第16話 俺は魔法を教えてもらう
最近、姉さんはずっと悩んでいる。
水魔法を上手く使えないのが原因らしい。
お祭りが9月、姉さんが受ける魔力検査は来年の3月。もう時間は多くない。それなのに、なかなか思ったように水を操作できないらしい。
水魔法は大人でも難しいとマルテが言っていた。
悩んでいる姉さんを見て、思いついたことを言ってみた。
「ぎょじんにみずまほうをならったら?」
誕生日に貰ったナイフはドワーフの鍛冶屋に教わったんだよね?得意な人に教わるのが上達の近道。水と言えば魚人族だよね。
俺の言葉を聞いた姉さんは、その手があったかと言って飛び出して行ってしまった。言葉通り空を飛んで行ったけど、魚人族に知り合いでもいるんだろうか。俺はついていけないからどうしようもない。一応アンナさんに報告しておこう。
実はお祭りで魚人族の屋台に行った時、店主が経営している食堂の場所を聞いていたんだ。また食べに行きたかったからね。そこの店主から水魔法を教えてもらうか、誰か紹介してもらおうと思ってたんだけど。まあ姉さんに知り合いがいるんだったら、そっちの方が頼みやすいか。
頑張っている姉さんに触発されて、俺とマリーも魔法を教えてもらうことにした。先生はマルテ。まずは火魔法から教わることになった。火水風土の四属性の中で火が最も覚えやすい魔法らしい。
まずは自分の身体の中に魔力があることを感じる。魔力は目に見えない物だが、人は魔力を持って産まれる。人だけでなく、動物にも植物にも魔力はあるらしい。
その魔力を自分の身体から放出し、各属性に変換する。もしくは放出した魔力で自然にある属性を操作する。土魔法や水魔法は自然に存在する物を操作する方が楽だとのこと。
体内の魔力を感じ、魔力を放出して、何かしらの現象を引き起こす。この一連の流れをイメージすることが大切らしい。特に最期のところが難しく、姉さんはここで躓いている。なかなか魔力で水を掴んで操作することが出来ないらしい。水を掴むって発想が、俺にもよく分からない。
それよりも先に魔力を感じることだな。マギー様は俺の魔力を使って治癒魔法を発動させると言っていたから、俺の身体に魔力があるのは確実だ。どこにあるんだろう。脳かな、お腹の中かな。何も感じられない。
「正解は赤血球の中だ。血流に乗って全身に魔力を供給する為にな。ただし、植物や菌類は違うぞ」
悩んでいると脳内に言葉が響いた。
「ええっと、マギーさまですか」
声と喋り方から類推。近くで魔法の練習をしているマリーを驚かせないように小声で返答する。
「そうだよ、急に回線を開いて悪いね。声に出さなくても脳内で考えるだけで通じるから」
それは助かる。1人でぶつぶつ喋るやばい奴にならなくてすむ。
「何か御用ですか?」
「ああ、遅くなってしまったが、お祭りの時のお礼と質問の答えを言いにな。シュバルトとアマちゃんにお供物をありがとう。2人とも喜んでいたよ」
「そうですか、シュバルト様も甘いジャムを気に入ってくれたなら嬉しいです」
「普段は米派だけど、ジャムが気に入ったんだろうな、最近はパンをよく食べているぞ」
「米?米がこの世界にもあるんですか?」
「ああ、あるぞ。昔、桃馬と同郷の者が転生しようとした時、どうしても米を食べたいって言うからこの世界で稲が自生している所を探して、そこに転生させてやったんだ。色々いい能力を提示したのに、稲作に便利な能力を選んだ面白い奴だったよ。そいつが住んでいた村から今も1年に1回お供物が届くんだ。米を使った酒だが、美味いぞ」
これは嬉しい情報を聞いた。酒を作れるほど米を栽培しているところがあるなんて。そんなに米に執着していた転生者なら、醤油や味噌も作っているかもしれない。
「その村ってどこにあるんですか?米は出荷してないんですか?醤油や味噌はありますか?」
「お、おう、なんか必死だな。その感じ、昔のあいつを思い出すよ。米を作ってる村は桃馬の住んでいる所とは別の大陸だ。その大陸内では狭い範囲で少量流通しているけど、そこでも主食はパンだから、そんなに売れてない。残念ながら君のいる大陸に稲は自生していないから、欲しいならなんとかして取り寄せるしかないな」
うーん、すぐには手に入らないか。残念。
「醤油と味噌も作ってるけど、売っている範囲は米と同じような感じだな。桃馬の大陸にも大豆はあるから、頑張れば作れるんじゃないか?」
作り方知りませんって。
「色々詳しいんですね」
「自分の世界のことだからな。それに私達も美味しい食べ物を食べるのは好きなんだよ。地球から来る転生者にはそういった面でも期待しているんだぞ」
もう少し大人になったら色々お供えするから、2歳にはそんなに期待しないください。
「話を変えますが、質問の答えというと、窒息の件ですか?」
これ以上米や醤油の話を聞くと、気が狂いそうだ。
「そうだ。一般人よりは長く息を止めていられるだろうが、最終的には窒息死する。それは人が外部から酸素を取り込まないと生きていけないからだ。因みに栄養や水分も摂取しないと死ぬから気をつけろよ」
やっぱりダメか。痛覚はどうなんだろう。
「痛みを感じるのは生き物として正常な反応だ。桃馬に使っている魔法は、身体を正常な方向に持って行く魔法だと考えてもらっていい。痛覚を遮断したいなら別の魔法が必要になる」
そうか、思った通りにはいかないな。
「赤血球の中にヘモグロビンって言うタンパク質があるのは知っているか?それが酸素と結合して全身を周るんだ。この世界の動物の赤血球にはもう一つ、マギグロビンというタンパク質も存在する。そいつが呼吸によって大気中の魔力元素と結合するんだ。そして必要な時に魔力元素を切り離し、魔法に使われる。心肺機能が高い人間は必然的に魔力元素の取り込み量も増えるから、魔法も強くなるぞ」
「魔法に使うため放出する時も、呼吸ですか?」
「いや、口でも鼻でも指先でも、どこでもいい。全身に魔力元素は行き渡っているはずだからな。自分が想像出来るならどこでも。まあこの世界では一般的に掌だな。そこが一番集中しやすいんじゃないか?」
なるほどなるほど。いい話を聞いた。いい機会だから、もうちょっと質問してみよう。




