとうと伝えてくれ」
王子はトラブルを起こした彼を連れ、船着場の親方が操る川船に乗って王都へと帰って行った。少ない時間だったが楽しんでくれたのなら良かったのかな。姉さんが楽しそうに燥ぐ姿も沢山目に焼き付けて帰って行ったことだろう。
王子を見送った後は、王子が半分ほど残した護衛と共に、ソゾンさん夫婦が馬車で王子の領地へ向かう。温室を何棟建ててどんな植物を植えるのかは俺も気になっている。
「途中の街で冒険者ギルドに寄って、儂も魔石を手に入れる為の依頼を出すことにしたぞ。舟の操作法はゲオルグの魔導具とは違う物を考えておる。儂は舟造りも得意じゃからな、ゲオルグ達に負けない舟を作ってみせるぞ」
むふーっと鼻息荒く、ソゾンさんが温室を作った後の未来を語る。だけど、操船が楽しかったと語る王子と同じようなキラキラした目で話されるとちょっと引いてしまうな。その歳になってもワクワク出来る事があるって言うのは素晴らしい事だと思うけどね。
王子達が居なくなっても、新造舟は走り続けた。
リオネラさんが言うには、これからは耐久試験を行うんだそうだ。昨日1日で百回以上は走ったと思うがまだまだ耐久力を評価するには足りないらしい。せめて1万回以上は走らせたいと聞いて、絶対に舟より魔導具の方が先に壊れるなと思った。こっちが普通の材木だからという理由ともう1つ理由がある。
操船する人達の中に、ハンドルとレバーの操作がきつい人達が居るんだ。特にフリーエン傭兵団の連中の操作が荒い。
慌てて急ハンドルを切るとかそういう感じじゃなくて、操船が楽しくて、つい興奮して操縦が荒くなるタイプの人達が多いんだ。姉さんもそんな感じだ。
昨日はそれを見る度に壊れないかと心配になっていた。幸いその日は大丈夫だったけどこれから五百回、千回と走らせたらどうだろう。
数日後には壊れると確信した俺はアンナさんに大沼毒蛙の魔石と檜の材木を買ってきてもらうよう頼み、檜より丈夫な植物がすぐに手に入らないかと村の山林を管理しているエステルさんに相談した。
「う~ん。最近育ってきた竹はどうでしょう。水にも強く腐りにくいですよ」
そうか、竹か。
でも竹って割れやすいイメージがあるんだけど、その点は大丈夫なんだろうか。
「そうですね、竹は割れます。しっかり乾燥させても割れる時は割れるとシビルも言っていました。私が魔力を注ぎながら育てると強度が有ってしなやかな割れない竹を作る事も可能ですが、もう少しで薬草を収穫出来る忙しい時期なので、すぐには無理ですね」
出来る事は出来るが、時間が無いと。温室4棟分の薬草の手入れで手いっぱいだとか。調子に乗ってやり過ぎた事を改めて謝罪した。
しかし新造舟に使われている榧を育てたエルフもそうだが、草木魔法って凄いな。時間をかけて育てれば植物の性質を上手く強化できるんだな。
舟には間に合わないかもしれないが後に作る竹細工には効果があるだろうと思い、俺はエステルさんに良質な竹を育ててもらうようお願いした。快く引き受けて頂きありがとうございます。
耐久試験で1番最初にギブアップしたのは、案の定出力調整用のレバーだった。
傭兵団の1人が舟を出発させた直後に、バキッと大きな音を立てて根元が折れた。
折れたまま舟は発進したが、幸い大した速度が出ていなかったので安全に対処が出来た。
ギブアップは最初だったが壊れたのは千回以上走った後の事だったから、よく頑張ったと褒めてあげたい。新造船が3分で経路を1周するとして1時間で20回、日の出から日の入りまで走り続けたら10時間以上は走れるから200回を超える。5日間もこの拷問をよく耐えたよ。
榧を売ろうかと言ってくれるリオネラさんに断りを入れ、今度は細く切った竹を数本束ねて中に仕込み、檜で覆ってレバーを作った。エステルさんが手を加える前の普通の竹だが、檜一本から削り出して作った場合とどっちが耐久性があるかな?
これがダメだったら金属のレバーに交換しよう。重さを考えたらなるべく金属に頼りたくないから、金属製品の使用は最後の手段だ。
それから数日後にハンドルや船外機の故障も経験したところで、爺さんからの使いが村にやって来た。
その使者によると、ボーデン公爵や王家、他の貴族達と話し合った結果、7月20日と21日に、ボーデンの水路を使って競艇を開催する事になったと。
詳細が決まった事を知って嬉しく思う反面、俺は悔しく思っていた。
此方が用意した魔導具はどれも1度は故障したが、リオネラさんが作った舟は止まらずに動き続けたからだ。子供が運転する時用に毎回取り外ししている船底の板ですら壊れていない。
ここまで壊れないと高価な舟を作った意味も十二分にある。
もう少しで二千回、まだまだ走り続けるよというリオネラさんの言葉を聞いた俺の魔導具達はそれから何度も悲鳴を上げて、俺に助けを求めて来た。




