第47話 俺は魔導具の手直しをする
新造舟が水路を走り抜け、池をぐるっと一周して戻って来る。
最初は低速で周回し、最後に最大船速での走行を試す。全速力で池に突っ込んでいった舟は、少し水面を滑りながらも池の縁に激突する事無く帰って来た。
舟を降りた魚人族のお兄さんの感想に、そこに居る全員が耳を傾けた。
「やはりハンドルとレバーが軽すぎますね。速度を上げて舟が揺れるようになると、その振動でハンドルが動くのを抑えるのに気を取られます。多少の振動ではハンドルが動かないようにするか、ハンドルを両手で持てるようレバーの手を離してもその場で維持するようにした方が良いと思います」
なるほど。それはダメだな。
マリー、ハンドルを動き辛くすることは出来る?
俺はレバーの方をどうするか考えるから。
「それとレバーの方なんですが、簡単に逆噴射出来ないようにした方が良いですね。旋回前は水を逆噴射して減速しますが、旋回中に逆噴射してしまうとハンドル操作とは違う動きを舟がしてしまいますので」
確かにそれは危ない。操作する手順は少ない方が良いかと思って前進後退を簡単に出来るようにしたんだ。でも、それは間違っていたみたいだな。
「レバーを持つ手元にボタンを作って、それを押すとレバーが動くようにしよう。それと逆噴射する場合はレバーの最初の位置から外側にレバーを倒して、そこから手前に引き倒すようにする。そうすることで操作を分ける事が出来るよね」
パッと思い付いたことを話ながら、操縦者のお兄さんにそれくらいの操作は走りながら出来るかと確認する。
ボタンを押しながらレバーを前に倒すと前進、ボタンを手放すとそこで排出する水流量は一定になる。
ボタンを押しながらレバーを元の位置に戻すと水流が停止する。
ボタンを押しながら停止位置から外側にレバーを傾け、更に後方へ引き戻すと逆噴射をして舟が減速または後退する。レバーの根元に前進停止後退の文字と矢印も書いておこう。
ボタン操作だけでも良い気がするが、停止位置を明確にするために、前進と後退の間にワンクッション置くことにした。
ボタン操作をお兄さんが理解してくれたので、レバーの方もマリーに作り変えてもらった。ボタンは親指で操作出来る位置にお願い。無茶なお願いをしたかなと思ったけど割と簡単そうにマリーは草木魔法を行使していた。
早く早くと急かす姉さんを何とか押しとどめ、作り替えた魔導具を搭載した舟が再始動した。
「いい感じですね。最大船速でもハンドルがぶれずに走れました。ハンドルを動かす時に多少力が必要になりましたが、僕はあれぐらいがちょうどいいですね。レバー操作もあれくらいなら、咄嗟の状況でも戸惑わずに減速出来るでしょう」
操船を終えたお兄さんが良い感想を伝えてくれた。よしよし、急遽の改造だったが上手く行って良かった。
それにしても新造舟の性能は凄いな。大きな魔石を使って最大限の水流を生む船外機の力にビクともせず水路を駆け抜けている。舟の心配は全くせずに、俺は魔導具の事に集中できる。試作機は最高の1品を用意すべきだと言うリオネラさんの言葉を、俺はもう一度噛みしめていた。
もう一人別の魚人族が操船して操作性と安全性を確かめた所で、待ちに待った姉さんの出番がやって来た。
「いい、最初はゆっくり走らせてね。危ない事はしないでね」
「うんうん、わかったわかった」
俺の忠告に口ではわかったと言っているが、姉さんの目はわかっていない。絶対に何かをやらかす気だ。姉さんの事を知っている人達も皆、何が起きてもいいよう構えている。ヘルメットとパットは付けさせたけど、せめて怪我をしないようにお願いします。
「それでは、ゲオルグ号、全速前進!」
姉さんが大声と共にレバーを目いっぱい前方に動かし、最初から最大出力で発進した。
この際その恥ずかしい舟名は置いといて、危ない事は止めてと言ったのにと俺は憤慨する。
「先程より速度が出ていませんか?」
上空に浮かんで水路の先を見ていたマリーから声が掛かる。周りの皆も同意見の様だ。姉さんが何か魔法を使って補助しているんだろうか。マリーに頼んで俺も空に持ち上げてもらった。
姉さんが操縦する船はぐんぐんと加速し、減速することなく池に向かって飛び込んだ。池に入った舟は向きを変えて旋回しようとしたが、曲がる事が出来ずに真っ直ぐ進んで池の縁にぶつかることは無く空に向かって飛び上がった。そのまま空中で大きく旋回して池に着水。再び速度を上げてこちらに戻って来た。
「おもしろかった~。もう一回行って来るね」
前走者に倣って水路内でくるっと器用に旋回した姉さんの再出発を、その場にいた全員で阻止した。
自らの魔法で衝突を回避したのは流石だが、どうして池で曲がらずに飛び上がったのかを確認したい。曲がろうとしていたのは見えていたから、わざとじゃないのは解っているけど。
「ハンドルを回して曲がろうとしたんだよ。でも舟は横を向いたけど曲がらなかったから飛び上がったの。もう一回試してくるね」
そう言って再び最大船速で発進した。きちんと減速しなかったのが曲がれない理由じゃないのかと注意する暇は無かった。
「どうやら旋回しようとする時に羽が着水していない見たいですね。おそらく体重が軽すぎて体重移動をしても舟が傾かず、羽が水を掴まないんでしょう。そのため船体が水面を滑ってしまうんです」
あれから何度か姉さんを走らせ、何度やっても曲がりきれなかった理由をリオネラさんがそう断定した。体重が軽いため魚人族より加速出来てしまう事も、曲がりきれない理由の1つだそうだ。曲がる前にレバー操作で減速しろとは言わないんだな。
ちょっと船体を弄りますね、と言うリオネラさんを姉さんが引き留めた。
「重くなればいいんでしょ。父様、その上着貸して」
訝しむ父さんから上着を強奪した姉さんは、それに魔法を掛けて、これでどうだと胸を張っている。減速する気はないみたいだから、俺は姉さんの考えに任せる事にした。
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