第39話 俺はリオネラさんの熱い語りを受け止める
新しい舟が欲しくて造船所に来たという俺に、違うと返すリオネラさん。
リオネラさんの言いたいことが分からなくて困っていると、仕方ないですねとマリーが答えを言ってくれた。
「ゲオルグ様はソゾンさんに勝つために、新しく考えた船外機を搭載出来る舟を求めて、此処に来たんです」
はい、その通りです。
だから、新しく舟を作ってもらおうと。
「そうです。マリーちゃんの言う通り、ゲオルグ君は新作の船外機を試すことが一番の目的なんです」
はい、そうです。
だから、新しく舟を作ってもらおうと。
「えっ、まだ解ってないんですか?」
そう言って非難して来るリオネラさんに、ゲオルグ様は鈍感なんです、とマリーが説明する。
鈍くない。今日は考える事を放棄しているだけだ。
「ゲオルグ君、貴方はどんな船外機を考えたんですか?手を抜いて中途半端な魔導具を作って来たんですか?」
色々な制約は有ったけど、今考えられるベストの魔導具を用意して来たに決まってる。だからそんなに人を憐れんだ目で見るのは止めてくれ。マリーの讒言に惑わされないように。
「その魔導具の力を最大限に引き出す舟を貴方は欲しているのではないのですか?」
それはそうだけど、だからと言ってバカ高い舟が良いて話じゃないでしょ。
「いいですか、まず新しい物を試す時はその時点で最高の物を用意するのが一番だと私は思います。ゲオルグ君が最高の魔導具を作ったというのなら、私も最高の舟で答えなければなりません。もちろん、利用目的をきちんと把握したうえでの最高の舟です」
細い腕をぐっと振り上げて、リオネラさんは力強く語っている。
「もし、ゲオルグ君がこの造船所以外の誰かに頼んで作らせた舟が中途半端な設計で、魔導具の性能を最大限生かせなかった場合、例えば最高速度で走らせると舟が自壊するとか、速度が乗った状態で全く曲がれないとか、そうなった場合はどうしますか。もしかして、魔導具の性能を制限するとか考えだすんじゃないですか?」
競艇に参加出来なきゃ意味が無いから、そうなると思うよ。
「本当にそれでいいんですか?ものづくりの先輩としてその発言は見逃せませんよ」
どんどんと興奮して熱く話し出すリオネラさんを見て、そういう一面もあるんだなと正直驚いた。
「私はゲオルグ君の魔導具の性能を最大限に引き出す舟を用意しました。先ずはこれに魔導具を搭載し、自分の魔導具の限界を調べるべきです。まだ競艇の詳しい内容は決まってないんですから、まだ性能に制限を掛ける段階じゃないんです。原価が高すぎて売れないというのなら、売る段階になって考えればいいんですよ。もしかしたら、直線だけの最高速度勝負、とかになって急速旋回する機構が要らなくなるかもしれません。そうなったら要らない部分を排除して廉価版を作ればいいんですから。私はその考えを伝えるために、この舟を作ったんです」
マリーがリオネラさんの考えに賛同して、先行試作機は最高の一品で有るべきです、とかなんとか分かったような事を言っている。
「ゲオルグ君が考えた最高速度を苦も無く達成出来る舟は、最高速度でコーナーに突入しても信頼出来る舟は、この舟だけだと、私は自信を持って言い切れます」
演説然として拳を振り上げるリオネラさんに、従業員から拍手が送られる。マリーも一緒にやっているようだ。ダニエラさんとロジオンさんは頭を抱えてしまっている。
確かに、自分が作った魔導具の性能を確かめたい。
下手な舟に乗せると、舟の性能にばかり目が行って魔導具の改善点が分からなくなるかもしれない。もうこれでいいかと妥協してしまうかもしれない。きっとリオネラさんはそういうのが許せなかったんだろう。
リオネラさんの熱い職人魂を信じて、俺はリオネラさんの主張を受け入れる事にした。
「どうですか、かっこいい私を見て惚れましたか?」
万雷の拍手を背に受け、リオネラさんがルトガーさんに言い寄ろうとする。その姿を見たらやっぱり信じない方が良いかなと思っちゃうな。
「では明日の早朝から船外機を乗せて舟を走らせますからね。日の出前に造船所に来てください」
は?そんなに早くから?
王都内の川を走る船舶が少ない時間帯を利用しようとしているのかな。
「ふふふ、王都では走らせませんよ。走らせるのに最適な場所を確保してますから、そこに移動する為です」
明日のお楽しみだよと悪戯っ子の表情を見せる。従業員の一部がざわざわと騒いでいる。あの顔がファンの間では人気があるみたいだ。
リオネラさんの考えを聞いて俺も考えを改めた。最初から安価に作るとか色々な制限を課して船外機を考えて来たけれど、一旦それは置いておこう。最高の舟を用意したリオネラさんをがっかりさせることは出来ない。俺も、制限を取っ払って、今出来る最高の船外機を用意しようじゃないか。




