第49話 俺は父親の姿に呆れる
姉さんが新造舟を乗り回した後は順番に皆が操船した。
操船者数を増やしてデータを集めるために1人2周までとし、日が落ちて暫く経っても魔法で作ったライトの元、舟は走り続けていた。
魚人族は問題無く舟を乗り熟していた。
乗り終わった人達に話を聞くと、レバー操作の方は特に問題が無かったが、ハンドルの方には色々な意見が有った。もっと重い方が良いとか軽い方が良いとか、手を離すと自動で元の位置に戻るようにしてはとか、滑り止めが有った方がいいとか。今日は操船者に合わせてメンテナンスをしている暇は無いから対応出来ないが、皆の意見は全てメモに取って明日への糧とさせてもらった。
マリーやエステルさんも乗船した。
重い上着は着込まずに船底にブレーキ板を取り付けて。流石に2人は姉さんのように最初からフルスロットルで突っ込むことはせずに、魚人族から上手な曲がり方を学び実践していた。
経路を1周した後、草木魔法が得意な2人は自分でハンドルやレバーを微調整し、2周目に挑んだ。戻って来た後には調整した部分を元に戻したようだが、ハンドルの重さ調節と手の小ささに合わせてハンドルやレバーを細くする調整を行ったようだ。姉さんは気にならなかったようだが、太いハンドルは握り辛かったらしい。子供用と大人用ではそういう所も違って来るんだなと改めて気付かされた。
護衛の人達は必死に止めていたが第一王子も操船した。
乗り終わった後に、馬よりも速い乗り物に乗ったのは初めてだ、速く動く乗り物に乗るのは自分で空を飛ぶのとも違う爽快感が有ると熱弁していた。楽しんでいただけたようで何より。
熱く乗り心地を語る王子を見て、護衛達も行列に並び操船を体感した。1人調子に乗った若者が姉さんと同じく初乗りで全速発進したが、その速さに戸惑ったのか旋回することが出来ず、そのまま池の縁に乗り上げそうになった所で、アンナさんが浮遊魔法を使って舟を空へと逃がした。
自分で魔法を使う事も忘れていたなんてよっぽど混乱していたんだなと思っていたら、その若者は他の護衛達にどこかへ連れて行かれた。その行動に少し違和感を覚えた所で、王子がリオネラさんに謝罪した。
「彼の父親は昔から従ってくれていた人物で僕も信頼していたのですが、最近良くない噂が付き纏っていまして。確証が無いから彼を遠ざける事もしなかったのです。しかし今回の彼の行動で確信しました。あれは明らかに舟を壊そうとした動きでした。恐らく父親から何か言われていたんでしょう。大事な舟をこちらの都合で破壊してしまう所でした。申し訳ありません」
残った数人の護衛と共に頭を下げる王子に、リオネラさんが笑って返答した。
「池が決壊しなくて良かったです。彼に罰を与えるならしっかり調べた後にやってくださいね」
リオネラさんは舟が壊されそうになったことには全く言及せず、むしろあの程度で舟が壊れるわけがないと自信満々で笑っていた。
船体は普通の材木を使っているはずだから衝突すると破損する可能性もあると思うんだけど。その寛大な措置に驚いている俺に、リオネラさんがその考えを教えてくれた。
「もし本気で舟を壊そうと思ったら、火魔法で火をつけるか金属魔法で穴を開けるか、もっと攻撃的で効果的なやり方をするでしょう。今朝の造船所でのボヤ騒ぎみたいにね。まあそれでもあの舟は壊れませんけどね。エルフ族が愛を込めて育てた榧の性能を舐めちゃダメですよ。事故に見せかけて舟を傷つけるなんて中途半端な行動に出たのは、彼もそれをやることに納得していなかったんじゃないんですか?」
「なるほど。リオネラさんの言う通り、しっかり背後関係を調べるようにします。今回迷惑を掛けたお詫びと事故を回避してくれたアンナさんへのお礼として、いずれ何かを贈らせてもらいます。ボヤ騒ぎの件はこちらでも関連性が無いか調査します。寛大な対応、ありがとうございます」
王子は今朝のボヤ騒ぎと舟の事故を起こそうとした彼が関係あると考えているんだな。ボヤ騒ぎが起きた造船所、事故を起こす欠陥舟を作った造船所。最悪舟が壊れなくても、そういう悪評を流そうとした。そういうことが有るんだろうか。
「確かに、舟を壊す事が目的ではなく、舟が事故を起こしたという悪評を流そうとしたのかもしれないね。その線も考慮しておこう。貴重な意見をありがとう」
俺達との話を終えた王子は、父さんに空き家を借りて若者の取り調べを行っている。
父さんは折角宿屋内に王族用の特別な部屋を用意したのにとぼやいていたが、その後少し色を付けて王子が支払った空き家の賃料で儲けられたとニヤついていた。
更にその夜、宿屋の食堂で酒や食べ物が飛ぶように売れたと喜ぶ父さんを見て、こっちでは事件だ陰謀だとざわついているのに平和だなと思ってしまった。




