第44話 俺は魔石の加工を頑張る
はあ、頑張った。なんとか間に合ったぞ。
5月5日の食事会のあと家に帰ってから魔石加工作業を開始し、満腹で少し苦しくなっているお腹をさすりながら深夜まで作業を続けた。マリーにはナイフに魔力を込める為にずっと付き合ってもらった。
一緒に夜更かしさせてしまったけど、俺が眠くなってギブアップした時もマリーは夢中で本を読んでいた。図書館が閉まるギリギリで借りて来た本らしく、魔物の生態が詳しく書かれていて面白かったですと元気に答えていた。俺はもう無理だけどマリーはまだまだ余裕がありそうだ。
そして本日5月6日、朝の日課を終えた後はほぼ止めることなく手を動かし続け、日付が変わって暫くしたところでなんとか魔石が完成した。お昼過ぎに心折れそうになった時にはルトガーさんに頼んで延期をお願いして来て貰おうかと思ったけど、無様な姿をさらすことなく完成させられてよかった。
俺がコツコツと作業を続けている間、マリーは部屋の片隅で読書を続けていた。俺が手を止めた時には、その日だけで4冊目に突入していたらしい。俺が作業をしている間に図書館から割と分厚い本を5冊も借りて来ていたみたいで、全部読むつもりだったのにと悔しがっていた。速読が得意だったなんて知らなかった。それとも俺の加工がもっと時間がかかるとふんでいたんだろうか。
「ではすぐにこの魔石を使って船外機を作りますか?」
読書の手を止めたマリーがまだまだ動く元気が有りますよと伝えてくる。
「じゃあお願い。先月に作った船外機と同じ形態でいいけど、魔石が大きい分ちょっと大型に作ってね。俺はひと眠りした後、操縦用の魔石と出力調整用の魔石に手を付けるから。アンナさんに後で起こしに来てと伝えておいて」
マリーにグランドブルーアイシャークの魔石を渡し、俺はベッドに潜り込んだ。本当は続けて大沼毒蛙の魔石の加工も行うつもりだったけどもう限界だ。1時間くらい仮眠を取らないと集中できない。
マリーが魔石を持って部屋を出て行ったのと同時位に、俺は睡魔に体を預けた。
少し眠ってスッキリとした俺は、起こしてくれたアンナさんにお礼を言って、再びナイフを手に取った。
俺が2つの魔石加工を終えた頃、マリーが現れた。
木製のカバーで覆われ、一回り大きく成長したグランドブルーアイシャークの船外機をぷかぷかと浮かべながら。
「リオネラさんの舟に合わせて、榧の材木で作った方が良かったでしょうか」
今回の船外機は王都内で簡単に手に入った檜で作ってもらった。俺は檜も悪くないと思うけどね。統一感も大事だけど、今回は榧を手に入れる事が出来ないから仕方ない。一度舟に乗せてみて、耐水性や耐久性に問題があるのなら変えればいいし、舟の性能次第では金属製でも試してみたいしね。
「では操縦用の魔導具と出力調整用の魔導具の方を仕上げますので、どのような形にするか教えてください」
マリーは疲れた様子を見せず次の作業をと言って来るが、ちゃんと寝たんだろうか。
「大丈夫です。ちゃんと休みましたよ。それよりも早く作らないとこっちが間に合わなくなりますよ」
分かった。それならお願いしよう。
操縦用は車のハンドルをイメージした形を伝えた。ハンドルを回すことで船尾の船外機が連動して動き、水流の出力方向を変えて旋回させる予定だ。
出力調整用はレバータイプにした。レバーを前方に倒すと船外機が水流放出量を上げて加速する。中央に戻すと放出が止まる。更に後方にぐっと引き戻すと噴出の向きが180度変わり、後方へ進むことを可能にした。
これも一応檜で作ってもらう。耐久性に問題があるなら金属に変えようかなと思っていることを伝えた。特に出力調整のレバーが壊れたら大変なことになるからな。
マリーは俺の目の前でパパッと草木魔法を行使し、魔導具を完成させた。俺が伝えたイメージ通り、魔石を包み込む小さな木箱に片方にはハンドルを、もう片方にはレバーを取り付けた物が出来上がった。
マリーも草木魔法が上手くなったな。材木同士の継ぎ目が分からなくなるほどに仕上げが綺麗だ。
完成した魔導具達を見て、舟に乗せる前にきちんと連動して動くか試したいと思ったが、それを試す方法を何も考えていなかった。リオネラさんの舟が無くても試せるように用意しておけば良かった。
今更何かを準備する時間も無く、少し失敗したなと思いながら、俺は3つの魔導具の最終チェックを行った。
確認を終えたのちに2人で日課のラジオ体操を行い、アンナさんが用意してくれていた朝食をかき込んだ。本当なら今日はランニングをする日なんだけど、流石にそれをやる時間は無い。真っ暗な中走るのも危ないから取り止めた。
準備を済ませた俺達は飛行魔法で造船所に向かって出発した。ルトガーさんに船外機を運んでもらい、マリーは魔導具を2つ持ち、俺はアンナさんに抱えられて。
日中は温かくなってきた5月上旬だが、日の出前はまだ冷たい風が吹く。お腹が膨れて眠気が再燃しかけていたが、俺は眠気が風に飛ばされていくのを感じていた。




